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第一部
44. 謝罪
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翌日はカーサの読み通りにクードの部屋で昼も間近な時間に食事を摂った二人は、午後になってようやく部屋を出た。
二人で庭の花を眺めて、その後は裏庭の東屋で、セヴィはクードの膝の上に乗せられて、セヴィが作った菓子でお茶をする。
手にした皿からセヴィが菓子をつまんでクードの口に運んで、時折咥えた菓子を口移されて、何が可笑しいわけでもないけれどクスクスと笑い合う。
そんな風にのんびりと過ごしていた二人の元にレナードとカーサが遠慮がちにやって来たのは、丁度皿に盛られた菓子が無くなった頃だった。
「お寛ぎのところ申し訳ありません。お二人に、大事なお話がございまして」
「何だ、改まって」
不思議そうにしているクードとセヴィに、二人は深々と頭を下げた。
そしてカーサが一歩進み出て、口を開く。
「セヴィ様に、謝罪しなければならない事がございます」
「え???」
私?とオロオロとしているセヴィの背を撫でて、クードは視線で先を促す。
「……実はもうずっと、セヴィ様のお食事やお飲み物に、薬を入れております」
「───何?」
「おくすり?」
カーサはぴくりと跳ねあがったクードの眉には動じずに、不安そうに瞳を揺らしたセヴィに向かって小さく首を振る。
「悪い物ではございません──避妊薬です」
ひにんやく……とカーサの言葉を繰り返してから、セヴィはえっ?と頬を染める。
「あ、そ……そう……ひに……っ あかちゃん……っ」
真っ赤になっていまいち意味のない言葉を発しながらオロオロしているセヴィの頭を撫でて、クードは苦い顔をする。
「……それは、いつからだ?」
「最初の頃に、もしこのままセヴィ様がご懐妊なさってはまずいのではないかと判断いたしまして──セヴィ様がいらして、四日目の晩から」
「四日目……」
確認するように呟いて、クードがあぁ……とぐしゃりと前髪を掻き上げながらチッと舌打ちを落としたものだから、セヴィは不安そうにクードを見上げた。
「すまない、自分にだ……。俺がセヴィを強引に連れて来て四日目──俺が、カーサにぶん殴られて、部屋から引き摺り出された日だ」
「……カーサさんにも、殴られたんですか……?」
以前に『レナードにぶん殴られた』と言っていた事はあったけれど、それと同じ時なのかしらなどと思いながら、セヴィはあまり子細を覚えていないその頃の事を思い出そうとしてみる。
けれどまるで「思い出さなくて良い」とでも言うように、クードにくしゃりと、少し乱暴に頭を撫でられる。
あの頃の事を思い出しても、今がとても幸せだからセヴィの心が痛くなる事はないのだけれど、クードはきっと違うのだろうと、セヴィはクードの胸に頬を寄せる。
クードさまも気にしなくて良いんですよと、おじいちゃんとおばあちゃんになったら笑い話にしましょうねとちゃんと伝えなくてはと思いながら、セヴィは意識をカーサへ戻した。
「例の薬を飲む可能性もありましたし、万が一セヴィ様が覚えのない妊娠などという事になっては大変だろうと……。勝手ながら、私とレナードの判断で」
「今でも……か?」
「はい。クード様が落ち着かれるまでは、と。まだ暫くはお飲み頂くつもりでございました──どのような叱責も、暇を言い渡される覚悟も、出来ております」
腰を折ったカーサとレナードに、慌てたのはセヴィだった。
「暇って、そんな事……!」
しませんよね?と泣きそうな顔でクードを見上げたセヴィに安心させるように微笑んでぽんぽんと背を叩くと、クードはそれで?とカーサに問いかける。
「今それを明かしたのは、何故だ?まだ暫く、隠しておく事だって出来ただろう」
カーサは顔を上げると、セヴィに視線を向ける。
「セヴィ様が、寂しがっておられるとの事でしたので」
カーサの答えに、クードもセヴィも、首を傾げた。
「お子様がお出来になれば、セヴィ様の愛情はクード様だけではなくお子様へも向かうでしょう。そうすれば、日中クード様お一人を想って寂しい思いをなさる事も少なくなるのではないか、と」
「あぁ、だから"俺が落ち着くまで"か……」
納得したようなクードに対して、頭がついて行っていないのかぱちぱちと瞬いてクードを見上げているセヴィに、クードはその頭を撫でるとカーサとレナードに視線を戻した。
「話は分かった。元はと言えば俺の自業自得だからな……叱責も、まして暇を出す事もしない。薬については、セヴィと話し合っておこう」
「では、薬は後ほどセヴィ様にお渡しいたします。もう私どもの方で勝手に混ぜるような事は、誓って致しません」
「あぁ、そうしてくれ」
自嘲めいた笑みを零して、クードはカーサとレナードに手を振る。
二人はもう一度深々と腰を折ると、その場を後にした。
二人で庭の花を眺めて、その後は裏庭の東屋で、セヴィはクードの膝の上に乗せられて、セヴィが作った菓子でお茶をする。
手にした皿からセヴィが菓子をつまんでクードの口に運んで、時折咥えた菓子を口移されて、何が可笑しいわけでもないけれどクスクスと笑い合う。
そんな風にのんびりと過ごしていた二人の元にレナードとカーサが遠慮がちにやって来たのは、丁度皿に盛られた菓子が無くなった頃だった。
「お寛ぎのところ申し訳ありません。お二人に、大事なお話がございまして」
「何だ、改まって」
不思議そうにしているクードとセヴィに、二人は深々と頭を下げた。
そしてカーサが一歩進み出て、口を開く。
「セヴィ様に、謝罪しなければならない事がございます」
「え???」
私?とオロオロとしているセヴィの背を撫でて、クードは視線で先を促す。
「……実はもうずっと、セヴィ様のお食事やお飲み物に、薬を入れております」
「───何?」
「おくすり?」
カーサはぴくりと跳ねあがったクードの眉には動じずに、不安そうに瞳を揺らしたセヴィに向かって小さく首を振る。
「悪い物ではございません──避妊薬です」
ひにんやく……とカーサの言葉を繰り返してから、セヴィはえっ?と頬を染める。
「あ、そ……そう……ひに……っ あかちゃん……っ」
真っ赤になっていまいち意味のない言葉を発しながらオロオロしているセヴィの頭を撫でて、クードは苦い顔をする。
「……それは、いつからだ?」
「最初の頃に、もしこのままセヴィ様がご懐妊なさってはまずいのではないかと判断いたしまして──セヴィ様がいらして、四日目の晩から」
「四日目……」
確認するように呟いて、クードがあぁ……とぐしゃりと前髪を掻き上げながらチッと舌打ちを落としたものだから、セヴィは不安そうにクードを見上げた。
「すまない、自分にだ……。俺がセヴィを強引に連れて来て四日目──俺が、カーサにぶん殴られて、部屋から引き摺り出された日だ」
「……カーサさんにも、殴られたんですか……?」
以前に『レナードにぶん殴られた』と言っていた事はあったけれど、それと同じ時なのかしらなどと思いながら、セヴィはあまり子細を覚えていないその頃の事を思い出そうとしてみる。
けれどまるで「思い出さなくて良い」とでも言うように、クードにくしゃりと、少し乱暴に頭を撫でられる。
あの頃の事を思い出しても、今がとても幸せだからセヴィの心が痛くなる事はないのだけれど、クードはきっと違うのだろうと、セヴィはクードの胸に頬を寄せる。
クードさまも気にしなくて良いんですよと、おじいちゃんとおばあちゃんになったら笑い話にしましょうねとちゃんと伝えなくてはと思いながら、セヴィは意識をカーサへ戻した。
「例の薬を飲む可能性もありましたし、万が一セヴィ様が覚えのない妊娠などという事になっては大変だろうと……。勝手ながら、私とレナードの判断で」
「今でも……か?」
「はい。クード様が落ち着かれるまでは、と。まだ暫くはお飲み頂くつもりでございました──どのような叱責も、暇を言い渡される覚悟も、出来ております」
腰を折ったカーサとレナードに、慌てたのはセヴィだった。
「暇って、そんな事……!」
しませんよね?と泣きそうな顔でクードを見上げたセヴィに安心させるように微笑んでぽんぽんと背を叩くと、クードはそれで?とカーサに問いかける。
「今それを明かしたのは、何故だ?まだ暫く、隠しておく事だって出来ただろう」
カーサは顔を上げると、セヴィに視線を向ける。
「セヴィ様が、寂しがっておられるとの事でしたので」
カーサの答えに、クードもセヴィも、首を傾げた。
「お子様がお出来になれば、セヴィ様の愛情はクード様だけではなくお子様へも向かうでしょう。そうすれば、日中クード様お一人を想って寂しい思いをなさる事も少なくなるのではないか、と」
「あぁ、だから"俺が落ち着くまで"か……」
納得したようなクードに対して、頭がついて行っていないのかぱちぱちと瞬いてクードを見上げているセヴィに、クードはその頭を撫でるとカーサとレナードに視線を戻した。
「話は分かった。元はと言えば俺の自業自得だからな……叱責も、まして暇を出す事もしない。薬については、セヴィと話し合っておこう」
「では、薬は後ほどセヴィ様にお渡しいたします。もう私どもの方で勝手に混ぜるような事は、誓って致しません」
「あぁ、そうしてくれ」
自嘲めいた笑みを零して、クードはカーサとレナードに手を振る。
二人はもう一度深々と腰を折ると、その場を後にした。
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