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夢
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もうどのくらいこの世界を彷徨っているのか分からない。数分かもしれないし数年かもしれない。どちらにせよ私はこの世界から出ることを拒んでいる。
『ユー。大丈夫ですか?』
心配そうに私の顔を覗き込む、金色のような白色のような美しい色を放つ愛しい彼に笑いかける。
「大丈夫。少し疲れただけ」
『いつものが必要ですか?』
そう言う彼の瞳は少し期待に輝く。こうしないと私の体力も、彼の美しい身体も保つことはできない。
「そうね、少しだけ頼める?」
彼は静かに頷き私の顎を軽く持ち上げると優しく接吻した。
「ちょ、ちょっと!何してるの!?」
今日この世界に迷い込んだであろう男の子が手で顔を覆いつつ指の隙間から私達を見つめながら言った。
『…そうでした。こいつがいました』
残念そうにする彼が可愛らしくて微笑みかける。
「また後で頼むわね。シュトラール」
不思議そうに私達を見つめる少年に笑いかけると、少年は少し頬を染めて目を逸らした。
「あの、それで、ここはどういう?」
恥ずかしくなったのか口早に尋ねてくる。
「ここは夢の世界。現実から逃げたくなった人たちが辿り着く場所」
「夢…?」
「この世界は形が不明瞭な場所が多いでしょう?不思議な感覚が常に体に纏わり付く」
もう長いことここに居る気がする。何人も迷い込んできて助けて、皆が帰って行く。そんなに現実へ帰りたいものだろうか。
「ここに来るのはみんな現実が嫌になって逃げ出した子達。自殺しようとした子が多い。君もそう?」
そう問うと少年はバツが悪そうに俯いた。肯定と受け取って話を続ける。
「私はこの世界に初めて来た人間。あの黒いモノは夢に負けた子の残骸。そしてシュトラールは、私の分身のようなもの」
訳が分からないと黙り込む少年にもう一度笑いかけてシュトラールを呼ぶ。
『ユー。どうかしましたか?』
「なんでもないの。ただ、あなたが居てくれてよかったと思っただけ」
「二人は、恋人?」
やっと口を開いたと思ったらそんなことを聞く。
「恋人なんてものじゃないわ。シュトラールは私。私はシュトラール。私がこの世界に来てからずっと在り続けるもの」
「ふぅん…。この世界からは出られるの?」
「出られる。夢に負けさえしなければ」
「キミは、夢に負けたから、ここにいるの?」
『少年。それは違います。ユーは夢に勝ち続け、自分の意志でここに居るのです』
私がこの世界に居続ける理由はいくつかある。その1つは紛れもなくシュトラールのため。現実へ帰ると私とシュトラールは確実に離れ離れだろう。
「シュトラール、は、人間じゃないよね」
「簡単に言うとシュトラールは私の勇気、希望そのものが具体化したものなの。私が望む姿をして、私の側に在り続ける。だから現実に帰ると消えてしまう」
『ユーはわたしと居続けるために、この世界に留まってくれています』
「私が、離れられないだけなのだけれどね」
そんなことないよと優しく撫でてくれるシュトラール。
「僕は現実には帰りたくないよ」
「皆初めはそう言うの。けれどね、夢に負けた子達の残骸はあらゆる所で発生して、生きている形あるものに取り憑いてくる。それを繰り返したとき、あなたはここにいることか、現実に帰ることどちらがいいか決められると思う」
「そうなんだ…えーと、キミは、どのくらいここに?」
「ユーって呼んで。私はもうずっとよ。ここには時間の概念がないから、もしかしたら数年。もしかしたら数時間。そんな感じ」
少年は今聞いた話を色々と纏めているみたいだった。若い彼が死のうとした理由もこの世界に来た理由も興味は無いけれど、私とシュトラールの世界に誰かがいるのはあまり気分が良くない。
「私は初めからここに居るけれど、この世界がどうやって存在しているかは知らないの。あなたと同じように気がついたらここにいて、気がついたらシュトラールがいて」
「ユーも、死のうとしたの?」
気を遣ったような聞き方になんだか可愛らしく思えて目を細めた。
「よく覚えてないけれど、死のうとはしていない。明確に覚えていることは、私の両親が私を実験に使ってる事くらい、かしらね」
「実験?」
私が推測するに、ここに来る子達は皆、両親の何かしらの実験を受けているのではないかと思っている。死のうとして死にきれなかった子達。殺されそうになって、生きたいと思っている子達。夢に勝った子達は浄化されるみたいに光になって消えていく。負けた子達は…
『ユー。来ました』
「全く、今日は忙しいのね」
シュトラールの言葉と同時に目の前が淡く光、渦になり、その子は現れた。
「こ、れ、さっきの!」
少年は驚いて腰を抜かしたみたいだった。
「いらっしゃい。メータ」
私は黒く泣き叫ぶこの子達を"覇者"と呼ぶ。浄化して現実に帰った子達よりよっぽど、自分たちの意思を持ってそれを主張して生きたいと願っている。それを許さない両親はなんて下劣な人間なのだろう。
『ユー』
「えぇ」
"beaucoup de bonheur"
私の願いとこの子達の願いを無駄にしないための唱え言葉と、シュトラールの光の剣によって切り裂かれたメータは強く叫び声を上げながら消えていく。消えた後現実ではおそらく死が待っている。
「あなたのように形を保ったままこの世界に居続けているのは珍しいのよ」
メータの叫び声に耐えられなかったのか、耳を塞いで縮こまってしまった少年を寝かせて優しく頭を撫でた。
「…あなたは、どっち?」
不明瞭に移り変わる世界。メータや私達の声がしなければ不気味なくらいに静かな世界。明るく光っているのはシュトラールの翼だけ。どこの何の光か分からない淡いふわふわとしたものは消えたり付いたりと忙しない。
「私は、﹣﹣﹣」
‐ 夢 ‐ fin.
『ユー。大丈夫ですか?』
心配そうに私の顔を覗き込む、金色のような白色のような美しい色を放つ愛しい彼に笑いかける。
「大丈夫。少し疲れただけ」
『いつものが必要ですか?』
そう言う彼の瞳は少し期待に輝く。こうしないと私の体力も、彼の美しい身体も保つことはできない。
「そうね、少しだけ頼める?」
彼は静かに頷き私の顎を軽く持ち上げると優しく接吻した。
「ちょ、ちょっと!何してるの!?」
今日この世界に迷い込んだであろう男の子が手で顔を覆いつつ指の隙間から私達を見つめながら言った。
『…そうでした。こいつがいました』
残念そうにする彼が可愛らしくて微笑みかける。
「また後で頼むわね。シュトラール」
不思議そうに私達を見つめる少年に笑いかけると、少年は少し頬を染めて目を逸らした。
「あの、それで、ここはどういう?」
恥ずかしくなったのか口早に尋ねてくる。
「ここは夢の世界。現実から逃げたくなった人たちが辿り着く場所」
「夢…?」
「この世界は形が不明瞭な場所が多いでしょう?不思議な感覚が常に体に纏わり付く」
もう長いことここに居る気がする。何人も迷い込んできて助けて、皆が帰って行く。そんなに現実へ帰りたいものだろうか。
「ここに来るのはみんな現実が嫌になって逃げ出した子達。自殺しようとした子が多い。君もそう?」
そう問うと少年はバツが悪そうに俯いた。肯定と受け取って話を続ける。
「私はこの世界に初めて来た人間。あの黒いモノは夢に負けた子の残骸。そしてシュトラールは、私の分身のようなもの」
訳が分からないと黙り込む少年にもう一度笑いかけてシュトラールを呼ぶ。
『ユー。どうかしましたか?』
「なんでもないの。ただ、あなたが居てくれてよかったと思っただけ」
「二人は、恋人?」
やっと口を開いたと思ったらそんなことを聞く。
「恋人なんてものじゃないわ。シュトラールは私。私はシュトラール。私がこの世界に来てからずっと在り続けるもの」
「ふぅん…。この世界からは出られるの?」
「出られる。夢に負けさえしなければ」
「キミは、夢に負けたから、ここにいるの?」
『少年。それは違います。ユーは夢に勝ち続け、自分の意志でここに居るのです』
私がこの世界に居続ける理由はいくつかある。その1つは紛れもなくシュトラールのため。現実へ帰ると私とシュトラールは確実に離れ離れだろう。
「シュトラール、は、人間じゃないよね」
「簡単に言うとシュトラールは私の勇気、希望そのものが具体化したものなの。私が望む姿をして、私の側に在り続ける。だから現実に帰ると消えてしまう」
『ユーはわたしと居続けるために、この世界に留まってくれています』
「私が、離れられないだけなのだけれどね」
そんなことないよと優しく撫でてくれるシュトラール。
「僕は現実には帰りたくないよ」
「皆初めはそう言うの。けれどね、夢に負けた子達の残骸はあらゆる所で発生して、生きている形あるものに取り憑いてくる。それを繰り返したとき、あなたはここにいることか、現実に帰ることどちらがいいか決められると思う」
「そうなんだ…えーと、キミは、どのくらいここに?」
「ユーって呼んで。私はもうずっとよ。ここには時間の概念がないから、もしかしたら数年。もしかしたら数時間。そんな感じ」
少年は今聞いた話を色々と纏めているみたいだった。若い彼が死のうとした理由もこの世界に来た理由も興味は無いけれど、私とシュトラールの世界に誰かがいるのはあまり気分が良くない。
「私は初めからここに居るけれど、この世界がどうやって存在しているかは知らないの。あなたと同じように気がついたらここにいて、気がついたらシュトラールがいて」
「ユーも、死のうとしたの?」
気を遣ったような聞き方になんだか可愛らしく思えて目を細めた。
「よく覚えてないけれど、死のうとはしていない。明確に覚えていることは、私の両親が私を実験に使ってる事くらい、かしらね」
「実験?」
私が推測するに、ここに来る子達は皆、両親の何かしらの実験を受けているのではないかと思っている。死のうとして死にきれなかった子達。殺されそうになって、生きたいと思っている子達。夢に勝った子達は浄化されるみたいに光になって消えていく。負けた子達は…
『ユー。来ました』
「全く、今日は忙しいのね」
シュトラールの言葉と同時に目の前が淡く光、渦になり、その子は現れた。
「こ、れ、さっきの!」
少年は驚いて腰を抜かしたみたいだった。
「いらっしゃい。メータ」
私は黒く泣き叫ぶこの子達を"覇者"と呼ぶ。浄化して現実に帰った子達よりよっぽど、自分たちの意思を持ってそれを主張して生きたいと願っている。それを許さない両親はなんて下劣な人間なのだろう。
『ユー』
「えぇ」
"beaucoup de bonheur"
私の願いとこの子達の願いを無駄にしないための唱え言葉と、シュトラールの光の剣によって切り裂かれたメータは強く叫び声を上げながら消えていく。消えた後現実ではおそらく死が待っている。
「あなたのように形を保ったままこの世界に居続けているのは珍しいのよ」
メータの叫び声に耐えられなかったのか、耳を塞いで縮こまってしまった少年を寝かせて優しく頭を撫でた。
「…あなたは、どっち?」
不明瞭に移り変わる世界。メータや私達の声がしなければ不気味なくらいに静かな世界。明るく光っているのはシュトラールの翼だけ。どこの何の光か分からない淡いふわふわとしたものは消えたり付いたりと忙しない。
「私は、﹣﹣﹣」
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