4 / 12
十日間だけの甘い閨1
しおりを挟む
ランの体は、美しかった。
真っ白な肌が興奮に色づき、夕焼けに染まる。
甘く潤んだ瞳は悦びの涙を零し、夢見るように私を見た。
細い腕が縋るように私の背中に回され、離れまいと言うようにきつくしがみつく。
「閣下ッ、あぁ、……っあ!んっ」
最初に見せた余裕の表情が嘘のように、私の至らない愛撫にも、ランは容易に乱れた。
けれど、快楽に怯えるかのように身を仰け反らせながらも、ランはこの情交のひとつひとつを忘れまいとするかのように、食らいついてくる。
私から与えられる愛撫も言葉も、私が見せる表情ひとつ見逃すまいと、快楽のたびにキュッと閉じそうになる目を必死に開けていた。
この情交を、記憶に刻みつけようとでもするかのように。
「あぁ、ああッ、愛しています!愛しております、あなたを!」
「……っ、ランッ」
悲鳴のような声が綴るのは、私への愛の言葉だ。快楽に溺れ、絶え間ない刺激に喘ぎながらも叫ばれるそれは、神への懇願か、もしくは宣誓にも似ていた。
まるでランの本心のように思える言葉に、「それは惚れ薬のせいだ」と理解していながらも、私はどうしようもなく煽られた。
「ラン……ラン、可愛いラン、私のラン……ッ」
熱心に何度も名前を呼び、渇いた獣のようにその肌を舐める。目尻に溜まる涙を吸いとり、塩味のある汗を恍惚と味わった。
「あっ、アアッ、ふっ、んぁッ、……閣ッ、下ぁ……ッ」
「ラン……ふっ、ん」
獣のように四つ這いになったランの後ろから劣情のままに打ち付ければ、華奢な体は崩れ落ちそうになりながらぶるぶると震える。
「ふぁ、あぁああーっ」
「っん、ぐぅッ」
「あ、ああぁッ」
白濁を飛び散らせて絶頂に達したランの中に、耐えていたものを吐き出せば、中への刺激にランはますます感じ入って、背中を痙攣させた。
「あ…あぅ、はぁっ……っ!」
「ラン……上手に達けたね」
びくん、びくんと大きく震えるランを後ろから抱きしめて、額や首筋に何度も唇を落とす。
落ち着くまで待ち、私はずるりと己を抜き取って、力が入らないランの体を横たえる。
そして。
ちゅぅ……
「アッ、閣下、そんな……ッ」
恥じらい慌てるランの制止を無視して、私はランの足側に移動して、華奢な男の証を口に含んだ。
「あ……あ……あ……ッ」
私の舌の動きや、残滓を吸い取ろうとする口腔内の蠢きに合わせて、ランは素直に腰を跳ねさせた。出し尽くしたはずの白い欲望が、びゅっ、びゅっ、と不連続的に押し出される。私は、溢れ出した白濁を余さず飲み干し、ランの全てを喰らい尽くした。
「……ラン」
口元を腕で拭い、私は放心したように虚脱した体を敷布に横たえるランの上に覆い被さる。
どれほど抱いても飽きることはなく、抱き足りない。
日頃、欲望の発散のために呼び寄せる商売女を抱く時とは比べ物にならないほど昂揚し、私は目の前の白い体にのめり込んだ。
あの乱暴でがさつな皇帝が、少し腹を立てて力を込めたら、ポキリと折れてしまいそうな細い首を、下からすぅっと舐め上げる。
巨漢の男にのし掛かられたら潰れてしまいそうな華奢な肢体を、指と唇で隅々まで大切に愛でる。
ランの体は、どこもかしこもが美しく、そして気の狂いそうになるほどに甘やかだった。
(この子を、私はあの愚かな男の後宮に送り込むのか)
この手の中に隠してしまいたい、そう考えた自分に愕然とした。
私はそのためにこの子を育ててきたというのに。
(私は、愚かだな……)
綺麗な耳朶、形の良い額、長いまつ毛、まろやかな頬、優美な紅唇、濁りない瞳、すらりと伸びた手足、薄い胸に載った薔薇色の小さな蕾……、そして、まるで乙女のように慎ましやかでありながら、男を飲み込んで悦楽の頂点へと駆り立てる、秘められた後孔。
ランの全てが私を惹きつけ、魅了し、惑わせた。
「ラン……可愛い私の拾い子……」
「かっか……」
ぼんやりとした焦点の合わない目で、ゆっくりと私を見つけて、さも幸福そうに笑むランに、私は稲妻に打たれたような衝撃を受けた。
(あぁ、そうか)
私にとってランは、まさしく掌中の珠と言うべき存在なのだ。
そのことを私は、この時になって痛いほどに理解した。
そして同時に、全てが今更だということも理解していた。
「……ラン、君にはもう少し、『恋人』としての勉強が必要だね。後宮に入るまでの間は、私と閨を共になさい」
「はい、閣下。嬉しゅうございます」
私の身勝手な言葉にランは従順に頷き、嬉しそうに笑って、すぅっと目を閉じた。
「……あぁ、そうだ。皇帝をきちんと騙すためには、やはりきちんと『恋人として振る舞う』ための勉強が必要だ。あと十日、しっかりと学びなさい」
私はもっともらしく頷き、誰にともなく言い訳を呟く。そして、ランの美しい髪の一房に口づけた。
「おやすみ、ラン。……この十日間だけ、恋人の君を愛しているよ」
まるで、大人が子供に繰り返し言い聞かせるように、何度も『この関係は十日間だけ』と口にする。疲れ果てて眠りに落ちたランに聞こえていないことなど分かっていた。あれは、自分の中に潜む、我儘な子供に対する言葉だった。
それから十日間。
私は、これは恋人との別れを惜しむ振りだと、皇帝を完璧に騙すために必要なのだと言い張って、初めて公務を休み、溺れるようにランを抱いた。
真っ白な肌が興奮に色づき、夕焼けに染まる。
甘く潤んだ瞳は悦びの涙を零し、夢見るように私を見た。
細い腕が縋るように私の背中に回され、離れまいと言うようにきつくしがみつく。
「閣下ッ、あぁ、……っあ!んっ」
最初に見せた余裕の表情が嘘のように、私の至らない愛撫にも、ランは容易に乱れた。
けれど、快楽に怯えるかのように身を仰け反らせながらも、ランはこの情交のひとつひとつを忘れまいとするかのように、食らいついてくる。
私から与えられる愛撫も言葉も、私が見せる表情ひとつ見逃すまいと、快楽のたびにキュッと閉じそうになる目を必死に開けていた。
この情交を、記憶に刻みつけようとでもするかのように。
「あぁ、ああッ、愛しています!愛しております、あなたを!」
「……っ、ランッ」
悲鳴のような声が綴るのは、私への愛の言葉だ。快楽に溺れ、絶え間ない刺激に喘ぎながらも叫ばれるそれは、神への懇願か、もしくは宣誓にも似ていた。
まるでランの本心のように思える言葉に、「それは惚れ薬のせいだ」と理解していながらも、私はどうしようもなく煽られた。
「ラン……ラン、可愛いラン、私のラン……ッ」
熱心に何度も名前を呼び、渇いた獣のようにその肌を舐める。目尻に溜まる涙を吸いとり、塩味のある汗を恍惚と味わった。
「あっ、アアッ、ふっ、んぁッ、……閣ッ、下ぁ……ッ」
「ラン……ふっ、ん」
獣のように四つ這いになったランの後ろから劣情のままに打ち付ければ、華奢な体は崩れ落ちそうになりながらぶるぶると震える。
「ふぁ、あぁああーっ」
「っん、ぐぅッ」
「あ、ああぁッ」
白濁を飛び散らせて絶頂に達したランの中に、耐えていたものを吐き出せば、中への刺激にランはますます感じ入って、背中を痙攣させた。
「あ…あぅ、はぁっ……っ!」
「ラン……上手に達けたね」
びくん、びくんと大きく震えるランを後ろから抱きしめて、額や首筋に何度も唇を落とす。
落ち着くまで待ち、私はずるりと己を抜き取って、力が入らないランの体を横たえる。
そして。
ちゅぅ……
「アッ、閣下、そんな……ッ」
恥じらい慌てるランの制止を無視して、私はランの足側に移動して、華奢な男の証を口に含んだ。
「あ……あ……あ……ッ」
私の舌の動きや、残滓を吸い取ろうとする口腔内の蠢きに合わせて、ランは素直に腰を跳ねさせた。出し尽くしたはずの白い欲望が、びゅっ、びゅっ、と不連続的に押し出される。私は、溢れ出した白濁を余さず飲み干し、ランの全てを喰らい尽くした。
「……ラン」
口元を腕で拭い、私は放心したように虚脱した体を敷布に横たえるランの上に覆い被さる。
どれほど抱いても飽きることはなく、抱き足りない。
日頃、欲望の発散のために呼び寄せる商売女を抱く時とは比べ物にならないほど昂揚し、私は目の前の白い体にのめり込んだ。
あの乱暴でがさつな皇帝が、少し腹を立てて力を込めたら、ポキリと折れてしまいそうな細い首を、下からすぅっと舐め上げる。
巨漢の男にのし掛かられたら潰れてしまいそうな華奢な肢体を、指と唇で隅々まで大切に愛でる。
ランの体は、どこもかしこもが美しく、そして気の狂いそうになるほどに甘やかだった。
(この子を、私はあの愚かな男の後宮に送り込むのか)
この手の中に隠してしまいたい、そう考えた自分に愕然とした。
私はそのためにこの子を育ててきたというのに。
(私は、愚かだな……)
綺麗な耳朶、形の良い額、長いまつ毛、まろやかな頬、優美な紅唇、濁りない瞳、すらりと伸びた手足、薄い胸に載った薔薇色の小さな蕾……、そして、まるで乙女のように慎ましやかでありながら、男を飲み込んで悦楽の頂点へと駆り立てる、秘められた後孔。
ランの全てが私を惹きつけ、魅了し、惑わせた。
「ラン……可愛い私の拾い子……」
「かっか……」
ぼんやりとした焦点の合わない目で、ゆっくりと私を見つけて、さも幸福そうに笑むランに、私は稲妻に打たれたような衝撃を受けた。
(あぁ、そうか)
私にとってランは、まさしく掌中の珠と言うべき存在なのだ。
そのことを私は、この時になって痛いほどに理解した。
そして同時に、全てが今更だということも理解していた。
「……ラン、君にはもう少し、『恋人』としての勉強が必要だね。後宮に入るまでの間は、私と閨を共になさい」
「はい、閣下。嬉しゅうございます」
私の身勝手な言葉にランは従順に頷き、嬉しそうに笑って、すぅっと目を閉じた。
「……あぁ、そうだ。皇帝をきちんと騙すためには、やはりきちんと『恋人として振る舞う』ための勉強が必要だ。あと十日、しっかりと学びなさい」
私はもっともらしく頷き、誰にともなく言い訳を呟く。そして、ランの美しい髪の一房に口づけた。
「おやすみ、ラン。……この十日間だけ、恋人の君を愛しているよ」
まるで、大人が子供に繰り返し言い聞かせるように、何度も『この関係は十日間だけ』と口にする。疲れ果てて眠りに落ちたランに聞こえていないことなど分かっていた。あれは、自分の中に潜む、我儘な子供に対する言葉だった。
それから十日間。
私は、これは恋人との別れを惜しむ振りだと、皇帝を完璧に騙すために必要なのだと言い張って、初めて公務を休み、溺れるようにランを抱いた。
41
あなたにおすすめの小説
顔しか取り柄のない俺が魔術師に溺愛されるまで
ゆきりんご
BL
顔ばかり褒められることに辟易して貴族界を飛び出したシャル。ギルドで活動を始めるも、顔のせいでたびたびパーティークラッシャーになり追放されることが続いた。ひょんなことから他人の顔の区別がつかないという魔術師とバディを組むことになり……?
他人の顔の区別ができない攻め×美形な自分の顔が嫌な受け
※微グロ注意
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら寵妃になった僕のお話
トウ子
BL
惚れ薬を持たされて、故国のために皇帝の後宮に嫁いだ。後宮で皇帝ではない人に、初めての恋をしてしまった。初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら、きちんと皇帝を愛することができた。心からの愛を捧げたら皇帝にも愛されて、僕は寵妃になった。それだけの幸せなお話。
2022年の惚れ薬自飲BL企画参加作品。ムーンライトノベルズでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる