独りよがりな善意のために、世界で一番大切な友達を失いかけた公爵令息の話

トウ子

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「いやぁ、本当にネロが僕を許してくれて良かったよ」

あっけらかんとした顔で、テーブルの上のパンケーキを切り分けるルシウスは、とても幸せそうだ。
話しながらも、長い指先がナイフとフォークを操って、美しく動いている。

「ネロが迎え入れてくれなかったら、僕、きっと行き倒れていたと思う」
「……そうだな」

ルシウスの正確な自己評価に頷きながら、ネロは自分の皿の上にケーキとフルーツが美しく盛り付けられていく様をぼんやりと見る。

「お前にこんな特技あったんだな」
「ふふ、貴族としては、美しく食べるのも大事だったから、その影響かなぁ」

褒められて嬉しそうにはにかむルシウスの顔は、驚くような美形だ。
よく見れば、まるで芸術品のような容姿の友達の姿に、ネロは今更ながら何故この男がただの平民だと信じ込んでいたのだろう、と首を傾げた。
まぁ、今はもうなのだが。

「っていうかルシウス、お前、どうなってるんだよ?この間、朝起きたら家の前にお前が転がってて、ビックリしたんだけど」
「いや、僕もビックリしたよ。襲われて、気を失って、目が覚めたら手首縛られて違う国の地べたに転がされていたからさ」
「……そうか」

あまりに扱いが雑だが、随分と手際が良い。
ユリアはもしかして、裏世界の仕事にも長けているのかもしれない。
これはルシウスでは敵わないなぁと思いながら、ネロはルシウスの話に耳を傾けた。

「どうしようと地面の上で途方に暮れていたら、ドアが開いて君が現れて、この世の全てに感謝したよね!」
「お気楽だなぁ。俺は心臓が止まるかと思ったぞ」

呑気な台詞にツッコミを入れつつ、ネロは苦笑する。
ルシウスは随分と生き生きとしていて、まるで子供のように楽しそうだった。

「ふふ、僕ねぇ、地べたに寝転がりながら、死にたいと願っていたはずなのに、『あぁ、お金も何も持っていない、これからどうしよう』なんて思っていたんだ。おかしいよね」
「まぁな。でも、生きてたら当たり前の感情だろ」

情けない顔をして自嘲するルシウスに、ネロは軽い言葉を返し、笑って首を振った。

「それに、ルシウスの場合、着の身着のままでもひと財産だったし、よかったじゃねぇか」
「わりとお金になったみたいで、よかったよ。早く仕事見つけないとなぁ」
「随分と積極的だな」
「君がいるからね。幸せな予感に満ちているし、生きる気力しかないもの。本当に、家族には感謝するしかないよ」

明るく告げるルシウスを、ネロも表情を緩めながら見守る。
友達が楽しそうな様子を見るのは嬉しい。
きっとルシウスも、そうだったのだろう。
だからネロを喜ばせたくて、ついやりすぎてしまったのだ。
そう考えると、過去の怒りも少しずつ和らいでくる。
まぁ、ネロの気持ちというものに考えが及ばなかったというのは、幼稚というほかなく、お粗末なものであったけれども。

「ネロがいなくなってから、僕、本当に生きる気力がなくなっちゃってね。抜け殻みたいになっちゃって」

パンケーキを口に運びながら、無言で物思いに耽るネロを気にすることもなく、ルシウスは軽い口調でネロがいなくなってからのことを話した。

「全部投げ捨てたくても公爵家に生まれた以上は不可能じゃない?僕、なんだかんだ優秀だったから、廃嫡される理由はないし。でも、結婚して幸せな家庭とやらを築いて、君のいない家で毎日息をして、君のいない国のために仕えて生きていくのかと思うと目の前が真っ暗になって。でも自暴自棄になる気力すらなくて、呆然と惰性で過ごしていたんだけどね」

なんと言って良いのか分からず、ネロは黙々とパンケーキを口に運ぶ。

(……うまいな)

料理本を見ながら初めて作ったと言っていたわりに、随分と美味しい。
作ったのはルシウスだ。
家に置いてもらうからには何かしなければ、と言って、服や宝飾品を売ったお金で料理本を買ってきたのだ。
やはり舌が肥えていると、料理も上手なものなのだろうか。
思考が逸れていたネロは、続いて耳に飛び込んできた言葉のインパクトの強さに、思わず現実に引き戻された。

「そうしたら、妹に『消えてくださらない?』て言われたんだよね」
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