150 / 211
chapter4
step.28-3 スポンジとまな板
しおりを挟む
それからまたしばらく歩き……僕は肩で息をしながら口を開いた。
「やっぱり……結構、距離ありますね……」
すでに疲れ始めた僕とは違い、「そうか?」と首を傾げるソウさんは汗1つかいていない。
立ち仕事は体力勝負と聞いたが、ソウさんも例に漏れないようだ。
というか、僕が非力過ぎるのか……?
そんなことを考えている時だった。
僕は細い路地から出てきた人影にぶつかった。
「……っ! す、すみません、大丈夫で――うわぁああっ!?」
思わず裏返った声が迸る。
ぶつかったのは小柄なメイドさんだった。いや、それは驚くことではないのだが、問題は 彼女が引きずっていたものだ。
それは顔面血まみれの、ボロボロの男性だった。
頭が真っ白になる。
するとメイドさんはくしゃりと泣きそうな顔をして口を開いた。
「た、助けてください! お願いします!」
「い、一体、何が……?」
「彼氏が突然、鼻血を出して倒れてしまったんです……っ」
「えっ、ええっ!? 大変じゃないですか!」
「そうなんです、大変なんです! ですから、助けてください!」
「救急車は呼んだんですか!?」
「それが……病院に行かなくちゃって焦って、携帯とスポンジ間違えて持って来ちゃったんです……」
フリーズしていたソウさんが口を開く。
「どこかで聞いたような話だな」
……もしかして、流行っているのだろうか。
「わかりました。僕が連絡しますので……」
救急車を呼ぶと、男性を抱えて歩道の端に避けた。
状況を尋ねれば、彼女曰く、彼を喜ばせようとコスプレをしたら、突然、彼が倒れてしまったらしい。
慌てた彼女は病院を探して彼を引きずりながら方々を彷徨っていたところ、僕たちがそうぐうしたということのようだ。
相当パニックに陥っていたのだろう。男性は脈もあるし、血色も良いが、メイドさんは見ているコチラが苦しくなるくらい、狼狽していた。
「どうしよう……どうしよう……っ」
彼女の気持ちはよくわかった。僕も類さんが倒れた時、生きた心地がしなかったから。
「もうすぐ救急車来ますからね」
僕は努めて平静に、男性に声をかけ続ける。
「う……」
すると、彼はうっすらと目を開けた。
「ここは……?」
「良かった……気が付いたんですね」
僕は長い溜息をつく。
ひとまず今すぐどうこう、ということはなさそうだ。
しかし、安堵したのも束の間、
「ご主人様! ああっ、良かっ――」
「グハッ!」
男性は恋人の姿を目にすると、鼻血を噴いて再び意識を失ってしまった。
「ご主人様、死なないで……!」
メイドさんが恋人に取りすがる。
救急車はまだだろうか。
こういう時、帝人さんなら的確な対応ができるのに……!
その時だ。
ソウさんがハンカチを男性の顔にかけた。
「な、何してるんですか!?」
「メイドを見ない方がいいかと思って」
「だとしてもやり方がありますよね……!?」
すると、男性がハンカチを押さえたままムクリと身体を起こした。
「!?」
僕とメイドさんは息を飲んだ。
男性はフラつきながら口を開いた。
「……助かったよ」
「あの、急に身体を起こさない方が……」
「なに、大したことはないんだ。いや、大したことはあったんだが……つまり、ええと、恋人があまりにも魅力的過ぎてね……」
「はい……?」
よくよく聞けば、メイドコスプレをしてくれた恋人に興奮しすぎたため、鼻血を噴いて倒れたらしい。
「は?」2トーンくらい低い声が出てしまった。
「すっ、すみません! 私が可愛すぎるばかりにっ……!」
メイドさんがひたすら頭を下げるのに、僕は首を振った。
「救急車を呼びましたし、病院には行った方がいいと思います。倒れた時に頭を打っていたら大変ですから……」
「わっ、わかりました!」
それにここまで引きずられていたため、彼は満身創痍だ。傷の手当ては必要だろう。
「本当に本当にありがとうございました。あの、是非お礼を……」
「気にしないでください。お気持ちだけで十分ですから」
僕はソウさんと一緒に首を振る。
「そんなわけにはいきません! せめて、お名前だけでも……!」
結局、先ほどと同じく……取りすがる彼女にソウさんが名刺を渡し、何とか僕らは解放された。
「あのっ、このご恩は一生忘れません! 必ず! 必ず、お礼させてくださいね……!」
そんな言葉と共に、恋人たちは救急車で運ばれていった。
僕らは先を急いだ。
ちょっぴり精神的に疲れたが、大事がなくて良かったと思う。……うん。
「やっぱり……結構、距離ありますね……」
すでに疲れ始めた僕とは違い、「そうか?」と首を傾げるソウさんは汗1つかいていない。
立ち仕事は体力勝負と聞いたが、ソウさんも例に漏れないようだ。
というか、僕が非力過ぎるのか……?
そんなことを考えている時だった。
僕は細い路地から出てきた人影にぶつかった。
「……っ! す、すみません、大丈夫で――うわぁああっ!?」
思わず裏返った声が迸る。
ぶつかったのは小柄なメイドさんだった。いや、それは驚くことではないのだが、問題は 彼女が引きずっていたものだ。
それは顔面血まみれの、ボロボロの男性だった。
頭が真っ白になる。
するとメイドさんはくしゃりと泣きそうな顔をして口を開いた。
「た、助けてください! お願いします!」
「い、一体、何が……?」
「彼氏が突然、鼻血を出して倒れてしまったんです……っ」
「えっ、ええっ!? 大変じゃないですか!」
「そうなんです、大変なんです! ですから、助けてください!」
「救急車は呼んだんですか!?」
「それが……病院に行かなくちゃって焦って、携帯とスポンジ間違えて持って来ちゃったんです……」
フリーズしていたソウさんが口を開く。
「どこかで聞いたような話だな」
……もしかして、流行っているのだろうか。
「わかりました。僕が連絡しますので……」
救急車を呼ぶと、男性を抱えて歩道の端に避けた。
状況を尋ねれば、彼女曰く、彼を喜ばせようとコスプレをしたら、突然、彼が倒れてしまったらしい。
慌てた彼女は病院を探して彼を引きずりながら方々を彷徨っていたところ、僕たちがそうぐうしたということのようだ。
相当パニックに陥っていたのだろう。男性は脈もあるし、血色も良いが、メイドさんは見ているコチラが苦しくなるくらい、狼狽していた。
「どうしよう……どうしよう……っ」
彼女の気持ちはよくわかった。僕も類さんが倒れた時、生きた心地がしなかったから。
「もうすぐ救急車来ますからね」
僕は努めて平静に、男性に声をかけ続ける。
「う……」
すると、彼はうっすらと目を開けた。
「ここは……?」
「良かった……気が付いたんですね」
僕は長い溜息をつく。
ひとまず今すぐどうこう、ということはなさそうだ。
しかし、安堵したのも束の間、
「ご主人様! ああっ、良かっ――」
「グハッ!」
男性は恋人の姿を目にすると、鼻血を噴いて再び意識を失ってしまった。
「ご主人様、死なないで……!」
メイドさんが恋人に取りすがる。
救急車はまだだろうか。
こういう時、帝人さんなら的確な対応ができるのに……!
その時だ。
ソウさんがハンカチを男性の顔にかけた。
「な、何してるんですか!?」
「メイドを見ない方がいいかと思って」
「だとしてもやり方がありますよね……!?」
すると、男性がハンカチを押さえたままムクリと身体を起こした。
「!?」
僕とメイドさんは息を飲んだ。
男性はフラつきながら口を開いた。
「……助かったよ」
「あの、急に身体を起こさない方が……」
「なに、大したことはないんだ。いや、大したことはあったんだが……つまり、ええと、恋人があまりにも魅力的過ぎてね……」
「はい……?」
よくよく聞けば、メイドコスプレをしてくれた恋人に興奮しすぎたため、鼻血を噴いて倒れたらしい。
「は?」2トーンくらい低い声が出てしまった。
「すっ、すみません! 私が可愛すぎるばかりにっ……!」
メイドさんがひたすら頭を下げるのに、僕は首を振った。
「救急車を呼びましたし、病院には行った方がいいと思います。倒れた時に頭を打っていたら大変ですから……」
「わっ、わかりました!」
それにここまで引きずられていたため、彼は満身創痍だ。傷の手当ては必要だろう。
「本当に本当にありがとうございました。あの、是非お礼を……」
「気にしないでください。お気持ちだけで十分ですから」
僕はソウさんと一緒に首を振る。
「そんなわけにはいきません! せめて、お名前だけでも……!」
結局、先ほどと同じく……取りすがる彼女にソウさんが名刺を渡し、何とか僕らは解放された。
「あのっ、このご恩は一生忘れません! 必ず! 必ず、お礼させてくださいね……!」
そんな言葉と共に、恋人たちは救急車で運ばれていった。
僕らは先を急いだ。
ちょっぴり精神的に疲れたが、大事がなくて良かったと思う。……うん。
0
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる