世界

鈴江直央

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光と闇

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 気がつくと僕は柔らかい膝の上で寝かし付けられていた。そういえば、どうしたんだっけ。
「気がついた?おはよう」
 僕の顔を覗き込み微笑むこの少女はユーと言った。微笑みは温かいし膝も柔らかいけれど、恐ろしいほど冷たいこの子は何なのだろう。
「あ、僕、ごめんなさい」
 慌てて起き上がり謝罪する。シュトラールが不満そうに翼を震わせていたからだ。
「もう大丈夫?そういえば、あなたの名前聞いていなかったわ。名前は?」
「僕はフォンセ」
 名乗った瞬間、ユーの雰囲気がガラリと変わった。
「ユー?大丈夫…?」
『私は光。あなたは闇ですか』
「何かあるのかも知れないわね」
 ユーは呟くとふらりと立ち上がった。
「ずっと、ここに来てからずっとよ。何かに見られている感覚。監視されている感覚。なるほど、そういうこと」
 出会ってから絶えることのなかったユーの微笑みが消え、歯を食いしばりどこかを睨みつけている。
「どこにいても私は自由ではないの」
『ユー。ですがここでなら邪魔は入りません』
 シュトラールがユーを包み込むように抱きしめると、先程のユーの緊張した雰囲気が解けた。
「私は私なのかしらね」
 寂しそうに笑うユーに僕は何も言えなくなってしまう。僕は何か力になれないかと思案する。と言ってもあの黒いモノの声を聴くと気を失ってしまうし、どうしたらいいものか。そんなことを考えているとふと視界が暗くなった。何かに絡みつかれる感覚に襲われる。
「フォンセ!」
 ユーの声が聞こえた。シュトラールも何か言っている。でも何も聞こえなくなり視界も暗い。
【主、主、ヤットキテクレタ】
 脳に直接語りかけられ、身体がビクリと強張る。
【主、ボクタチ主マッテタ。ボクタチ主必要。ドコニモイッチャダメ】
「僕、僕は…、」
 深い深い海の底に落ちていくような、身体が重たくなるのに不思議と浮いているような、案外悪くないな、とさえ思ってしまうこの状況に思考が止まる。
【主、ボクタチ助ケテ。ハヤク助ケテ。マッテル】
 その言葉を最後に一気に奪われていたものが返ってきた。思考、視覚、聴覚。一瞬の出来事で目眩がした。
「フォンセ、大丈夫?」
『今のは、彼らは何を…』
「シュトラールが光、フォンセが闇。そして今のは、浄化される子達。光が闇を、闇が光を制す…」
 ユーが考え混んでいるうちに僕はまた意識を手放した。

「ねぇ、シュトラール。もしかしたら私はものすごく駄目な思い違いをしていたのかも知れない」
『どういうことですか?』
 シュトラールが光としてメータを消すことは現実での死かと思っていたが、そうだ、浄化する子達は、何故浄化する?メータ達はシュトラールに斬られる事によって消滅する。浄化する子達はメータになる狭間で戦って己に勝つことによってそうなるのだと思っていた。しかし、何かが引っかかる。
「この子は闇の子。どんな経由でここに来たにせよ、彼らに必要な存在である事に変わりはない。だけど、フォンセには何ができるの?」
 しばらく眠ったままのフォンセを撫でながら考える。私には何か、重要な何かが欠けている。そう例えば、自分の本当の名前を思い出せない、とか。両親は本当はどんな人たちなのかとか。 
『ユー。フォンセに何か出来るなら、フォンセと浄化人の今後の関わり方を見るしか無いのでは?』
 いつも冷静で居てくれるシュトラールに私は安心する。それと同時にいつまでもここに居るわけには行かないという焦りが顔をもたげる。
「不思議な事ばかり起こるこの世界に初めから居たのは私、次にシュトラールがいつの間にか側にいて、今度はフォンセ。光と闇の世界…。浄化の子達も、メータ達もどこへ行くの?」
 思わずため息が出る。この世界に来てから分かったことは、ここが夢の世界で、彷徨うモノが居て、私は何かで、シュトラールは私の分身のようなもの。この世界で出来る事が何かあるのだろうか。ただ、帰りたいと思わないのは、現実世界で私は恐らく死にたいと思うほどの何かをされていた可能性が高いし、思い出せはしないけれど胸に上がる気持ち悪さはリアル過ぎて、帰ることを身体が拒否している。
『ユー。考え過ぎはよくありません。私があなたと居る間は何も心配しないで』
「シュトラール…ありがとう」
 体感的に1日が過ぎたであろう時間になると、シュトラールはよく翼を震わせる。それが合図みたいに。
「少し待つって事も大事よ?」
『今日は邪魔が入りすぎました。もう待てません』
 力強く抱き寄せられ彼と触れ合うこの時間だけが、私の身体が唯一温まる時。こうすることで互いの体力や形を保っていられると分かったのはこの世界に来ていつだったか。何かを食べると言う行為もしなくていい世界ではあるけれど、それを抜きにしても私の身体は冷えていく一方でシュトラールによく心配をかけている。
「ねぇ、シュトラール、私は私でいたいだけなの」
 小さく呟いてみる。
『ユー。分かっています。今は私のことだけを考えて』
 優しい接吻にシュトラールの想いが込められている事が分かる。いつか、離れなければならない時が来るだろうか。その時私はどうなるのだろう。私の全てであるシュトラールさえ居れば他に何も要らないというのに。

「私は、あなたの‐‐‐」

             ‐ 光と闇 ‐ fin.
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