【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん

文字の大きさ
95 / 1,122
10章

元魔王様と最強のメイド達 9

しおりを挟む
 固く握手を交わしたナキナだったが、直ぐに酔った顔を更に赤くして手を離した。

「ふぅ、妾も大分酔っているようじゃ。水でも貰ってくるかのう。」

 真っ赤な顔を隠す様にジルに背を向けて早足でこの場から立ち去る。

「柄にも無く格好を付けて照れているのでしょうか?」

 その後ろ姿を見てクスクスと笑いながら、今度はキクナが近付いてきた。

「鬼人族の巫女と姫が我に構っていていいのか?」

「当然です。ジル様達が我々を救ってくださったのですから。」

 それにジルの前世を知っているキクナとしては、ずっと自分がもてなしたいと言う気持ちであった。

「庇護を求めてきた者を救うのは昔からしていた事だ。」

 鬼人族以外にも様々な種族が魔王の下に助けを求めてきた。
その中には人族によって召喚された異世界の人族もいた。
しかし誰が助けを求めてきても、魔王は平等に庇護してきたのだ。

「そうですね。だからこそ、敬いもてなすのも庇護された側からすれば当然の事なのです。」

 誰もが自分達を受け入れてくれた魔王に感謝をし敬っていた。

「充分もてなされている。」

「それでしたら良かったです。」

 キクナが少なくなったコップに酒を注いでくれたので、酒を傾けつつ話し掛ける。

「ナキナは今後も鬼人族は森で暮らしていくと言っていた。」

「はい、その予定です。」

「次も都合良く助けられるとは限らないぞ?」

 今回は完全なる偶然である。
帰路の途中に鬼人族の子供を拉致する現場に遭遇したからこそ、結果的に鬼人族を救う事が出来た。
しかしまた同じ様な事が起こったとしても、近くにいなければ助ける事は難しい。

「分かっています。ですが我々鬼人族と言う種族の事を考えれば、あまり人の寄り付かない場所に居を構えるのが一番良いでしょう。」

 戦闘種族とも言える鬼人族は、人族には奴隷として捕まる可能性があり、魔族には天使との戦闘員にされる可能性がある。
他種族と関わってもデメリットが多い事を考えると、ジルの近くで暮らす事は難しい。

「はぁ、…まあ元々は我が原因か。」

 ジルは空を見上げながらそんな事を呟く。

「ジル様?」

「我が勝手に転生した事によって、起こった事だからな。」

 孤独と何もする事の無い時間に耐えられず、ジルは死を選んだ。
しかし魔王の死がきっかけで、世界は大きく変動したと言える。

 その一つが人族による他種族の奴隷狩りだ。
魔王として生きていた頃ならば、庇護下にある者達に対して、そんな事をされれば見逃す筈が無かったのだ。

「そんな事は!我々は充分にジル様に助けていただいていました!恨んでいる者などいる筈もありません!」

 キクナはジルの言葉を否定する様に言う。
鬼人族も庇護を求めて魔王の下に向かった。
そして実際に長い年月を魔王に守ってもらったのだ。
恨みを抱く事はあり得ない。

「ふっ、お前がそう思ってくれるのは嬉しいが、死者の気持ちは死者にしか分からん。我がいなくなった事が原因で不幸な目に遭った者は、確実にいるのだからな。」

「それはっ…。」

 ジルの言葉にキクナも言葉を詰まらせる。
鬼人族も奴隷狩りの被害には遭っている。
それは魔王ジークルード・フィーデンがいなくなった事により起こったと言われれば否定出来無い。

 そしてその奴隷狩りのせいで、キクナは父を失ってしまっている。
魔王ジークルード・フィーデンが健在だったなら、ドクナは今も生きていた可能性もあるのだ。

「悪いな、我も酔っている様だ。」

 つい愚痴を溢してしまった事を謝罪する。
前世を知っている者を前に口が軽くなってしまった様だ。

「ジル様、貴方が感じられている事に対して、貴方に護っていただいた私が何かを言う資格はありません。ですがこれだけは覚えていてください。貴方に護られて今もなお生きている者も数えきれない程いる事を。」

 そう言ってキクナは自分もその一人だと言う様に胸に手を置いた。
自分を含めて魔王の庇護下に入った者は本当に大勢いた。

 人族以外にも世界には魔物と言う脅威もあり、自分達だけでは生きていけない種族も多かったのだ。
そう言った者達を全て受け入れてくれた魔王に皆が感謝していたのは揺るがない事実である。

「そうだな。それを考えれば少しは気持ちが安らぐか。」

 責められても仕方が無いと思ってはいるが、再び死神に殺してもらう直前に戻れたとしても同じ判断をするだろう。
それだけ孤独で過ごした期間、これからも過ごす予定だった期間が精神的に辛かったのである。

「それはよかったです。」

「ジル様、こっちに美味しい食べ物があるのです!」

 遠くで鬼人族達にもてなされていたシキが手を振りながら言ってきた。

「全く、我の気持ちも知らずに呑気な精霊だ。」

 普段と変わらないシキを見て、魔王から転生した件について深く考えている自分が滑稽に思えてきた。

「ふふっ、ジル様の気持ちを知っての気遣いかもしれませんよ?」

「どうだかな。まあ、鬼人族にもてなされる続きといくか。」

 その後はシキの勧める料理を食べ、鬼人族達と語らいながら呑み明かし、大いに宴を楽しんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

RPGのストーリー開始前に殺されるモブに転生した俺、死亡フラグを回避してラスボス助けたら女主人公が現れてなぜか修羅場になった。

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
――死亡フラグのあるモブに転生した。なぜか男主人公の姿で。 王国に孤児院の子供達を殺された少女ミュライトがラスボスのRPG『プリテスタファンタジー』。 物語後半でミュライトと主人公は互いに孤児院出身であることが分かり、彼女を倒した主人公がその死を悲しむ絶望的なエンディングからいわゆる「鬱ゲー」と呼ばれているゲームでもある。 そして、そんなゲームの物語開始前にミュライトと同じ孤児院に住んでいた子供に転生したが…その見た目はなぜか男主人公シュウだった。 原作との違いに疑問を抱くものの、このままストーリー通りに進めば、ミュライトと主人公が戦って悲惨なエンディングを迎えてしまう。 彼女が闇落ちしてラスボスになるのを防ぐため、彼女が姉のように慕っていたエリシルの命を救ったり、王国の陰謀から孤児達を守ろうと鍛えていると、やがて男主人公を選んだ場合は登場しないはずの女主人公マフィが現れる。 マフィとミュライトが仲良くなれば戦わずに済む、そう考えて二人と交流していくが― 「―あれ? 君たち、なんか原作と違くない?」 なぜか鉢合わせた二人は彼を取り合って修羅場に。 こうして、モブキャラであるはずのシュウは主人公やラスボス達、果ては原作死亡キャラも助けながらまだ見ぬハッピーエンドを目指していく。 ※他小説投稿サイトにも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...