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chapter4
step.32-9 青写真(ブルーフィルム)と告白
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「……どうしてそう思うの?」
帝人さんはそう言って、焼き魚の骨を取る手を止める。
僕はお茶で喉を湿らせてから、続けた。
「……少し前に、類さん変わりたいって言ってたんです。愛されてることを受け取りたいって。だからもう、ひとりで抱え込むことはないなって思ったんですよ」
「……そんなに人は簡単には変われないと思うけど」
「はい、もちろんです。だからこそ僕は信じて待とうと思います」
「だからこそ……?」
「信じてくれる人がいたら、それだけで力になると思うから」
そんな力があることを、僕は類さんに教わった。
「誰かに頼るって、凄く大変なことですよね。類さんは甘え上手だけど責任感が強いから、なおさら苦労すると思うんです」
帝人さんの言う通り、類さんにとってソウさんは特別だ。
昔のこともあるし、どうしたって今回のことも自分に原因を求めてしまうに違いない。
そんな状態で、僕らに助けてと言うのはきっとキツいだろう。
「でも、だからこそ僕は何も言わないで、待ちたい。もう彼の中で準備は出来てると思うんですよ」
僕は少し前の自分を思い返して、一度言葉を区切る。
「僕もずっと変わりたいと思ってました。何をやってもダメな自分が大嫌いで、でも、全然変われなかった」
成果のない日々に、自信ばかりがなくなっていった。
「……僕はきっと焦っていたんですね。変わりたいって気持ちばかりが先行して何も見えていなかった。
でも、類さんはこんな僕のことを信じてくれました。大丈夫だって言い続けてくれた。
そして気が付くと、僕は前よりも少しだけ変われていて……好きになれる自分になっていました」
ゆっくりでも、なりたい自分になれている。
そんな気がしたのだ。
「今は、類さんがみんなのことを凄く大事に思ってるように、僕だって大事に思われていると感じてます。ーーなんて図々しいかもですが。でも、そこ疑ったらダメというか。類さんのことを疑うことになっちゃうので」
僕は苦笑を浮かべる。
こんな風に自分が思えるようになるなんて、想像もしたことがなかった。
僕の中にはいつも漠然とした不安があって、孤独があったから。
そんなもやもやした感情を類さんは見つめてくれて、寄り添ってくれた。
「僕は、僕を信じてくれてる類さんを信じてます。そのお陰で、悩むことなく前に進める。
類さんにもそんな風に思って欲しいんです。だから、僕は彼のことを信じて、待ちます」
「助けて」と頼ってくれるまで。
きっと、彼は僕を頼ってくれる。僕だけじゃない。ニャン太さんにも帝人さんにも、ソウさんにも、背中を預けてくれるだろう。彼の人生に、僕らを前向きに巻き込んでくれるはず。
「…………」
帝人さんが押し黙る。
僕は頬が熱くなるのを感じた。思わず語ってしまった。
「……なんだか長々とすみません」
頭を下げて、僕は食事に戻る。
帝人さんはフッと吐息をこぼすと、柔和に微笑んだ。
「ううん。君の考え、聞けて凄く良かったよ」
ちょっと……いや、かなり気恥ずかしい。
沈黙が落ちて、ふたりして黙々と箸を口に運ぶ。
「そ、そういえば、壁に取り付ける手すりなんですけど……」
僕は俯きつつ無理やり話題を変えた。
ひじきの煮物に入っていた枝豆がつるりと箸から逃げ出して、慌てて抓み直し口に放る。
……だからその時、僕は帝人さんがどんな表情をしていたのか、見ることはなかった。
* * *
ソウさんが退院して、マンションに戻ってきた。
担当のお医者さんの話では、彼の視力は徐々に回復してきているらしい。
それを聞いて、類さんは泣いて喜んだ。
「おかえり~、ソウちゃん!」
玄関に1番に飛び込んだニャン太さんが、振り返ってソウさんに微笑む。
「ただいま」
ソウさんは類さんに支えられて、靴を脱いだ。
ニャン太さんは、ダンスに誘う王子のような恭しい身振りで彼の手を握りしめる。
「エスコートはこのボクにお任せあれ」
それからリビングにゆっくりと向かった。
「足元段差あるから、気を付けてね」
「ソウが動きやすいように、いろいろ準備してみたんだ。と言っても、家具の場所替えるのはわからなくなっちゃうだろうから、コーナーガード付けたりとか、小さなことだけど」
と、帝人さんがソウさんとニャン太さんの背中を見守りながら言う。
僕はふたりがリビングにつくと、ソウさんの前に回った。
「ソウさん。少しこちらに手を伸ばしてください」
言って、彼の手を取り壁に新たに設置したものに導く。
「何だ、これ?すべすべしている……」
「壁にウッドハンガーを付けてみたんですよ」
先日、帝人さんと夕食を食べた時に話したものだ。
手すりだと指先をぶつけたりしてケガをすることもあると聞いたので、手のひら大の半球体のハンガーを壁に取り付けた。
それは、ソウさんが手を下ろした時に自然と触れられるように、腰の高さに合わせ、一定の距離間隔でまっすぐ並んでいる。
「基本、俺らの誰かが一緒にいるようにするけど、ひとりでもこれがあれば壁伝いに移動できるだろ?」と類さん。
「なるほど。……助かる」
ソウさんは興味深そうに、そのウッドハンガーを触って、それから試しにひとりで歩いてみたりしていた。
* * *
再び、みんなで過ごす日常が戻ってきた。
ソウさんの代わりに、僕らは料理に取り組んだ。
惣菜を買ってくるという案もあったが、とりあえず限界まで自炊してみようということになった。
しかし、ソウさんが退院して初日の夕食は、予想外の味の牛丼だった。
「類さん、どうして牛丼に練乳を入れたんですか……」
僕はお米と一緒に牛丼を口に頬張る。
口の中に言葉に出来ない甘さが広がって、飲み込むのに苦労した。
「……甘塩っぱくてコクが出るかと」と、顔をしかめて類さん。
「どうしてレシピ通りに作らないかな」
そう言ったニャン太さんの一口は珍しく小さい。
「レシピ通りに作ったよ」
「余計なもの入れたら、レシピ通りとは言わないよ……」
帝人さんが肩を落とす。
類さんは家族の中で1番舌が肥えているはずなのに、自分で味を調えようとするととんでもない味にしてしまうと知った。正確には、調味料の量に対して大雑把だった。隠し味に練乳を入れたことは100歩譲って良いとしても、あまりに多く入れたせいで隠し味じゃなくてメインになっている。
類さんはソウさんの口に牛丼を運びながら言った。
「ソウ、残していいぞ」
「いい、食べる」
ソウさんは顔色ひとつ変えず黙々と食べ続ける。
「……類ちゃんは材料切る係で決定ね」
「挑戦なくして新たな美味には出会えねぇぞ」
「フツーの味がいいんだってば!」
その日の夜、類さんは僕らに「一緒にソウさんを支えて欲しい」と言った。
僕はそれが、とても、とても嬉しかった。
□ ■ □
入浴の手伝いをした帝人に手を引かれて、蒼悟は自室に戻ってきた。
「ソウ。ベッドついたよ」
手を引き、ベッドの場所を教える。
蒼悟は小さく頷くと、布団の中に潜り込む。
上掛けを肩まで持ち上げて、枕元にある電気のリモコンに手を伸ばした帝人は、ふと、口を開いた。
「類のこと呼んでこようか」
「何故だ?」
「ひとりだと、いろいろ不安だろう?」
その問いは核心を突いていたようで、蒼悟は束の間、戸惑ったように言葉を探す。
やがて、彼はゆるりと首を左右に振った。
「……いや。いい。俺は大丈夫だ」
「ソウ。類に傍にいて欲しかったら、ちゃんと言わなくちゃ」
帝人は困ったように笑う。
蒼悟が遠慮していると思ったのだ。けれど、
「……言わない」
頑なな様子に、自分の考えが外れていたと気付いて帝人はキョトンとした。
「え……どうして?」
「……俺はたぶん、類と少し離れた方がいいから」
思わぬ言葉に、帝人は息を飲む。
「な、何言ってるんだよ。離れるだなんて……類にはソウが必要なんだよ」
蒼悟はゆっくりと瞬きをすると、薄く瞼を持ち上げた。
「……俺もそう思ってた。でも、必要としてるのは俺の方だった」
言って、彼は目元に手の甲を押し付ける。
「何も見えなくなって……俺は嬉しかった。類のことだけ考えていられるから。類も俺のことだけを考えてくれるから。……こんな風に思うなんて、俺はどうかしている」
帝人が小さく息を飲む。
「類はずっと自由になりたがっていたんだと思う。その気持ちを潰して、縛り付けてたのは俺だ。俺はずっと類を独り占めしていた。だからこの寂しさに気付かなかった」
「そんなこと……」
「俺は間違ってた。類と一緒に傷つくべきじゃなかったんだ」
「……やめようよ、ソウ」
静かに告げて、帝人はソウが横になるベッドの直ぐ傍に膝を付いた。
「間違ってないよ。……君が間違ってるわけがないんだ。君は全身全霊で類のことを愛してる。それが間違いだなんて思っちゃいけない。
愛に正解も不正解もないよ」
「……俺はあると思う。伝と暮らして、なんとなくわかった」
「伝くん……?」
「一緒に傷つくのは愛じゃない。俺のエゴだ。愛は一緒に同じ方向を見ることーー未来を見ること、なんだと思う」
蒼悟は目を閉じた。
「類はずっと俺のために、俺のことを見ていてくれた。俺はその類の優しさを利用していた。だが……
俺も、変わらないと」
「……変わるのって、そんなに大事なこと?」
ポツリと帝人が口を開く。
「今までだって十分幸せだったじゃないか。未来ってそんなに重要なのかな?」
「帝人……」
「君は間違ってなんていないよ。君はいつだって正しい」
帝人は自分に言い聞かせるように告げて、首を左右に振る。
それからソウの頬に触れようとした手をピタリと止めた。……その手は、薄いラテックスの膜に覆われている。
「……いろいろと考えてしまうのは、疲れてるせいだと思うよ。ね、ソウ。早く休んで。君が眠るまで傍にいるからさ」
トントンと一定のリズムで上掛けを優しく叩く。
やがて穏やかな寝息が聞こえてくる頃、帝人はソウの寝顔を見下ろして口の中で呟いた。
「大丈夫だよ。……俺が間違いになんて、させないからね」
帝人さんはそう言って、焼き魚の骨を取る手を止める。
僕はお茶で喉を湿らせてから、続けた。
「……少し前に、類さん変わりたいって言ってたんです。愛されてることを受け取りたいって。だからもう、ひとりで抱え込むことはないなって思ったんですよ」
「……そんなに人は簡単には変われないと思うけど」
「はい、もちろんです。だからこそ僕は信じて待とうと思います」
「だからこそ……?」
「信じてくれる人がいたら、それだけで力になると思うから」
そんな力があることを、僕は類さんに教わった。
「誰かに頼るって、凄く大変なことですよね。類さんは甘え上手だけど責任感が強いから、なおさら苦労すると思うんです」
帝人さんの言う通り、類さんにとってソウさんは特別だ。
昔のこともあるし、どうしたって今回のことも自分に原因を求めてしまうに違いない。
そんな状態で、僕らに助けてと言うのはきっとキツいだろう。
「でも、だからこそ僕は何も言わないで、待ちたい。もう彼の中で準備は出来てると思うんですよ」
僕は少し前の自分を思い返して、一度言葉を区切る。
「僕もずっと変わりたいと思ってました。何をやってもダメな自分が大嫌いで、でも、全然変われなかった」
成果のない日々に、自信ばかりがなくなっていった。
「……僕はきっと焦っていたんですね。変わりたいって気持ちばかりが先行して何も見えていなかった。
でも、類さんはこんな僕のことを信じてくれました。大丈夫だって言い続けてくれた。
そして気が付くと、僕は前よりも少しだけ変われていて……好きになれる自分になっていました」
ゆっくりでも、なりたい自分になれている。
そんな気がしたのだ。
「今は、類さんがみんなのことを凄く大事に思ってるように、僕だって大事に思われていると感じてます。ーーなんて図々しいかもですが。でも、そこ疑ったらダメというか。類さんのことを疑うことになっちゃうので」
僕は苦笑を浮かべる。
こんな風に自分が思えるようになるなんて、想像もしたことがなかった。
僕の中にはいつも漠然とした不安があって、孤独があったから。
そんなもやもやした感情を類さんは見つめてくれて、寄り添ってくれた。
「僕は、僕を信じてくれてる類さんを信じてます。そのお陰で、悩むことなく前に進める。
類さんにもそんな風に思って欲しいんです。だから、僕は彼のことを信じて、待ちます」
「助けて」と頼ってくれるまで。
きっと、彼は僕を頼ってくれる。僕だけじゃない。ニャン太さんにも帝人さんにも、ソウさんにも、背中を預けてくれるだろう。彼の人生に、僕らを前向きに巻き込んでくれるはず。
「…………」
帝人さんが押し黙る。
僕は頬が熱くなるのを感じた。思わず語ってしまった。
「……なんだか長々とすみません」
頭を下げて、僕は食事に戻る。
帝人さんはフッと吐息をこぼすと、柔和に微笑んだ。
「ううん。君の考え、聞けて凄く良かったよ」
ちょっと……いや、かなり気恥ずかしい。
沈黙が落ちて、ふたりして黙々と箸を口に運ぶ。
「そ、そういえば、壁に取り付ける手すりなんですけど……」
僕は俯きつつ無理やり話題を変えた。
ひじきの煮物に入っていた枝豆がつるりと箸から逃げ出して、慌てて抓み直し口に放る。
……だからその時、僕は帝人さんがどんな表情をしていたのか、見ることはなかった。
* * *
ソウさんが退院して、マンションに戻ってきた。
担当のお医者さんの話では、彼の視力は徐々に回復してきているらしい。
それを聞いて、類さんは泣いて喜んだ。
「おかえり~、ソウちゃん!」
玄関に1番に飛び込んだニャン太さんが、振り返ってソウさんに微笑む。
「ただいま」
ソウさんは類さんに支えられて、靴を脱いだ。
ニャン太さんは、ダンスに誘う王子のような恭しい身振りで彼の手を握りしめる。
「エスコートはこのボクにお任せあれ」
それからリビングにゆっくりと向かった。
「足元段差あるから、気を付けてね」
「ソウが動きやすいように、いろいろ準備してみたんだ。と言っても、家具の場所替えるのはわからなくなっちゃうだろうから、コーナーガード付けたりとか、小さなことだけど」
と、帝人さんがソウさんとニャン太さんの背中を見守りながら言う。
僕はふたりがリビングにつくと、ソウさんの前に回った。
「ソウさん。少しこちらに手を伸ばしてください」
言って、彼の手を取り壁に新たに設置したものに導く。
「何だ、これ?すべすべしている……」
「壁にウッドハンガーを付けてみたんですよ」
先日、帝人さんと夕食を食べた時に話したものだ。
手すりだと指先をぶつけたりしてケガをすることもあると聞いたので、手のひら大の半球体のハンガーを壁に取り付けた。
それは、ソウさんが手を下ろした時に自然と触れられるように、腰の高さに合わせ、一定の距離間隔でまっすぐ並んでいる。
「基本、俺らの誰かが一緒にいるようにするけど、ひとりでもこれがあれば壁伝いに移動できるだろ?」と類さん。
「なるほど。……助かる」
ソウさんは興味深そうに、そのウッドハンガーを触って、それから試しにひとりで歩いてみたりしていた。
* * *
再び、みんなで過ごす日常が戻ってきた。
ソウさんの代わりに、僕らは料理に取り組んだ。
惣菜を買ってくるという案もあったが、とりあえず限界まで自炊してみようということになった。
しかし、ソウさんが退院して初日の夕食は、予想外の味の牛丼だった。
「類さん、どうして牛丼に練乳を入れたんですか……」
僕はお米と一緒に牛丼を口に頬張る。
口の中に言葉に出来ない甘さが広がって、飲み込むのに苦労した。
「……甘塩っぱくてコクが出るかと」と、顔をしかめて類さん。
「どうしてレシピ通りに作らないかな」
そう言ったニャン太さんの一口は珍しく小さい。
「レシピ通りに作ったよ」
「余計なもの入れたら、レシピ通りとは言わないよ……」
帝人さんが肩を落とす。
類さんは家族の中で1番舌が肥えているはずなのに、自分で味を調えようとするととんでもない味にしてしまうと知った。正確には、調味料の量に対して大雑把だった。隠し味に練乳を入れたことは100歩譲って良いとしても、あまりに多く入れたせいで隠し味じゃなくてメインになっている。
類さんはソウさんの口に牛丼を運びながら言った。
「ソウ、残していいぞ」
「いい、食べる」
ソウさんは顔色ひとつ変えず黙々と食べ続ける。
「……類ちゃんは材料切る係で決定ね」
「挑戦なくして新たな美味には出会えねぇぞ」
「フツーの味がいいんだってば!」
その日の夜、類さんは僕らに「一緒にソウさんを支えて欲しい」と言った。
僕はそれが、とても、とても嬉しかった。
□ ■ □
入浴の手伝いをした帝人に手を引かれて、蒼悟は自室に戻ってきた。
「ソウ。ベッドついたよ」
手を引き、ベッドの場所を教える。
蒼悟は小さく頷くと、布団の中に潜り込む。
上掛けを肩まで持ち上げて、枕元にある電気のリモコンに手を伸ばした帝人は、ふと、口を開いた。
「類のこと呼んでこようか」
「何故だ?」
「ひとりだと、いろいろ不安だろう?」
その問いは核心を突いていたようで、蒼悟は束の間、戸惑ったように言葉を探す。
やがて、彼はゆるりと首を左右に振った。
「……いや。いい。俺は大丈夫だ」
「ソウ。類に傍にいて欲しかったら、ちゃんと言わなくちゃ」
帝人は困ったように笑う。
蒼悟が遠慮していると思ったのだ。けれど、
「……言わない」
頑なな様子に、自分の考えが外れていたと気付いて帝人はキョトンとした。
「え……どうして?」
「……俺はたぶん、類と少し離れた方がいいから」
思わぬ言葉に、帝人は息を飲む。
「な、何言ってるんだよ。離れるだなんて……類にはソウが必要なんだよ」
蒼悟はゆっくりと瞬きをすると、薄く瞼を持ち上げた。
「……俺もそう思ってた。でも、必要としてるのは俺の方だった」
言って、彼は目元に手の甲を押し付ける。
「何も見えなくなって……俺は嬉しかった。類のことだけ考えていられるから。類も俺のことだけを考えてくれるから。……こんな風に思うなんて、俺はどうかしている」
帝人が小さく息を飲む。
「類はずっと自由になりたがっていたんだと思う。その気持ちを潰して、縛り付けてたのは俺だ。俺はずっと類を独り占めしていた。だからこの寂しさに気付かなかった」
「そんなこと……」
「俺は間違ってた。類と一緒に傷つくべきじゃなかったんだ」
「……やめようよ、ソウ」
静かに告げて、帝人はソウが横になるベッドの直ぐ傍に膝を付いた。
「間違ってないよ。……君が間違ってるわけがないんだ。君は全身全霊で類のことを愛してる。それが間違いだなんて思っちゃいけない。
愛に正解も不正解もないよ」
「……俺はあると思う。伝と暮らして、なんとなくわかった」
「伝くん……?」
「一緒に傷つくのは愛じゃない。俺のエゴだ。愛は一緒に同じ方向を見ることーー未来を見ること、なんだと思う」
蒼悟は目を閉じた。
「類はずっと俺のために、俺のことを見ていてくれた。俺はその類の優しさを利用していた。だが……
俺も、変わらないと」
「……変わるのって、そんなに大事なこと?」
ポツリと帝人が口を開く。
「今までだって十分幸せだったじゃないか。未来ってそんなに重要なのかな?」
「帝人……」
「君は間違ってなんていないよ。君はいつだって正しい」
帝人は自分に言い聞かせるように告げて、首を左右に振る。
それからソウの頬に触れようとした手をピタリと止めた。……その手は、薄いラテックスの膜に覆われている。
「……いろいろと考えてしまうのは、疲れてるせいだと思うよ。ね、ソウ。早く休んで。君が眠るまで傍にいるからさ」
トントンと一定のリズムで上掛けを優しく叩く。
やがて穏やかな寝息が聞こえてくる頃、帝人はソウの寝顔を見下ろして口の中で呟いた。
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