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第1話 ボーイ・ミーツ・ボーイ
始まりの街
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目指すは、屋敷から一番近い大きな街――ココラド。
幸い初めての騎乗に手こずることはなかったが、長時間の移動に身体が堪えられなかった。
疲れ切った身体では無茶もできず、小まめに休憩をとりつつ進めば、1週間もかかってしまった。前世ならば馬を乗り換え1日で辿り付く距離にも関わらず、だ。
「……このペースじゃ、まずい」
馬を預け、ココラドのとある食事処で地図を見下ろしていた俺は、頭を抱えて呻いた。
この街は大陸を三分する大国のひとつ、ギルド国家・フォルタシュタルクの北西に位置する。
西側一帯は魔王領と近接しており、北海を挟んだ向こう側にはドラゴンが支配するシェンメル、南側には商業都市同盟ハイト・リベレート、両国に挟まれ大陸の最東には貴族国家・アリストフォンがある。
前世の記憶の地図と照合するに、妖精の森は大陸三国が近接する禁域に位置しているようなのだ。つまり、今の速度で旅を続けていくと、
「少なく見積もっても半年はかかる……」
長い溜息の後に、俺は軽食の残りを口に詰め込んだ。
とにかく、今世の身体は体力がなさ過ぎる。
一日数時間、馬に揺られただけで、太股と腹筋がちぎれたように痛み、食事をするのも億劫だ。
父親が用意してくれたお金があったからこそ宿を取りつつ進んで来られたが、このままでは路銀も相当かかる。
旅の速度を上げるだけでなく、金策も考える必要があるだろう。
親に手紙を飛ばせば金の工面はして貰えるだろうが、愛する人と出会うための旅費を親に出して貰うなんて、あまりにも格好悪すぎるし……
俺は食事処に張り出された掲示板を見やった。
ここ数年、魔物の動きが活発になりつつあることから、討伐の依頼ならそこそこありそうだ。しかし今の俺では最弱の魔物すら倒すことはできないだろうし、そもそも依頼を受けるにはギルドの登録が必要だ。
俺は口の周りについた油を指先で拭ってから、席を立った。
「ごちそうさま」
店を出ると、色鮮やかな街並みが目に飛び込んでくる。
前世の頃と比べるべくもなく、今の時代は豊かだ。
まず街も人も小綺麗だし、トイレや風呂などの水回りは驚くほど便利になった。
食事も目を見張るばかりに美味いものばかり。
この街の治安がとりわけいいのかもしれないが……表通りで殴り合う血気盛んな若者もいない。
貧富の差はあっても、これは前世も同じだ。むしろ浮浪者に石を投げる者がいないだけ、倫理観が成熟しているように思う。
身を守る術もないこんな子供でも1週間、旅をすることができたのだ。
整備の進んだ街道に、宿場町……前世の時代なら、途中で野犬や魔物に喰い殺されていたか、ならず者に嬲り殺されて身ぐるみを剥がされていただろう。
宿屋を探しつつ、俺は興味津々で辺りを見渡しつつ歩いていた。
今世では屋敷から出たことがなかったことも相まって、前世との違いが目に目映く映る。
「……お。イーシャに似合いそうだ」
大通りに並ぶとある露店の前で足を止め、髪飾りを手に取る。
露店の品物にも関わらず、前世では貴族たちが身に付けたような繊細なものばかりなのは驚きだ。
「でも、旅が始まってすぐに荷物を増やすのもなぁ。いや、でも、こういうのは一期一会って言うし……」
髪飾りをプレゼントした時のことを想像すると、自然と口元が緩む。
彼は戸惑うだろうし、不要だと言うだろうが、何だかんだ言って身に付けてくれるのだ。
「おばちゃん。これ、ください」
浮き足立つ気持ちで、露店の老女に声をかける。
……この時の俺は、これから身に起こるおぞましい出来事なんて想像だにしていなかった。
幸い初めての騎乗に手こずることはなかったが、長時間の移動に身体が堪えられなかった。
疲れ切った身体では無茶もできず、小まめに休憩をとりつつ進めば、1週間もかかってしまった。前世ならば馬を乗り換え1日で辿り付く距離にも関わらず、だ。
「……このペースじゃ、まずい」
馬を預け、ココラドのとある食事処で地図を見下ろしていた俺は、頭を抱えて呻いた。
この街は大陸を三分する大国のひとつ、ギルド国家・フォルタシュタルクの北西に位置する。
西側一帯は魔王領と近接しており、北海を挟んだ向こう側にはドラゴンが支配するシェンメル、南側には商業都市同盟ハイト・リベレート、両国に挟まれ大陸の最東には貴族国家・アリストフォンがある。
前世の記憶の地図と照合するに、妖精の森は大陸三国が近接する禁域に位置しているようなのだ。つまり、今の速度で旅を続けていくと、
「少なく見積もっても半年はかかる……」
長い溜息の後に、俺は軽食の残りを口に詰め込んだ。
とにかく、今世の身体は体力がなさ過ぎる。
一日数時間、馬に揺られただけで、太股と腹筋がちぎれたように痛み、食事をするのも億劫だ。
父親が用意してくれたお金があったからこそ宿を取りつつ進んで来られたが、このままでは路銀も相当かかる。
旅の速度を上げるだけでなく、金策も考える必要があるだろう。
親に手紙を飛ばせば金の工面はして貰えるだろうが、愛する人と出会うための旅費を親に出して貰うなんて、あまりにも格好悪すぎるし……
俺は食事処に張り出された掲示板を見やった。
ここ数年、魔物の動きが活発になりつつあることから、討伐の依頼ならそこそこありそうだ。しかし今の俺では最弱の魔物すら倒すことはできないだろうし、そもそも依頼を受けるにはギルドの登録が必要だ。
俺は口の周りについた油を指先で拭ってから、席を立った。
「ごちそうさま」
店を出ると、色鮮やかな街並みが目に飛び込んでくる。
前世の頃と比べるべくもなく、今の時代は豊かだ。
まず街も人も小綺麗だし、トイレや風呂などの水回りは驚くほど便利になった。
食事も目を見張るばかりに美味いものばかり。
この街の治安がとりわけいいのかもしれないが……表通りで殴り合う血気盛んな若者もいない。
貧富の差はあっても、これは前世も同じだ。むしろ浮浪者に石を投げる者がいないだけ、倫理観が成熟しているように思う。
身を守る術もないこんな子供でも1週間、旅をすることができたのだ。
整備の進んだ街道に、宿場町……前世の時代なら、途中で野犬や魔物に喰い殺されていたか、ならず者に嬲り殺されて身ぐるみを剥がされていただろう。
宿屋を探しつつ、俺は興味津々で辺りを見渡しつつ歩いていた。
今世では屋敷から出たことがなかったことも相まって、前世との違いが目に目映く映る。
「……お。イーシャに似合いそうだ」
大通りに並ぶとある露店の前で足を止め、髪飾りを手に取る。
露店の品物にも関わらず、前世では貴族たちが身に付けたような繊細なものばかりなのは驚きだ。
「でも、旅が始まってすぐに荷物を増やすのもなぁ。いや、でも、こういうのは一期一会って言うし……」
髪飾りをプレゼントした時のことを想像すると、自然と口元が緩む。
彼は戸惑うだろうし、不要だと言うだろうが、何だかんだ言って身に付けてくれるのだ。
「おばちゃん。これ、ください」
浮き足立つ気持ちで、露店の老女に声をかける。
……この時の俺は、これから身に起こるおぞましい出来事なんて想像だにしていなかった。
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