腐れ縁の公爵令息に契約結婚を迫られていますが、離婚してくれなさそうだから嫌です

トウ子

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本編

半年間がっつりデートすることが確定した瞬間

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「じゃ、綺麗にサインしてもらったし、とりあえず神殿に預けてくるね!」
「は?」

なんで神殿?
嫌な予感に血の気がひき、思わず立ち上がって契約書に手を伸ばせば、サッと手の届かない高さまで持ち上げられてしまった。

「ちょっと待って、どういうこと!?」
「これ一応神前契約書の形にしておいたから」
「はぁああ!?」

私は頭を抱えて絶叫する。公爵家クラスの政略結婚、しかも放っておいたら誰かが死ぬレベルに危うい状態で結ばれた政略結婚の時くらいにしかやらなくない!?どうやって神殿に話をつけたんだ?あ、コイツ公爵家の息子だったわ!ちくしょう!

「あははっ!うっかり破棄されたら敵わないからね。これ、違反した場合は違約金の代わりに魔力を十年間問答無用で奉納されることになるから気をつけてねっ」
「いやいやいや、やりすぎでしょ!?」

恐るべき罰則に私の顔はきっと真っ青になっているに違いない。魔力なければ人間は動けないんだからね!?それ十年寝たきりになるって意味でしょ!?
ブチ切れて文句を言い募る私に、コーリーは子をあやす乳母のような慈愛に満ちた穏やかな顔で見下ろした。

「君みたいな行動力と決断力の塊みたいな人相手は、これくらい慎重さが必要なんだよ。ほら見なよ、今君の右手は僕の持つ契約書を燃やそうと火の魔法を練っている」
「くっ」 

気づかれたか……と睨みつければ、呆れ顔のコーリーが既に書類に鉄壁の保護魔法をかけていた。相変わらず手が早いやつだ。
攻撃魔法を含め、学生時代の私たちは基本的に同等で対等だった。精度は私が勝るが、速さはコーリーが優れる。今の私たちが魔力一本で真っ向勝負すれば、体力と魔力の持続性からもコーリーが優勢だろう。書類を奪い取るのは難しそうだ。
私は諦めて手を下ろし、そしてそのまま床にしゃがみ込んで頭を抱えた。

「うっそぉ……ってことは本気で今後半年週に一度デートするわけ!?コーリー、あなた暇なの!?」
「時間ってのは作り出すものだよ、カミラ」

キラキラ輝く笑顔で言われるが、全然胸に響かない。全く嬉しくない。

「うそぉおおお!私、一昨日仕事クビになったから、新しい仕事を探してて忙しいんだけど!?」
「だから僕の秘書やってくれればいいじゃない、前から誘ってるだろう?」
「嫌だって言ってんでしょ!?」

以前から何度も繰り返した会話だ。誘われては、何度も叩き返している。秘書業務なんかやりたくないし向いてない。いや向いていてもやりたくない、だわ。なんでコーリーの人生をサポートしてやんなきゃいけないのよ、自由にさせてよ。私は魔法と研究で食っていけないなら、自力で金稼いで自分の好きに生きていきたいのよ。なお爺の後妻業務と未亡人業務を含む。
そうやさぐれでいた私に、コーリーはニンマリと笑って悪魔の誘惑を寄越した。

「じゃあ、……研究補助業務がメインの、補佐官はどう?」
「うっ」

金がなくて研究者になることを諦め、ついでに魔法に関わる人生も諦めた私にとって、それは正直、かなり魅惑的なお誘いだった。

「僕の研究室でのお仕事だから、かなり自由が効く。君自身が何か思いついたら、もちろんジャンジャン研究してくれても構わないよ?君は補佐官という大義名分のもとで僕のお金と設備を使って研究し、成果は僕との連名で発表すれば良いんだ!補佐官の成果は研究室長である僕の成果になるから。お互いにメリットしかない」
「そ、それは……その……ちょっと魅力的ね……?」
「未来の妻との共同作業と言えば聞こえも良いし」
「それはどうでも良いけど」

立板に水とばかりに流れる誘い文句に、私はウーンと唸りながら悩む。散々断ってきたのに、今更受け入れるのも癪に触るが、しかしこれは確かに魅力的なお誘いだ。どうせ仕事は探さなきゃいけないし、半年間はこの馬鹿に拘束されることが決まっちゃったから、下手に婚活も出来ないし。

「しかも仕事ってことにしておけば、連れ立って歩いてもデートと思われにくいかもよ?」
「うわぁ、策士じゃん……」

おまけとばかりに、私が不安かつ不満に思っていた点にも言及され、私は大きくため息を吐いた。これはどうも負けが決まっているらしい。というか、どうやら私はコーリーの計画の通りに動いているようだ。

「まさかと思うけど、私がクビになったのアナタが手を回したんじゃないわよね?」
「いやそれは君が客と派手に喧嘩したからだろう、手を回すまでもなかったよ」

半ば呆れた顔で告げられた言葉に思わず目を見開いて怒鳴った。

「本気で回そうとしてたの!?」
「いやごめんほんと人手不足で!手が足りないんだってば!僕の研究についてこれる人材がいない!……あぶなっ」
「避けるな」

パチンと己の額を叩いて大袈裟に嘆いて同情を買おうとするコーリーの頭目掛けて、私はとりあえず手近にあったフォークを投げた。軽々と避けて捨てられた仔犬風の目でこちらを見てくる忌々しい男に、私はあからさまに馬鹿にした目を向ける。本当に腹が立つ男だ。

「そりゃアナタの夢見がちな話を聞いて、真面目に取り合おうと思う人間の方が少ないわよ。何よ空から花を降らせる魔法についてって。バカなの?」
「神話にあるだろう?アレ、実現可能なのかなって昔から思ってたんだよね……だからフォーク投げないで!?」
「うるさい」

目をキラキラさせながら、夢見がちな研究に突っ走る愚かなボンボンのような台詞を吐くコーリーに、私は腹立ち紛れに三本目四本目のフォークを次々と投擲した。フォークは全て空中で停止して、コーリーの周りをくるくると踊っている。なんなら二組に別れてダンスし始めた。まったく器用な男だ。そしてこんな時まで目に楽しげな趣向を凝らしてくるのがうっとうしい。

「馬鹿よねほんと。なのよ」
「カミラ……」

私の言葉にコーリーが目を丸くして、言葉を止めた。この飄々とした完璧男を、一瞬だけでも動揺させられたことに、私は溜飲を下げた。

「カミラ……」
「ねぇ、夢みがちな可愛いコーリーくん?」

次第に嬉しそうに顔を紅潮させていくコーリーに、私は薄く微笑んだ。

「あなたは一体、オトモダチ相手にどんなものを降らせるつもりなの?」
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