人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード10

ゆっくり、一歩ずつ(2)

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 腕を引かれたかと思うと、視界が反転する。

「……鳥肌立ってる」

「まあ、多少は」

「でも、僕のこと好き?」

「……お前、キャラ変わってんぞ」

 押しのけようとすれば、抱きしめられた。

「ユリ……」

「好きだよ、バンさん」

 確認するように、ユリアが呟く。

「好き」

 囁きに、オレは熱い吐息をこぼす。
 頬が熱い。胸が切なくて、なのに、体は震えていて。

 自分の感情の振り幅が大きくて、ついていけねぇ。

 すがりついてくるユリアに、オレは頬を寄せた。

「……オレだって、お前のこと好きだよ」

 言葉はこそばゆい。
 それこそ、裸になってセックスして、
 そんな関係しか築いてきたことのないオレは、たぶん今、戸惑っていた。

 どうすりゃいい? どれが正解だ?

 キスをして、それから。
 途中で萎えたら? 二度と触れ合えないのでは?

 ……とか、色々考えると、それこそ怖くて一歩も先に進められない。

 次第にオレはイラついてきた。

「バンさん?」

「……なんでもねぇ」

 最高に気持ち良くしてやれる自信があるのに。
 あの獣野郎のせいで散々だ。

「なんでもないって顔じゃないですけど」

 ユリアがきょとんとしている。
 オレは彼の頬を両手で包み込んで唇を寄せた。

「ん……」

 口付ければ、ユリアは目を小さく見開いて、続いて、うっとりと瞼を閉じる。
 オレは何度か唇を押しつけてから舌を忍び込ませた。

「……っ、バンさ――ん、んんっ」

 腹が立つ。

 あの獣野郎が。
 ユリアに怯えるこの体が。
 忌々しいったらない。

「はっ……ン……」

 怯むように引っ込んだ舌を、絡め取って唇で扱くようにする。
 二人分の唾液が混ざり合って、喉を流れ落ちていく。
 唇が、舌が、ぐちゅぐちゅと淫らな音を立てる。

「バンさ……ぁ……」

 ユリアの息が上がっていく。

 ああ、可愛いな。
 そう思った。

 ユリアの頬は、耳まで真っ赤だ。

「……立ち止まるから、もっと、動けなくなるのかもしれねぇな」

 銀糸を引いて、オレは唇を離した。

「どういうこと?」

 小首を傾げるユリアを、逆に組み敷く。
 それから、ちゅ、と彼の首筋に唇を押し当てた。

「んっ……」

「ゆっくりでいいから、進めてこうと思ったんだよ。
 ……こういうこと」

 ユリアは目を瞬いて、やがて、はわはわと唇を戦慄かせた。

「え、えっ、ぇ……」

「なんだよ」

「エッチだよ、バンさん……!」

 掠れた声で言って、ユリアが両手で顔を覆う。
 オレは呆気に取られてから、肩を揺らして笑った。

「……こンの、箱入りめ」

 たぶん、大丈夫だ。
 オレたちは大丈夫。

 ……だって、こんなにも愛おしい。

「さっさと元気になれよ。そしたら、うんと可愛がってやるから」

 顔を覆うユリアの手にキスを落とす。


 ――オレの甘い恋物語は、この日から始まった。
 試行錯誤と、すれ違いと、時折、思わぬ邪魔が入ったりしながら。

* * *

「なに、ぼさっとしてんの。さっさと行くよ」

 月が中天に差し掛かる頃。
 深い森の手前で馬車を降りた、愛らしい傘を揺らして少年が後ろを振り返った。

 年の頃は、13、4頃。
 猫目は勝ち気な色を湛え、二つに縛った長い桃色の髪と、惜しげなくレースが使われたワンピースを着込む姿は、一見少女と見紛うばかりだ。
 けれど、彼の華奢な体付きは少女のそれとは全く違う魅力を湛えている。

 その少年に、中年の男がゆっくりと歩み寄った。

「……森に踏み入ったら、『冗談でした』じゃ済まないぞ。
 相手は記録のないヴァンパイアなんだからな」

 少年と対照的な、無骨な男だった。
 使い古された旅装の上からでも鍛え抜かれた体が見て取れる。
 彼は驚くほど大きなリュックを背負い、男の身長ほどの大剣を肩に担いでいる。

「バカじゃないの。シーズンズじゃないから、狙い目なんでしょ。
 あんな古びた頭でっかちの耄碌ジジイとババアを誘惑したってつまんないじゃん」

 少年は拗ねたように唇を尖らせる。
 それから、手を組んで夢見るように夜空を見上げた。

「ボクはね、ずっと夢見てたんだ。この阿呆みたいなヒエラルキーをぶっ壊すこと。
 今まで、全く知られてもいなかった凄いヤツに見初められて、
 ボクはトップに君臨する。そして、今までバカにしたヤツらを、ぎったぎたのぐっちょぐちょにして、足で突いて蹴っ飛ばして鼻で笑ってやるんだ」

「見初められるって、どうやってだ?」

「そんなの……ボクの魅力をもってすれば、カンタンでしょ。
 なんなら、エッチなことしてロウラクさせちゃえばいいし」

 壮年の男の唇から、長く深い溜息が溢れ出る。
 少年はそんな彼を置き去りに、傘を翻すとさっさと森に足を踏み入れた。

「待っててね。ボクの未来の旦那さま♡」

 楽しげに歪んだ口元に、鋭い犬歯が覗く。
 ……月明かりの下、二つの人影が森の奥へと消えていった。



1部 おしまい
To Be Continued
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