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第一部
20. 決意
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「私を、忘れる……?」
「セヴィ様のこの薬も、同じものです」
「……クードさまの事を、忘れろって、いうの……?」
「覚えていない方が……お互いの為かと……。番を忘れる薬は、この量で六月程の記憶が曖昧になるそうです。こちらで気に入ってらしたお召し物などはご家族が購入なさった事にして頂きます。またお気に召して頂けると宜しいのですが……」
「そんな、の……」
呆然としたように呟いて、そしてセヴィはぎゅっと瓶を握りしめる。
「忘れても……また出逢ったら、同じじゃないの?番は一人だけ、なんでしょう?」
「番のことは匂いで分かるのだそうです。とても甘い香りがするのだとか……ですから、クード様には番の匂いが分からなくなる薬もお飲みいただきます」
「……匂いが、分からなくなる、薬?」
「私はあまり詳しくないので細かい事は分かりませんが。番の匂いを感じ取る嗅覚を麻痺させるのだとか。ですが料理や空気や、そういった普通の匂いを感じる分には何も影響はないのだそうです。ただ番の匂いだけを、感じ取れなくなるのだと、聞いています」
「じゃあ……そのお薬を飲んでしまったら、クードさまはもう二度と、私がクードさまの番だと分からないの……?」
「そういう事に、なります……非道な事を言っていると分かっております。でもセヴィ様。私どもは何をしてでも、クード様をお守りしたいのです」
セヴィの手を握ったまま、祈るようにその手を自分の額に押し付けたカーサに、セヴィはこくんと唾を飲み込む。
「……今から私が、クードさまのお部屋に行ったら、どうなるの?」
ゆっくり、確かめる様に発されたセヴィの言葉に、カーサは慌てて首を振る。
「そんな事……!あの時よりももっとお辛い思いをする事になってしまうかもしれないのですよ?私どもは、セヴィ様のあんな泣き顔だって、もう見たくはありません」
「──それって、まだ間に合うって事、よね?」
「セヴィ様!」
セヴィの言おうとしている事に、カーサが何度も首を振る。
そんなカーサに、カーサが自分のことも大事に思ってくれているのだと思えて、セヴィは小さく微笑んだ。
「カーサさん、私、あの時と違ってもう知ってるわ。クードさまが優しいって。恐くなんてないって。お屋敷のみんなもとっても優しくて、全部全部あったかいって──だからね、例えもっとひどい目に遭ったとしたって、もうあんな風には泣かないわ」
「セヴィ様……」
セヴィは手の中の瓶をカーサに押し付ける様に渡すと、ぎゅっとカーサに抱きつく。
「ありがとう、カーサさん。私、決めたわ。──クードさまのところに、行きます」
カーサの叫ぶような制止の声を振り切って、セヴィは部屋を飛び出してクードの元へと走った。
泣きそうになりながら、必死に足を動かして、
そんなに距離はないはずなのに、何だかちっとも進んでいる気がしなくて、
それでも必死に廊下を走った。
好きになれるって、やっと思い始めていたから
触れてくれる手も、抱き締めてくれる腕も、
セヴィの小さな身体なんてすっぽり収まってしまう大きな身体だって、
恐かったはずなのに、それが温かくて心地いいものなのだと、気付いてしまったから
キスだって……恥ずかしかったけど、だけどもっとしてみたいと、思っていたから───
(お願い、間に合って───!!)
「クードさま!!」
勢いよく飛び込んだクードの部屋でセヴィを出迎えたのは、驚いた顔をしたレナードだった。
「セヴィ様……?いけません、部屋へお戻りください」
慌てたようにセヴィを部屋から出そうとするレナードに、セヴィは首を振る。
「カーサさんから聞きました……。クードさまは、まだお薬は飲んでいませんか?」
「まだです、が……」
テーブルの上に置かれている瓶をちらりと見たレナードの横をすり抜けて、セヴィはテーブルの上に置かれていた小さな二つの瓶を持ち上げる。
そして一度ぎゅっと握りしめると、二つともをレナードの手に落とす。
「レナードさん。これは要らないので……これを持って、部屋から出ていて下さい」
「……ですが……っ」
戸惑ったように、迷うように瓶を握っているレナードの手を、セヴィはきゅっと握る。
「大丈夫です。私ちゃんと、決めました──もう絶対、泣いたりなんてしません」
大丈夫です、とふわりと微笑んだセヴィにレナードは息を飲んで──そして深く頭を下げると、静かに部屋を後にした。
「セヴィ様のこの薬も、同じものです」
「……クードさまの事を、忘れろって、いうの……?」
「覚えていない方が……お互いの為かと……。番を忘れる薬は、この量で六月程の記憶が曖昧になるそうです。こちらで気に入ってらしたお召し物などはご家族が購入なさった事にして頂きます。またお気に召して頂けると宜しいのですが……」
「そんな、の……」
呆然としたように呟いて、そしてセヴィはぎゅっと瓶を握りしめる。
「忘れても……また出逢ったら、同じじゃないの?番は一人だけ、なんでしょう?」
「番のことは匂いで分かるのだそうです。とても甘い香りがするのだとか……ですから、クード様には番の匂いが分からなくなる薬もお飲みいただきます」
「……匂いが、分からなくなる、薬?」
「私はあまり詳しくないので細かい事は分かりませんが。番の匂いを感じ取る嗅覚を麻痺させるのだとか。ですが料理や空気や、そういった普通の匂いを感じる分には何も影響はないのだそうです。ただ番の匂いだけを、感じ取れなくなるのだと、聞いています」
「じゃあ……そのお薬を飲んでしまったら、クードさまはもう二度と、私がクードさまの番だと分からないの……?」
「そういう事に、なります……非道な事を言っていると分かっております。でもセヴィ様。私どもは何をしてでも、クード様をお守りしたいのです」
セヴィの手を握ったまま、祈るようにその手を自分の額に押し付けたカーサに、セヴィはこくんと唾を飲み込む。
「……今から私が、クードさまのお部屋に行ったら、どうなるの?」
ゆっくり、確かめる様に発されたセヴィの言葉に、カーサは慌てて首を振る。
「そんな事……!あの時よりももっとお辛い思いをする事になってしまうかもしれないのですよ?私どもは、セヴィ様のあんな泣き顔だって、もう見たくはありません」
「──それって、まだ間に合うって事、よね?」
「セヴィ様!」
セヴィの言おうとしている事に、カーサが何度も首を振る。
そんなカーサに、カーサが自分のことも大事に思ってくれているのだと思えて、セヴィは小さく微笑んだ。
「カーサさん、私、あの時と違ってもう知ってるわ。クードさまが優しいって。恐くなんてないって。お屋敷のみんなもとっても優しくて、全部全部あったかいって──だからね、例えもっとひどい目に遭ったとしたって、もうあんな風には泣かないわ」
「セヴィ様……」
セヴィは手の中の瓶をカーサに押し付ける様に渡すと、ぎゅっとカーサに抱きつく。
「ありがとう、カーサさん。私、決めたわ。──クードさまのところに、行きます」
カーサの叫ぶような制止の声を振り切って、セヴィは部屋を飛び出してクードの元へと走った。
泣きそうになりながら、必死に足を動かして、
そんなに距離はないはずなのに、何だかちっとも進んでいる気がしなくて、
それでも必死に廊下を走った。
好きになれるって、やっと思い始めていたから
触れてくれる手も、抱き締めてくれる腕も、
セヴィの小さな身体なんてすっぽり収まってしまう大きな身体だって、
恐かったはずなのに、それが温かくて心地いいものなのだと、気付いてしまったから
キスだって……恥ずかしかったけど、だけどもっとしてみたいと、思っていたから───
(お願い、間に合って───!!)
「クードさま!!」
勢いよく飛び込んだクードの部屋でセヴィを出迎えたのは、驚いた顔をしたレナードだった。
「セヴィ様……?いけません、部屋へお戻りください」
慌てたようにセヴィを部屋から出そうとするレナードに、セヴィは首を振る。
「カーサさんから聞きました……。クードさまは、まだお薬は飲んでいませんか?」
「まだです、が……」
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そして一度ぎゅっと握りしめると、二つともをレナードの手に落とす。
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「……ですが……っ」
戸惑ったように、迷うように瓶を握っているレナードの手を、セヴィはきゅっと握る。
「大丈夫です。私ちゃんと、決めました──もう絶対、泣いたりなんてしません」
大丈夫です、とふわりと微笑んだセヴィにレナードは息を飲んで──そして深く頭を下げると、静かに部屋を後にした。
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