世界

鈴江直央

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女神

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【主オキテ。主オネガイ。ボクタチヲあれカラ守ッテ】

 声に導かれて目を覚ますともう数日は経ったであろう不明瞭なこの世界が飛び込んできた。
「フォンセ起きた?おはよう」
 少し前は消えそうな弱々しい笑顔だったのが、今は元気になって活力があるユー。その後ろには一段と輝きを放っているシュトラールがいる。
「なんだか、よく夢を見ている気がする」
「…夢ね」
 夢の世界で夢なんてよく考えたらおかしな話だが、僕はなんのためにここにいるんだろう。死にたくて……、待て、僕はなんで死にたかったんだっけ。どうやってここに来た?僕は何者だ。
『ユー。フォンセの様子が少し変です』
 事あるごとにメータが襲ってくる。その事に恐怖は感じなくなった。むしろ、目の前で光となって消えていく浄化人の方が、僕には悲しく叫んでいるように見えた。この世界は存在していて良いものなのだろうか。
「フォンセ?何を考えているの?」
 ユーの冷たい手が頬に触れて驚いて顔を上げる。シュトラールの輝きがユーを照らして、優しく微笑む彼女はまるで、
「デエス…」
 思わず呟くとユーは驚いた顔のまま固まってしまった。かと思うとみるみる瞳に涙が浮かんだ。
「ゆ、ユー!ごめん、僕、」
「違う、違うの、ごめんなさい」
『ユー。もしかして、あなたの名前は…』
 ユーはしばらく黙っていたが、口元をきゅっと引き締めると頷いた。
「思い出した。私の名前はデエス。…なんておこがましい名前かしらね」
 皮肉に言うとユーはまた何か考え込んだ。

【主ィ。ハヤク守ッテ。アノコヲ……テ】

 不意に聞こえた浄化人の声に周りを見渡すが、その形は無い。光は闇を、闇は光を制すとユーは言った。では、僕がユーやシュトラールに何か制裁を下すのかだろうか。この世界に来て何も求めず助けてくれた彼女らを?

【主ガヤラナキャ、ボクタチズットコノママ。死ニタクナイ死ニタクナイ】

 まるで僕の心の中から湧き出るかのような言葉。やるって"何"を?彼女たちがメータ達にしていることは、良くないこと?でも、やらなければ恐らく彼らと同じ道に迷い込む。
「ねぇフォンセ。あなたには浄化人の声が聞こえるのよね。なんて言ってるの?私達には唸っているようにしか聞こえない」
「…主やっと来てくれた、助けて守って、死にたくないって言ってる」
「じゃあやっぱり、浄化人が光となって消えていく先に待っているのは死なのね」
『メータ達もそう言って消えていきます』
「私には、何が、誰が正しくて間違っているのか分からない。だからこそ思う事はある。今この瞬間私は私と言う意識を持ってるのであれば、向かってくるあの子達を受け止めなければ行けない」
 ユーは何か決心したように立ち上がった。シュトラールが察したようにユーの前に立ちはだかる。
「退きなさい。シュトラール」
『いいえ。あなたの考えは私の中にも流れ込みます。ですから何をしようとしているかも分かります。私はそんなことは望んでいません』
 二人はしばし見つめ合った。何となく、ユーが何をするのか分かった。だから僕は、あちこちと消えては現れるこの世界の端へ走った。
「フォンセ!?」
 ユーがするくらいなら僕が堕ちよう。それが光を支える闇の仕事。
「ねぇ!女神様!僕がここに来た理由があるとするならそれはきっと、二人を救うためだよ。互いが互いを制するんじゃない。支え合うんだ」
 夢の世界の端なんて本当にあるとは思わなかったが、すぐに見つかった。分かりにくくはあるが徐々にこの世界は崩れかけている。
「僕達には何か欠けたところがあるよね。メータ達は気付けなかっただけ。周りには少なくとも誰かがいてくれる事」
「フォンセ、待って、駄目!」
「気付いて女神様。大丈夫だよ。シュトラールも僕も消えない。帰って来て!また会おう」
 僕は精一杯笑顔を浮かべると足元が崩れ上なのか下なのかも分からない空間に飛び込んだ。
「シュトラール!離して!フォンセが、フォンセ!」
 数日か、おそらく数時間か、共に過ごしただけの彼女は、僕に対しても真剣で手を差し伸べてくれる。
「シュトラール、あとは頼んだよ」
 聞こえるかも分からない声量だったのに、シュトラールは頷いたように見えた。それを見届けて僕は不思議な感覚に身を委ね、意識を手放した。

「シュトラール!なんで、なんで助けなかったの!?」
『ユー。…また私達だけの世界です』
 思わず手が出た。彼からそんな事は聞きたくなかった。シュトラールの頬を打つはずの手は冷えて感覚がなく、受け止められた手の暖かさも分からない。
「あなたのその翼は何のためのものなのよ。あなたのその剣はなんのため?」
『ユー。あなたを守るためです』
 あぁ、なんて愛おしくて、なんと憎い。私の"理想"はこんな形だっただろうか。私の"心"はこんな物だっただろうか。
『ユー。気付いてください。私の心と、フォンセの心に』
 気づくも何もあなたは私でしょう、と言いたかった。
『気付いてください。あなたの心に』
 シュトラールは優しく微笑みかけてくれた。どんな時も離れずに居てくれる彼の存在は大きかった。だから、我儘なんて言っていられないと分かった。
『デエス。待っています』
 一段と輝きを増してシュトラールは言った。目を開けているのも辛くなって思わず固く目を閉じる。再び開いた目の前に広がったのはいつもと変わらない夢の世界。
「シュトラール、フォンセ…」
 一人残された夢の世界。
 さぁ、あなたは、私はどうする?

「私は、あなたの夢」

            ‐ 女神 ‐ fin.
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