人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード21

麗しき僧服の男(2)

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「ああ。旅の途中でさ」

 オレは何処にでもある当たり障りのない食事を頼んでから、
 上階を指した。

「宿に空きはあるか?
 一晩、泊まりたいんだが」

「2部屋かい?」

「いえ、1部屋で大丈夫です」

 オレが答える前に、こちらの会話に気付いたユリアが口を挟む。

「今、オレが話してるだろ」

「でも、2部屋って決まっちゃったら嫌ですから」

「お前なあ……」

「なんだい、2人でお忍びかい」

「えっ、いや、そうじゃなくて……」

 店主が意味ありげな笑みを浮かべる。

 オレはすかさず否定をしようとして……止めた。
 概ね合っている。

「1部屋なら、すぐに用意出来るよ」

「ありがとうございます」

「礼を言うのは、こっちの方さ。
 こんなちんけな村の宿に泊まる客なんて、
 数年見たことがないからね。商売あがったりだったところさ」

 肩を竦めて、店主が踵を返す。
 オレはその背に声をかけた。

「ああ、そうだ……ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「ん? なんだい?」

 オレは袖でテーブルの上を拭うと、地図を広げた。

「この地図なんだけどさ、間違って……る、よな?」

「え? 間違ってるんですか!?」

 ユリアが驚くのに、「たぶん」と頷く。
 するとカウンター越しに、店主が地図を覗き込んで来た。

「これは……
 間違ってるっていうより、古いんじゃないかね」

 彼女は少しの間、小首を傾げてから、
 常連客の一人に声を張り上げた。

「スヴェン! ちょっと、こっちに来とくれよ。
 アンタ、頭いいだろう?」

「なんですか、頭いいって。
 また肯定も否定もしづらいことを……」

 ブツブツと文句を言いながら、
 スヴェンと呼ばれた青年が、コチラに歩いてくる。

 寝癖だらけの赤髪の男だ。
 顔の中心にはそばかすが浮き、丸眼鏡の奥の目は糸のように細い。

「で、なにさ?」

「この人たちの持ってる地図、ちょいと見てあげてよ。
 随分と古いみたいなんだ」

 店主はそう言い置くと、今度こそ厨房の奥に引っ込んだ。
 代わりに、スヴェンがオレの隣に座って地図に目を向ける。

「どれどれ……」

 彼は鼻に乗せていた丸眼鏡を持ち上げたかと思うと、
 顎に手をやり、おぉっと声を漏らした。

「……本当だ。もの凄く古い地図だね。
 ほら、見てご覧。この右上にある紋章」

 顔を上げて、スヴェンが地図の端を指で差す。
 そこには、双つの斧が交差した紋章の印が押されていた。

「これ、リーヴ男爵のものだ」

「リーヴ?」

「そう。この大陸を教会が治めるずっと前の男爵だよ」

 スヴェンは深々と頷くと、続けた。

「地図というのはね、一般人には作ることが禁じられた時代の権威の象徴なんだ。
 つまり、公式に存在する地図の全ては時の為政者にチェックされている。
 逆に言うと、紋章の記載がない地図はモグリだから、
 正確性に欠けているってわけ」

「へえ……」

「それにしても、こんな地図で旅をしているなんて面白いね」

 そう言って、彼はオレとユリアの顔を交互に見た。
 目が細すぎて微笑んでいるように見えるが、正確な感情は読めない。

「君たち……まさか、時を超えて来たの?」
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