人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード26

虚飾の檻(2)

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「殺された……?」

 オレは呆然とシロの言葉を繰り返す。

『亡くなりました。病気で』

 以前、ユリアは自身の両親のことをそう語っていた。
 覚えていないのだとも。

「病気で亡くなったんじゃないのか」

「フン。人外が病になるか」

 シロはあっさりと、あの時のオレの疑惑を肯定する。

「……殺されたって、誰にだよ? 処刑官にか?」

 思い切って踏み込んだオレを、
 シロはジロリと見やってから、鼻に皺を寄せた。

「同族だ」

 1度、言葉を句切ってから、彼は続けた。
 ――1月のヴァンパイア、と。

「1月……?」

 何処かで聞いた。確か、あれは……
 セシルをいたずらに死徒にした、ヴァンパイアの名前だ。

「待てよ。なんでそいつがユリアの両親を殺す?」

「1月は、アイツの身体を欲していた。
 アイツは日の下を歩けるからな。
 ……大方、同じ体質になるにはどうすべきか調べたかったのだろう」

「それでユリアは、両親の死を忘れたのか」

「ああ。全ての真実を俺に押し付けてな」

 シロはゴロリと寝転がると、
 つまらなそうに前足に頭を乗せた。

「父親は1月と戦って死んだ。次に母親が俺をかばって死んだ。
 その後、祖父と叔父が来て1月を撃退した。
 が、祖父はその時のケガが原因で未だまともに動けない」

「爺さんも……」

「アイツは貴様に言っただろう?
 出生を疎んだ祖父に屋敷に封じられたと。
 祖父は確かに純血主義者だった。
 だが、最終的には父を認めていた。
 だから家族3人で暮らすことを許した」

 白銀の尾をペタリと地につける。
 彼はどこか遠い日を思い出すように目を細め、喉を鳴らした。

「アイツはあの日のことを――力ごと切り捨てた。
 力を封じたのはアイツ自身というわけだ」

「なるほどな……」

 オレは、シロの話を全面的に受け入れた。
 ユリア自身は覚えていないし、
 コイツが嘘をつく理由もないと思ったからだ。

 オレは屋敷のことを思い出す。

 美しく整えられた、静かな楽園。

 屋敷に来たばかりの頃は気付かなかったが、
 歪ながらも、確かに隅々まで……愛で満ちていたように思う。

「……お前が、ユリアに苛立つのもなんとなく分かったよ」

 ユリアが切り捨てたのは、記憶と力だけじゃない。
 愛されていた事実すら、捨ててしまったことに、
 シロは憤っているのだろう。

「でもさ、小さい頃に両親を目の前で殺されるなんてのは……やっぱつらいし。
 忘れちまったのも、心を守るためだ。仕方ねぇ。
 まあ、忘れるのがクセになっちまってんのは、良くないとは思うけど」

 隣に座れば、尾を巻きつかせるようにしてオレに触れた。
 オレはシロの背を撫でた。

「ユリアは、何処かで……両親に会いたいとか、思ってんのかな」

 だから、あそこまで生きることに臆病になっているのだろうか。

 自分の母親を思い出してみる。
 彼女が死んだ時、オレには悲しむ暇がなかった。
 弟と妹をなんとかして食わさなきゃならなかった。

 必死で働いて、働いて、
 少し余裕が出来た頃には、母親の声も顔もぼやぼやしていて、
 ただ、言葉にならない虚しさだけが胸に残っていた。

「貴様はとことんアイツのことになると、目が曇る」

 ふと、シロが言う。
 顔を上げれば、冷めた眼差しがオレを見ていた。

「それとも、そうであって欲しいのか?
 貴様は……世話係だからな」

「どういうことだよ」

「アイツは死にたいわけじゃない。
 ただ、自分の腑抜けさを認めたくないだけだ」

 シロの声に重なるようにして、
 ミミズクだろうか、近くの木の上からほうほうと声がした。

「両親を助けなかった理由を、母との不殺の約束に求めている。
 今、生きるために他者を殺せば、
 あの時、動かなかったのは恐怖のせいだったと認めることになるから」

 そう言うと、シロは立ち上がった。
 それから鼻先をオレに擦り付けるようにしてくる。

 視界が反転して、夜露に濡れた草の冷たさが背中に伝わった。
 目の前に月の輝く夜が広がる。

「……千年の恋も覚めるだろう?
 それとも、まだ貴様には……
 アイツが可愛い恋人に映っているのか?」
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