番なんて知りません!

桜月みやこ

文字の大きさ
21 / 81
第一部

20. 決意

しおりを挟む
「私を、忘れる……?」
「セヴィ様のこの薬も、同じものです」
「……クードさまの事を、忘れろって、いうの……?」
「覚えていない方が……お互いの為かと……。番を忘れる薬は、この量で六月程の記憶が曖昧に・・・なるそうです。こちらで気に入ってらしたお召し物などはご家族が購入なさった事にして頂きます。またお気に召して頂けると宜しいのですが……」
「そんな、の……」

呆然としたように呟いて、そしてセヴィはぎゅっと瓶を握りしめる。

「忘れても……また出逢ったら、同じじゃないの?番は一人だけ、なんでしょう?」

「番のことは匂いで分かるのだそうです。とても甘い香りがするのだとか……ですから、クード様には番の匂いが分からなくなる薬もお飲みいただきます」
「……匂いが、分からなくなる、薬?」

「私はあまり詳しくないので細かい事は分かりませんが。番の匂いを感じ取る嗅覚を麻痺させるのだとか。ですが料理や空気や、そういった普通の匂いを感じる分には何も影響はないのだそうです。ただ番の匂いだけを、感じ取れなくなるのだと、聞いています」

「じゃあ……そのお薬を飲んでしまったら、クードさまはもう二度と、私がクードさまの番だと分からないの……?」
「そういう事に、なります……非道な事を言っていると分かっております。でもセヴィ様。私どもは何をしてでも、クード様をお守りしたいのです」

セヴィの手を握ったまま、祈るようにその手を自分の額に押し付けたカーサに、セヴィはこくんと唾を飲み込む。

「……今から私が、クードさまのお部屋に行ったら、どうなるの?」

ゆっくり、確かめる様に発されたセヴィの言葉に、カーサは慌てて首を振る。

「そんな事……!あの時・・・よりももっとお辛い思いをする事になってしまうかもしれないのですよ?私どもは、セヴィ様のあんな泣き顔だって、もう見たくはありません」
「──それって、まだ間に合うって事、よね?」
「セヴィ様!」

セヴィの言おうとしている事に、カーサが何度も首を振る。
そんなカーサに、カーサが自分のことも大事に思ってくれているのだと思えて、セヴィは小さく微笑んだ。

「カーサさん、私、あの時・・・と違ってもう知ってるわ。クードさまが優しいって。恐くなんてないって。お屋敷のみんなもとっても優しくて、全部全部あったかいって──だからね、例えもっとひどい目に遭ったとしたって、もうあんな風には泣かないわ」
「セヴィ様……」

セヴィは手の中の瓶をカーサに押し付ける様に渡すと、ぎゅっとカーサに抱きつく。

「ありがとう、カーサさん。私、決めたわ。──クードさまのところに、行きます」



カーサの叫ぶような制止の声を振り切って、セヴィは部屋を飛び出してクードの元へと走った。

泣きそうになりながら、必死に足を動かして、
そんなに距離はないはずなのに、何だかちっとも進んでいる気がしなくて、
それでも必死に廊下を走った。


好きになれるって、やっと思い始めていたから
触れてくれる手も、抱き締めてくれる腕も、
セヴィの小さな身体なんてすっぽり収まってしまう大きな身体だって、
恐かったはずなのに、それが温かくて心地いいものなのだと、気付いてしまったから
キスだって……恥ずかしかったけど、だけどもっとしてみたいと、思っていたから───


(お願い、間に合って───!!)



「クードさま!!」

勢いよく飛び込んだクードの部屋でセヴィを出迎えたのは、驚いた顔をしたレナードだった。

「セヴィ様……?いけません、部屋へお戻りください」

慌てたようにセヴィを部屋から出そうとするレナードに、セヴィは首を振る。

「カーサさんから聞きました……。クードさまは、まだお薬は飲んでいませんか?」
「まだです、が……」

テーブルの上に置かれている瓶をちらりと見たレナードの横をすり抜けて、セヴィはテーブルの上に置かれていた小さな二つの瓶を持ち上げる。
そして一度ぎゅっと握りしめると、二つともをレナードの手に落とす。

「レナードさん。これは要らないので……これを持って、部屋から出ていて下さい」
「……ですが……っ」

戸惑ったように、迷うように瓶を握っているレナードの手を、セヴィはきゅっと握る。

「大丈夫です。私ちゃんと、決めました──もう絶対、泣いたりなんてしません」

大丈夫です、とふわりと微笑んだセヴィにレナードは息を飲んで──そして深く頭を下げると、静かに部屋を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

執着系狼獣人が子犬のような伴侶をみつけると

真木
恋愛
獣人の里で他の男の狼獣人に怯えていた、子犬のような狼獣人、ロシェ。彼女は海の向こうの狼獣人、ジェイドに奪われるように伴侶にされるが、彼は穏やかそうに見えて殊更執着の強い獣人で……。

処理中です...