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04.
しおりを挟むギルベルトはさくさくと下草の鳴る道を歩いていた。
そうしてふと気が付くと、辺りの景色が一変している。
「どうも慣れないな、これは」
独り言ちて、突如目の前に現れた小さな庵の前に立つ。
「入るぞ」
軽くノックをしながら短く告げてゆっくりと庵のドアを開けると、こちらに背を向けていた燃えるような赤い髪の女が振り返る。
「まったく、待ちくたびれたよ。少し遅いんじゃないかい?」
「悪かった。ルネが可愛すぎて離れられなくてな」
「それは何より」
くくっと喉を鳴らした女が調合中だったらしい薬を置くと、ギルベルトの前までやって来て手を差し出す。
「では、代償を」
「本当にこんなもので良いのか?」
ギルベルトは首から下げていたペンダントを外すと、女の手に落とす。
女は受け取ったペンダントを摘まみ上げると、渡した時は透明だった、今やすっかりと真っ黒に染まっている石をしげしげと見つめる。
「あぁ、充分さ。良い具合にどろどろとした”執着”だ」
これなら良質な薬が作れる、とホクホクとしている女に、ギルベルトはふぅんと興味もなさそうに答える。
「では、魔女・ルイーズ。これで俺と貴女の取引は無事終了、か?」
「そうだね。中々面白い取引だったから、あんたならまた願いを聞いてやっても良いぞ?」
「願いではないが──確認したい事がある」
「何だい?」
「ルネの解呪条件は何だ?」
ギルベルトから受け取ったペンダントの石を外して大事そうに空き瓶の中に石を閉まっていたルイーズの手が止まる。
「おや、言ってなかったか──? 第三王子の呪いが解ける条件は、自分の意思でギルベルトから離れる事、さ」
簡単な事だろう?と笑ったルイーズに、ギルベルトはそうだなと笑みを返す。
「じゃあルネはもう男には戻らない、という事だな」
「逃がす気なんてないってやつかい? それとももう堕としたか?」
恐い恐いと言いながらも面白そうに笑っているルイーズに、ギルベルトが呆れたように呟く。
「恐いのは易々と”呪い”など成せてしまう貴女だと思うが──あぁ、それから……ルネの身体は完全に女の物か?」
「完全に女だろう?」
あんたが一番よく分かっているんじゃないか?と言われて、ギルベルトは小さく肩を持ち上げる。
「生殖機能の事だ。見せかけなのか、機能しているのか」
「あぁ、そっちかい。勿論本物だよ。そんな中途半端な事をするはずがないだろう?月の物だって来るし子だって成せる」
「──そうか」
「孕ませたいのなら催淫薬でも出そうか? それとも避妊薬か、堕胎薬の方か?」
クツクツと笑っているルイーズに、ギルベルトはいや、と首を振って口端を持ち上げる。
「催淫薬など必要ないし、いつになるにしろ、ルネには俺の子を孕んでもらうからな──。では、俺はこれで失礼しよう。感謝する、魔女殿」
ギルベルトは恭しく騎士の礼をとると、もう用はないとばかりにさっさと踵を返して庵を後にした。
パタンと閉じた扉を見遣って、ルイーズは手にしたままの瓶の中の黒い石を眺めるとやれやれと笑みを零す。
「私が恐い、ねぇ……。私は少し手を貸しているだけで、本当に恐ろしいのは人間の欲──だと思うけどねぇ」
ルイーズは黒い石を入れた瓶を棚に並べると、さて次に来る客はどんな事を願うのだろうかと薄く微笑んだ。
~~ Fin. ~~
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
あとがき
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