春風散らすはさくら花

桜月みやこ

文字の大きさ
8 / 14
side さくら

01.

しおりを挟む
ずっとずっと好きな人がいるの。
産まれた時から隣に住んでる、はーちゃん──市来いちき 春風はるかクン。

小さい頃は私が困ってたり泣いてたりするとすぐに助けに来てくれた、ヒーローみたいな男の子だった。
はーちゃんのお嫁さんになるって思ってたし、ずっと一緒にいられると思ってた。

だけどずっと一緒にはいられないんだって、私は年長さんの年に知った。
私は3月31日産まれ。はーちゃんは4月3日産まれ。

たったの3日。

だけどその3日が、私達にはとっても大きくて高い壁になっちゃった。

どうしてはーちゃんと一緒に1年生になれないのって、泣いて泣いて、パパもママも、多分はーちゃんも困らせた。
1年生になっても最初は学校に行くのが嫌で幼稚園に戻るって泣いて、また困らせて。

はーちゃんが1年生になって一緒に登下校できるようになって喜んだのも束の間、
段々はーちゃんは男の子とばっかりいるようになって、あんまり遊んだり話したり出来なくなって──

中学生になったら、学校の廊下ですれ違った時に会釈とかされるようになって。
"幼馴染"でも"友達"でもなくて、"先輩と後輩"になっちゃった。


中学生になったはーちゃんは勉強が出来て、スポーツもずば抜けてるってわけじゃないけど何でも器用にこなしてるみたいだった。
2年生くらいから背も伸び始めて、何だかどんどんカッコよくなって、同級生や一つ下の女の子からも人気があるみたいだった。

だけど女の子同士でするコイバナは、みんな同級生か先輩か若い先生の話ばっかり。
一度1個下に気になる人がいるって言ってみたら、皆に「年下なんて無い!」って言われて……

だから私は何となくみんなに話を合わせるようになった。

適当に人気のある先輩の名前を上げて、憧れているフリをして。
それが何だか辛くて、だから高校は、女子高なら校内に先生以外の男の人がいないから具体的な名前を出すような事もないかなって思って、女子高を選んだ。

はーちゃんは家から自転車で行ける男子校に進んで──
男子校だから高校の間に彼女は出来ないだろう、なんてどこかで安心してた。

はーちゃんが高校生になった年の秋頃、電車を降りた私は駅前ではーちゃんを見かけた。
はーちゃんは通学で駅前は通らないはずなのにどうしたんだろう、お友達と遊びに来たのかな?なんて思いながら、また背が伸びたみたいでもっとカッコよくなってるはーちゃんに見惚れてた私の目に飛び込んできたのは、はーちゃんの隣で笑ってる女の子の姿。

足元ががらがらーって崩れたみたいな気がして……
気が付いたら部屋のベッドに潜り込んで泣いてた。

はーちゃんに彼女が出来たのなら諦めないとって思って、だけど時々会えるはーちゃんに、やっぱりドキドキして、好きって気持ちしかなくって──

だから大学生になってすぐに、たくさんお化粧の練習をした。

時々会えるその時に、少しでも可愛いって思って貰いたくて。
少しでも「女の子」として見て貰えるようになりたくて。

だけど会えてもはーちゃんは「よぉ」とか「久しぶり」とか「元気か」とか、挨拶だけですぐに家に入っちゃう。

あぁ、やっぱりちっとも女の子として見て貰えてないんだって落ち込んでる私に、健ちゃんは「そんなに気になるなら告れば良いじゃん」って言うけど……
「ハルにぃ今彼女いないらしいよ」とも言ってたけど……

挨拶しかしてないような"ただのお隣さん"に突然告白なんてされても、きっとはーちゃんは困るだろうなって思ったら、やっぱり告白なんて出来るはずもなかった。


ある日たまたま早く家を出た日に前を歩くはーちゃんを見つけて、でも声をかけようか迷っている間にはーちゃんはどんどん先にいっちゃって──
その後も何度かはーちゃんの背中を見送って、結局、やっぱり私は諦めちゃった。



❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊

「早織さんと、旅行?」
「そう、3泊4日で九州旅行!冷蔵庫の中のものは好きに使って良いしお金も置いてくから、悪いけど健吾のご飯よろしくね」

あの子放っておくとロクな物食べないでしょ?というママに分かったって頷いて、そしてはーちゃんはご飯どうするのかな、とか「作りすぎちゃって」とか言って持って行ってみるのはどうだろう、なんて考えちゃって、慌てて頭を振る。


そしてママ達が旅行に出かける日、少し早いけど一緒に出ちゃおうって思って家を出たら──はーちゃんが居た。

ママ達は皆でうちの車で空港まで行くらしくて、寝起きなのか時々欠伸をしながら早織さんの荷物を積み込んでるはーちゃんは、寝癖がついてて眠そうで、普段はカッコイイはーちゃんが何だかすごく可愛く見えたりして。

賑やかに出発して行った4人に手を振って見送って、はーちゃんが家に入るのも見送ろうかな、なんて思ってたら「さくらはこのまま出るのか?」って話しかけられた。

ビックリしながらも、一限からだからって答えて……ドキドキしながらはーちゃんは?って聞いてみる。

「俺は昼から……だけどまぁ、多分家で寝てるかな」
「えぇ??」
「一コマ休講になったから、たった一コマだけのために行きたくねー。金曜は元々二コマの日でさ。親もいないし今日はとことんだらけるつもり」

そう言えば早織さんが少し前に「大学生になって春風はるかの面倒くさがりに拍車がかかった」とかボヤいてたっけと思いながら、それでも早織さんに怒られたらちゃんと行くんだって思ったら、何だかまた可愛く思えて──思わず笑いながら「はーちゃんは仕方ないなぁ」って言ったら、はーちゃんは少しだけ拗ねたみたいな顔をした。

「姉ちゃん、鍵閉めちゃって良いの?俺ももう出るけど」

健ちゃんから声をかけられて、そう言えば健ちゃんも出るんだったって、良いよって答えて、
途切れちゃった会話をもう少し続けられないかなって悩んで、でもあんまり話し込んだら迷惑かもって思って……。

「あの……じゃあ、私そろそろ行くね」
「おう」

またな、なんて手を挙げて見送ってくれた事が嬉しくて、思わず緩むほっぺたを頑張って引き締めながら学校へ行った。


「あ、忘れてた」

家を出る時に聞こうと思ってた夕飯のリクエスト、健ちゃんに聞き忘れたなって気づいて電車の中からメッセージを送ると『すき焼き煮!』って返ってきて、首を傾げる。
健ちゃんはお肉は焼いて食べるのが好きなのに……。
珍しいねって返したら『たまにはそういう気分の事だってあるよ』だって。
そうだっけ?いつでもどんな時でも焼いてるのが好きだった気がするけど……って思いながらも、『じゃあすき焼き煮・玉子入りね』って返したらOKってスタンプで返事が来た。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。 14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。 やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。 女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー ★短編ですが長編に変更可能です。

処理中です...