世界

鈴江直央

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エピローグ

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 この夢の世界の声が全部聞こえる。脳に直接語りかけられる。耳元で囁かれ、肌に当たって行く。一人になってしまったこの世界で私は蹲る事しかできない。不思議とメータ達は居なくなり、声だけが私に届く。救済、希望、憤怒、悲嘆。

【ミミヲスマシテ。キイテ。ミツケテ】

 ふと聞こえた声に顔を上げた。なんだか懐かしい声がした気がした。見つけてあげなければと思ったのに、身体は重く、寒く、言う事を聞かない。私にできる事は何も無い。寂しくて暗くて取り残された悲しい女神。何がしたかったのだっけ?何を求めていたのか。私は何者でなぜここに居る?

【思いダシテ。アナタは一人じゃナイ】

 今度こそはっきり聞こえたその声に目が覚めた。少しの時間しか共に過ごしていないのに、あの子がどこから来て何をもたらすものなのか分からないのに、初めは邪魔だと思ってしまったのに。思い出すとどこかがじわりと暖かくなった。

 不思議な感覚に陥った。寒くて寒くて体の感覚が無かったのに、内側から何かが動く気配。緩やかに、しかし確実に一定のリズムを刻みだす。

【私は消えません】

 耳元で囁かれた声に一際大きく何かが波打った。熱い、と思った。助けてと思った。一人になりたくなかった。

「大丈夫。ゆっくりと深呼吸して、目を閉じて」

 やけにはっきりとしたその声はなんだか自分の声と似ていた。いつしか私の周りには消えたと思っていた夢の子たちが居た。その子達はゆっくりと形を整えていき、"私"になった。

「ここは夢の世界」
『貴女の世界』
【待ってるわ】

 "私"は時折愛おしいあの人の顔や、可愛らしいあの子の顔になった。私が求めていた世界。私が私であろうとした世界。私はこの世界から飛び出さなければいけない。

「私は、あなたの夢。そして世界」

 今や私の鼓動はこの世界に広がり、波打ち、明るく光っている。指先まで流れて疼き出した衝動にじっとしていられず立ち上がる。もう逃げない。逃げるつもりはない。光が割れて弾けた。何かを掴もうとして手を伸ばす。掴めるまで伸ばし続ける。

「デエス!」

 呼ばれた声に目を開けると、温かい緩やかな光が差し込む部屋にいた。心配そうに私の顔を覗き込むのは、愛おしい二人。私はゆっくりと微笑む。

「ただいま」


               ・fin・
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