ファミリア・ラプソディア

Tsubaki aquo

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chapter2

step.16-4 ホラーとヤモリ

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 要するに、ソウさんは人に挟まれて「真ん中」で眠りたいらしい。
 僕はふたつ返事で類さんの頼みを引き受けた。
 怖くて眠れなかったのは、僕も同じだったから。

 そんなわけで、ソウさんを挟むようにして僕らはベッドに寝転がった。

 3人とも背丈が近いこともありベッドはぎゅうぎゅうで、僕は壁に背中を立てかけるようにして横になった。
 類さんは身体半分、ベッドから落ちかけていた。

「……決めた。キングサイズのベッド買うわ。広くて困ることはねぇし」

 窮屈そうに呻く。
 それから彼はソウさんにくっつくと、規則正しい寝息を立て始めた。

 その横でソウさんはパッチリ目を開けて天井を見上げていた。

「あの、ソウさん……まだ怖いですか?」

「……別に」

 と応えつつ、彼が目を閉じる気配はない。

「ええと……ちょっと失礼しますね」

 これではいつまで経っても眠れないだろう……僕は、そっと彼の目元を片手で塞いだ。

「眠れるまで、おさえてますよ」

 幼い頃、眠れない僕に母がしてくれていたことだ。
 これなら触れているし、目が塞がれていても怖さは軽減するはず。

「……うん」

 と、ソウさんは小さく吐息をこぼす。

 あとは何か気の紛れる話でもできたら完璧だ。
 最近、笑ったこと……何かあったっけ?
 僕は思案を巡らせる。

 ……一昨日、論文のために読んでいた本にあった蓮如と一休のとあるやり取りでだいぶ笑ったけど、これはちょっとマイナー過ぎるネタだろう。

 かといって、最近笑ったのなんてそれくらいだし……いや、今に囚われる必要はないだろう。

 例えば、昔の話……とか?

 類さんたちとどうやって出会ったんですかーとか……ああ、でも、その話題だとソウさんが中退したことにも触れてしまう気がする。それはちょっと……デリカシーがないだろうから却下だ。

 考えれば考えるほど、楽しい話は見つからない。
 僕から類さんたちを抜いたら、本当に面白みのない人生だな……

 その時。

「……類も、こうしてくれたことがある」

 ソウさんがポツリと言った。

「え?」

「試合前で緊張してた俺に……『今は自分だけ感じてろ』って。失敗できない試合だったから、緊張して……でも、類のお陰で震えが止まった」

 試合とは、陸上のことだろうか。
 僕は静かに耳を傾けた。

「……俺は他人が怖い。意味がわからないから。笑っていても、悲しんでたり怒ってたりするし。見えるもの、聞こえるもの以外を読めとか普通に求められるけど困る。空気とか……」

「わかります、わかります」

 正しく空気を読める人なんて、どれくらいいるんだろう。それが合っているかどうかの判断は詰まるところ思い込みでしかない。
 そう考えると、コミュニケーションというのは随分とあやふやなものの上に成り立っているのだと改めて思う。

「でも、類には見えてるんだ。空気も人の心も。言わなくても、言えなくても、どうしたら喜ぶとか、傷付くとか全部……凄いと思う」

「そうですね。僕も類さんは凄いと思います」

 彼はコミュ力お化けだと思う。
 僕の実家でも、すぐにみんなに受け入れられていたし……

 類さんは溶け込むために必要なことを瞬時に判断して、そう振る舞っている節がある。
ニャン太さんもコミュ力お化けだが、彼は万人に受け入れられやすい性質であって、類さんとはタイプが違う気がした。と、

「……お前はどこか類に似てる」

 ソウさんがそんなことを言って、僕の方を向いた。

「類さんに?」

「うん」

「ええと……」

 僕はコミュニケーションが特に苦手だ。
 友人らしい友人もいないし、類さんとは比べられる部分はひとつもないのだが。

「……ど、どういったところがでしょうか?」

 長い沈黙を破って、僕は尋ねてみた。

 しかし、しばらく待っても応えはなかった。
 改めて考えてみたら似ていなかったのかも、なんて諦めていると、穏やかな呼吸音が聞こえてくる。

 ……そういえば、ソウさんも寝つきが良かったっけ。

 海辺のペンションで過ごした夜を思い出して、僕は苦笑をこぼす。
 次いで、彼からそっと手を離した。

 安心しきった寝顔を目にして、知れず口元が緩む。

「似てる……って、どこがですか」

 誰にともなく問うた。
 考えてみてもよくわからない。
 でも、悪い意味ではないだろう。……たぶん。

 僕は、類さん、ソウさんの肩まで上掛けを引っ張ると、壁に背を預けた体勢のまま目を閉じた。
 あれだけ不穏に感じた部屋の隅の暗がりは、もう気にならなくなっていた。



step.16「ヤモリとホラー」 おしまい
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