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エピソード22
キャラメル・ショコラ(9)
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「は……はっ? ウソなんて……」
「バンさんは、気持ちが良くなくても、それを真っ直ぐには伝えないじゃないですか。
僕が初めて口でした時とか、歯が当たったりして何度も痛そうにしてたのに、
それでも、上手だよ、って言ってくれた。
つまり、さっきの……すっごく気持ち良かったってことですよね?」
「……」
オレは無意味に口をパクパクさせる。
「そっか。……気持ちいいと、あんなことになっちゃうんだ。
泣いて、よがって、凄く……凄く、可愛かったなあ……」
「お、おい、ユリア……」
「ふ、ふふ……」と、不気味な笑い声が聞こえてきて、
オレは身の危険を覚えずにはいられない。
自然と、身体がブルリと震えた。
「あ、寒いですか?」
ユリアが気付いて上掛けを肩までかけてくれる。
オレはチラリと恋人を見た。
ユリアの血色はこの上なく良く、体の隅々まで力が満ちているようだ。
「この、体力オバケめ……
あれだけ動いて、なんでそんなケロッとしてるんだよ」
「それは、だって、途中で飲んだりしましたからね」
「飲んだ?」
言葉の意味を取りあぐねて、訝しげにする。
ユリアは少し頬を染めて、頷いた。
「飲んだでしょう? あなたの……その……」
「……それと体力オバケ、どういう関係があるんだよ」
あわあわするユリアに、先を促せば、
彼はホッと胸を撫で下ろしてから続けた。
「バンさんの体には、僕の心臓があるんですよ。
心臓は人狼やヴァンパイアにとって回復の要みたいなもので、
つまり、あなたの体は僕にとって特効薬なんです」
「なっ……」
オレは、まじまじとユリアを見つめた。
「つまり、オレの血とか飲めば、ケガの治りが早くなったりすると?」
「……? はい」
「じゃあ、何で今まで吸わなかったんだよ!?」
思わず、体を起こす。
フラついたオレをすかさずユリアが支えてくれた。
「何度も飲む機会はあっただろ?
処刑官が来た時も、セシルたちの時も……
なのに、血を飲むだなんて話は一度も出なかったじゃねえか。
オレの血で回復するなら、好きなだけ飲ませてやったのに」
「そんなこと、お願い出来ませんよ。
血を飲むなんて物騒じゃないですか」
「おま、そんな理由で……?」
思わずため息がこぼれる。
ケガの治りを心配して、変わってあげたいと何度、切なく思ったことか……
「……次からは飲んでくれ。頼むから」
「……っ」
「なんで、顔赤くする?
オレは、血を、飲んでくれと言ったんだが?」
「血じゃない方でしたら、喜んで。
バンさんも気持ちいいですし」
「……バカ。
ケガした相手にしゃぶらせるなんて出来るかよ」
「そこは妥協してくださいよ」
「妥協すんのはお前だよ!!」
そんな話をしていた時だ。
「……ッ!」
ユリアが唐突にオレの口を塞いだ。
「……んむむ!」
彼が険しい眼差しを窓の外へ向ける。
ただならぬその雰囲気に、オレも彼に倣う。
階下に広がる闇の中で灯りが揺れている。
暗くてハッキリとは分からないが、
時折、松明の光に浮かび上がる鈍い輝きは鎧によるものだろう。
何者かがこの宿を包囲している。
相手の数は、少なく見積もっても両手の指では足りなそうだ。
……まさか。
「バンさん……」
不安げな声が落ちる。
「支度しろ。すぐに出るぞ」
オレは足に力を込めると、ズボンをはきシャツを羽織る。
そして、カーテンとベッドのシーツを結び合わせて縄を作った。
それから図書館から借りた本をベッドのサイドデスクに置き、リュックを背負う。
よくよくオレは、この本と縁がないらしい。
「忘れ物ないか?」
「はい」
音を立てないようにして、窓を押し開ける。
オレたちは目だけで合図すると、即席の縄を伝い窓から飛び降りた。
階段を登ってくる、荒々しい足音を背に感じながら。
「バンさんは、気持ちが良くなくても、それを真っ直ぐには伝えないじゃないですか。
僕が初めて口でした時とか、歯が当たったりして何度も痛そうにしてたのに、
それでも、上手だよ、って言ってくれた。
つまり、さっきの……すっごく気持ち良かったってことですよね?」
「……」
オレは無意味に口をパクパクさせる。
「そっか。……気持ちいいと、あんなことになっちゃうんだ。
泣いて、よがって、凄く……凄く、可愛かったなあ……」
「お、おい、ユリア……」
「ふ、ふふ……」と、不気味な笑い声が聞こえてきて、
オレは身の危険を覚えずにはいられない。
自然と、身体がブルリと震えた。
「あ、寒いですか?」
ユリアが気付いて上掛けを肩までかけてくれる。
オレはチラリと恋人を見た。
ユリアの血色はこの上なく良く、体の隅々まで力が満ちているようだ。
「この、体力オバケめ……
あれだけ動いて、なんでそんなケロッとしてるんだよ」
「それは、だって、途中で飲んだりしましたからね」
「飲んだ?」
言葉の意味を取りあぐねて、訝しげにする。
ユリアは少し頬を染めて、頷いた。
「飲んだでしょう? あなたの……その……」
「……それと体力オバケ、どういう関係があるんだよ」
あわあわするユリアに、先を促せば、
彼はホッと胸を撫で下ろしてから続けた。
「バンさんの体には、僕の心臓があるんですよ。
心臓は人狼やヴァンパイアにとって回復の要みたいなもので、
つまり、あなたの体は僕にとって特効薬なんです」
「なっ……」
オレは、まじまじとユリアを見つめた。
「つまり、オレの血とか飲めば、ケガの治りが早くなったりすると?」
「……? はい」
「じゃあ、何で今まで吸わなかったんだよ!?」
思わず、体を起こす。
フラついたオレをすかさずユリアが支えてくれた。
「何度も飲む機会はあっただろ?
処刑官が来た時も、セシルたちの時も……
なのに、血を飲むだなんて話は一度も出なかったじゃねえか。
オレの血で回復するなら、好きなだけ飲ませてやったのに」
「そんなこと、お願い出来ませんよ。
血を飲むなんて物騒じゃないですか」
「おま、そんな理由で……?」
思わずため息がこぼれる。
ケガの治りを心配して、変わってあげたいと何度、切なく思ったことか……
「……次からは飲んでくれ。頼むから」
「……っ」
「なんで、顔赤くする?
オレは、血を、飲んでくれと言ったんだが?」
「血じゃない方でしたら、喜んで。
バンさんも気持ちいいですし」
「……バカ。
ケガした相手にしゃぶらせるなんて出来るかよ」
「そこは妥協してくださいよ」
「妥協すんのはお前だよ!!」
そんな話をしていた時だ。
「……ッ!」
ユリアが唐突にオレの口を塞いだ。
「……んむむ!」
彼が険しい眼差しを窓の外へ向ける。
ただならぬその雰囲気に、オレも彼に倣う。
階下に広がる闇の中で灯りが揺れている。
暗くてハッキリとは分からないが、
時折、松明の光に浮かび上がる鈍い輝きは鎧によるものだろう。
何者かがこの宿を包囲している。
相手の数は、少なく見積もっても両手の指では足りなそうだ。
……まさか。
「バンさん……」
不安げな声が落ちる。
「支度しろ。すぐに出るぞ」
オレは足に力を込めると、ズボンをはきシャツを羽織る。
そして、カーテンとベッドのシーツを結び合わせて縄を作った。
それから図書館から借りた本をベッドのサイドデスクに置き、リュックを背負う。
よくよくオレは、この本と縁がないらしい。
「忘れ物ないか?」
「はい」
音を立てないようにして、窓を押し開ける。
オレたちは目だけで合図すると、即席の縄を伝い窓から飛び降りた。
階段を登ってくる、荒々しい足音を背に感じながら。
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