ファミリア・ラプソディア

Tsubaki aquo

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chapter4

step.34-2 罪と罰

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――話は、数時間前に遡る。

 帝人さんのマンションを出た僕は、ひとまず通っている大学に向かった。そしてパソコン室で類さんのお父さんが亡くなった日のことを調べた。

 皮肉なことに、最近のマスコミの諸々のせいで、彼が通っていた高校や住んでいた自宅の場所はすぐにわかった。
 僕は間をおかず、そこへーー火事のあった現場へ足を向けた。

 ゆっくりしている暇はない。帝人さんのことだ、彼は粛々と外堀を埋めて行くだろう。
 時間を置かず、僕がいられなくなるような状況を作り上げることは想像に難くない。

 西日が滲む橙色の空の下、僕は両端がコンクリートで固められた大きな川の隣の道を歩く。

 類さんたちの過去をなぞるように。
 自分の推測を確かなものにする何かを見つけられるといい……そんな淡い期待と共に。

 火事の跡地は駐車場になっていた。
 僕はしばらく立ち尽くすと、端っこでぎこちない動作でしゃがみ込み、そっと手を合わせた。

 身体のあちこちが痛む。
 僕はゆっくりと立ち上がり、帝人さんを思った。

 彼と僕との決定的なズレの正体。
 そして彼自身が気付いていないだろう、いくつかの矛盾。

 けれど、彼と話をするにはまだパーツが足りない。
 どんな些細なものでもいい。
 何か、何か、彼の真実をかたどる手がかりがあれば――

 その時だった。

「あなた、作家先生のファンの人?」

 背後から、犬の散歩中の中年女性に声をかけられた。

「あ、ええと……そのようなものです」

「だと思ったのよ。この間も若い子たちが来たりしてたから。マスコミなら手を合わせたりしないしね」

 女性はカラカラと笑う。

「ここの子が凄い作家先生になったんでしょ? サイン貰っておけば良かったわ」

「あの、あなたは……」

 問うと、彼女は指先を隣の家に向けた。

「お隣さんよ」

 それから彼女は最近やっとマスコミが落ち着いたことや、テレビに出たことを少し自慢げに話してくれた。
 後は、高校時代の類さんの美少年ぶりだとか……

 僕は相槌を打ってそれを聞いた。
 彼女の話は尽きるところがなく、正直、切り上げ時がわからず困ってしまう。
 けれど、それがむしろ幸いした。
 彼女は火事の日のことも話してくれたのだ。

「……あの時はたくさん警察が来てね。放火が疑われてたのよ。私もいろいろ訊かれて大変だったわ~」

「え……?」

 告げられた言葉に、僕はゆっくりと瞬きをする。

 放火?
 それは、初耳だ。
 ニャン太さんは寝タバコが原因だと言っていたはず。

「……放火が疑われるようなことが、あったんですか?」

 問うと、彼女の目が楽しげにキラリと光った。

「警察にしか話してないんだけどね、実はあの日……」

 告げられたことに、喉が鳴る。
 確かなものを感じて、汗の滲む手のひらをゆっくりと握りしめた。

 そして、僕はマンションに戻った。
 ……強い意志と覚悟をもって。

* * *

「あの、戻ってきて早々申し訳ないんですけど、お話ししたいことがあるんです」

 類さん、ニャン太さん、ソウさん、それから帝人さん――みんなの顔をゆっくりと見渡して、僕は言った。

「話したいこと?」

 ニャン太さんがキョトンとする。

「はい」と、僕は努めて穏やかに頷いた。

「……帝人さんとのことで」

 帝人さんの眼差しが鋭さを帯びる。
 僕はそれを真っ向から受け止めた。

「帝人とのこと、って……え、ふたり何かあったの?」

「実はケンカをしてしまいました」

 肩をすくめると、「えぇっ!?」とニャン太さんが目を白黒させた。

「帝人と? ケンカ? デンデンが!? 何で!?」

 僕はちょっと困ったように笑う。

「原因は些細なことでして、話すようなことではないんです。……ただ、その過程でどうしても譲れないことができてしまって。その説得をしたくて」

 類さんがキッチンへ向かって、ソウさんの手を引いて戻ってきた。
 ふたりがリビングのソファに座る。

「そういうことなら……?」

 ニャン太さんもそれに倣おうとして、ふと、僕と帝人さんを交互に見た。

「あ、でも。それってボクら、一緒にいていい話?」

「……別に、いいんじゃない?」

 帝人さんはつまらなそうに言って、いつもの定位置に腰を下ろす。

「はい、いてください」

 僕もニャン太さんに頷いた。

「帝人さんと家族になるための、お話ですから」
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