百合戦争〜アサとヨルは魔女王になるために王太子殿下を堕としたい〜

トウ子

文字の大きさ
1 / 11

百合が咲いた朝

しおりを挟む
「おい、百合だ!百合が咲いたぞ!」
「何本だ!?」
「二本だ!今年の候補者は……二人だ!」

普段は静かな王城の一画で、興奮した声がいくつも上がる。
百合の開花は、王国に新しい時代がやってくる、その印なのだから。



***



魔女王が治めるこの国には、魔女王の代替わりの時期になると王城に百合が咲く。

咲いた百合の数だけ、その時代には女王候補者が存在すると言われ、百合の花が咲くと国の隅から隅まで調査がはいるのだ。
百合は強い魔力に反応するので、正しき候補者が百合に触れれば、花弁はその者の持つ魔力に応じて色を変える。
それが魔女王たる素質の持ち主の証だ。

今代は、二本の百合が咲き、二人の乙女が選ばれた。

金髪に金眼で、白に近い金に光り輝く百合を抱く少女の魔女名はアサ。
黒髪黒目で、あらゆる色を吸収したような黒に艶めく百合を抱く少女の魔女名はヨル。

百合の開花から遅れること数年。
公表された美しい候補者二人に、国民は熱狂した。
そして、対となるふたりの魔女名に、国民たちは「夜はいずれ朝となるから勝つのはアサだ」「いや、朝は夜に飲み込まれるのだなら、勝つのはヨルだ」などと好き勝手囃し立てる。魔女王を決めるこの戦いは百合戦争と呼ばれ、国民の娯楽なのだ。

彼女達に魔女王から贈られた百合のブローチは、それぞれの魔力の色をしており、二人の瞳と同じ色である。
二人のものを模したブローチが、翌日にはあちらこちらの店先に並び、少女たちはこぞって己ののブローチを買いに走ったのだった。



さて。
いつの時代も候補者達は、周りが思っているよりも仲が良いことが多い。
なにせ自分に匹敵する力を持つのは、候補者仲間しかいないのだから。
気を遣わずに遊べる相手というだけで、子供には嬉しくて楽しいものなのだ。

そんなわけで、今代の候補者、アサとヨルも仲の良い二人だった。

二人とも、それはそれは強い魔力を持っていた。普通の女の子が急に彼らと同等の魔力を与えられたら、制御不能になって狂死するだろう。しかし二人は生まれた時からその状態なので慣れていたし、周りの人を殺傷しないように十分制御できていた。魔力の大きさだけでなく、その制御力と精神力こそが魔女王候補者の素質の証拠とも言えた。


初めて二人が出会ったのは、国立の魔法学院の入学式だ。
成績順で整列する生徒たちの一番前に横並びに立った二人は、同成績の主席入学者だっだ。

「あら、もしかして、あなたがヨルさん?」
「あら、もしかして、アナタがアサさん?」

お互い名前しか知らなかった自分のライバルを、二人はまじまじと見つめた。チラリと胸元に視線をやれば、相手も察して服の内側につけた百合のブローチをそっと見せてくれる。
二人は顔を見合わせると「ふふふ」と笑った。

「ヨルで良いわ。アナタの百合はまるで光っているみたいにとても綺麗な色ね、アサさん」
「私もアサで良いわ。ヨルの百合もとっても幻想的でかっこいいわ、素敵よ」

生まれて初めて出会った同格の相手に二人は少しだけ昂揚した気分で微笑んだ。アサが求めた握手に、ヨルも快く手を握り返し口元をさらに綻ばせる。

「アナタと競うのが、とても楽しみだわ、アサ」
「私もよ。これまでは家庭教師相手でもしなきゃいけなかったから、ワクワクしているの」

瞳をきらりと輝かせるアサに、ヨルはきょとんと目を瞬かせてから吹き出した。

「あら、意外と好戦的なのね?」
「あら、魔女王候補者だもの」
「それもそうね」
「そうよ」

楽しい初対面を経て、翌日からは二人はウキウキワクワクの初めてのお友達になった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...