ファミリア・ラプソディア

Tsubaki aquo

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chapter4

step.31-3 クリスマスとお墓参り

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* * *

 リビングのローテーブルに先ほど買ったツリーを置く。
 ニャン太さんがテキパキと七面鳥を始めとしたオードブルやケーキ、マカロンを並べ、
ソウさんと帝人さんが食器を、類さんと僕は飲み物を用意した。

 ニャン太さんに半場ムリヤリ赤い帽子やトナカイのカチューシャなどを付けられてから、僕らはいつもの定位置に座った。

 テーブルの上には、存在をこれでもかと主張する照り輝く七面鳥。
 それからポテトサラダに唐揚げ、肉巻き、ローストビーフ、色とりどりのマカロンに、総勢10種類のケーキがズラリと並ぶさまはなかなか壮観だ。

「それでは……みんなで、ハッピーメリークリスマス! いえ~~~い!」

 シャンパンが行き渡ったところで、ニャン太さんが乾杯の音頭を取った。
 次いで彼は早速ピンクのマカロンを抓むと、「ちょーっとごめんね~」なんて言って、元気良く僕の上に乗り上げ、左隣に座る類さんに手を突き出す。

「はい、類ちゃん。アーン♪」

「おう」と短く頷いて、類さんはニャン太さんの差し出したマカロンを口にした。

「……って、あれれ? 寝起きでもないのに、なんだか素直じゃない? いつもだったら、自分で食えるーとか言って真っ先に拒否するのに」

「なんだよ。そっちのが良かったわけ」

「いや、そんなことはないけど、でも……なんか調子狂うっていうか……」

「わかった。もうお前にはデレねぇ」

「え! ヤダヤダ、デレてよ! もっともっ――」

 言葉の途中で、類さんはニャン太さんを抱き寄せた。

「わふっ……!」

 押さえつけるようにして、背中を撫でる。

「お前、また筋肉付いたんじゃね。抱き心地最悪なんだけど」

 そんなことを言って、軽く髪にキスをする。
 ニャン太さんは唖然として、もぐもぐと口を動かす類さんを見上げた。

「ここのマカロン、マジでうまいな。伝も食べてみ?」

「あ、はい。いただきます」

 類さんが食べさせてくれる。
 サクッとした食感ののち、絶妙な酸味のカシスクリームとホワイトチョコが舌の上でとろけた。
 僕は眼鏡を外して、目元を抑える。
 美味しいものを食べた時、よくくねくねして感動を表現する人がいるが、今、そんな気持ちだ。マカロンってひとつひとつが高いから食べたことがなかったが……こんなに贅沢な味がするのか……

 舌鼓を打ちつつ、ふとニャン太さんを見れば、彼の顔は耳まで真っ赤だった。
 類さんの態度が本当に予想外だったのだろう、珍しく大人しくなっていた。

「ソウ。ほら、お前も」

 類さんが左隣に座るソウさんに、マカロンを抓んで差し出した。
 彼は類さんの手を掴んでパクつく。

「……うん、美味しい」

「な。日本初上陸の店だって。こんだけ美味いの食うと、本場のフランスに行きたくなるな」と、箱に入っていたリーフレットを見ながら類さん。

「帝人も食ってみろよ。この辺、甘さ控えめっぽいから。これ柚子味だろ、こっちのは……ほうじ茶だってさ」

「じゃあ、貰おうかな」

 帝人さんはほうじ茶のマカロンを抓み上げた。

 リビングには、いつもとは少しだけ違う空気が流れていた。
 類さんがじゃれついてくるニャン太さんを茶化さなかったせいだろう。

 しばらく俯いていたニャン太さんは、すごすご自分の席に戻ると、忙しなく前髪を触ったり、取り皿によそったちょっとのポテトサラダを、ちょこちょこ食べたりした。

「……というか、なんだか俺たちいつもパーティーしてるね」

 束の間の沈黙を破ったのは、帝人さんだった。

「えっ、そうだっけ?」とニャン太さん。

「先月も仮装パーティーしたでしょ」

「あー……確かに? でも、この前は類ちゃんいなかったから」

 ニャン太さんは調子を取り戻したようにソファの上であぐらをかいた。

「そもそもの話さ、毎月パーティーしたっていいじゃん? 大好きな人とたっくさんイベント重ねて、同じ思い出作って……それってめっちゃ楽しいし幸せなことだし。毎日でもしたいくらいだよ」

「ううん、毎日はちょっと……」

「昔の貴族ってこのテンションだったんかな」と類さん。

 そんなやり取りを眺めていると、ソウさんが少し離れた場所にあったチーズを僕に取り分けてくれた。

「ありがとうございます」

 チーズを食べながら、僕は内心ニャン太さんの意見に全力で頷いていた。

 もちろん毎日パーティーはやり過ぎだと思うし、そんなに贅沢がしたいわけでもない。
 しかし、今日みたいにみんなと過ごして、心がお風呂に入ったように温かくなる日を重ねた未来を思うと、ワクワクするのだ。

「あの日、あんなことがあったね」と話せる相手がいることの喜びというか。
 うまくいえないが……家族になっていくことの実感?というか。

 僕にとって、家族というのは生まれながらに用意されたものだった。だから何となしに暮らす毎日の重要性に気付かなかった。

 腹を割って話をしようともしなかったし、たくさんあっただろう一緒に過ごした小さな喜びも忘れてしまって、それでいて自分をわかって欲しいだなんて傲慢に過ぎるだろう。

 知ろうと思うこと。
 知りたいと思うこと。
 知って貰おうとすること。

 父も母も兄も、それらを重ねることが出来るというだけの相手でしかなかったのに。
 僕は彼らとぶつかることもせず、価値観を共有することもしないで、勝手にわかり合えないのだと決めつけていた。

「お腹もいっぱいになったし、そろそろお待ちかねの時間かな~!」

 惣菜の殆どを胃袋に納め、ダラダラしつつケーキをつまんだりしていると、ニャン太さんが勢いよくソファを立った。

 それから、こそこそと準備をしていた風船を僕らにひとつずつ手渡した。

「はい! みんな1個ずつ膨らませてね」

「あの、一体何をするつもりですか?」

 問えば、彼はよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに笑顔を弾けさせる。

「プレコンだよ!」

「プレゼント交換ね」

 一瞬、意味を損ねた僕に帝人さんが説明してくれる。

「それでこの風船は何に使うんだ?」とソウさんが首を傾げた。

「風船の中にプレゼント番号を書いた紙を入れたんだよ。で、ダーツを投げて割れた風船の中身を貰うってわけ」

「なるほどね。でも、プレゼントより風船の方が多いみたいだけど……?」と帝人さん。

 それにニャン太さんはキョトンとした。

「そりゃ、ハズレもあるから」

「ハズレ? 交換なのに、ハズレがあるんですか?」

「もちのロンロン。ハズレの景品もバッチリ用意したし!」

 言うと、彼は冷蔵庫にしまってあった小さな箱を持ってくる。
 中にはふたつシュークリームが入っていた。

「シュークリーム……?」

「その店、高縞屋に入ってたんかい」と、類さんがゲンナリしたように言う。

「類さん、知ってるんですか?」

「変わったシューを売ってるって、テレビで紹介されてたのを見たんだよ」

「変わった……?」

「ロシアンルーレットに使うようなやつ。中にワサビとかハバネロとか入ってんの」

「え」

 ハズレというか、それはもう罰ゲームでは……?

 帝人さんと目が合う。
 たぶん僕らは同じ事を考えていた。

 そんな僕らのことなど気にもせず、ニャン太さんはダーツを用意し、壁際に風船を設置すると、高らかに宣言した。

「それじゃ、プレゼント交換いってみよ~ッ!」
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