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第1話 ボーイ・ミーツ・ボーイ
靄の魔物
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アウロラに睨みつけられた3人目の男は、すぐに自身の身の危うさを悟ったようだ。
「ひぇっ、ま、待て、話せばわかる!」
慌てて命乞いをし始めるが、アウロラには効果がなかったようで、容赦なく、再び上段からの一撃が男に炸裂。
ため息が溢れる程キレイに、男の身体が地面にズボッと埋まる。
というか……本当に地面に埋めるつもりだとは思わなかった。
「なんだなんだ、何がッ!?!? う、埋まってる!?」
騒ぎを聞きつけて、押しかけて来たならず者が、ギョッと目を剥く。
「て、てめぇ! よくも仲……ぎゃっ!」
「あっ、兄貴ぃッ!? 許せねえ、兄貴の仇はこの俺がビュフッ!」
「ちい兄まで!? 兄貴の仇をとろうとした、ちい兄の仇は俺ガバスッ!?」
アウロラがハンマーを振り回す度に、ひとりまたひとりと地面に埋まっていく。
正直言って、人間業とはとても思えなかった。
魔法で身体強化されているのもあるだろうが、それ以上に普段から鍛えているのだろう、動きのキレが凄まじい鋭さを誇っている。
「は、はは……」
思わず、乾いた笑いが落ちた。
後衛魔法使いのイメージが、一気に崩れた。
強い。
この速度で懐に入り込まれ、至近距離から高位魔法を放たれたら一瞬で消し炭にされる。
避ける暇などありはしない。
彼がならず者全員をのすまで、そう時間はかからなかった。
「これで全員……」
彼は嘆息すると、軽い運動を終えた後のような爽やかさで額の汗を拭った。
目の前に広がるのは、なんとも恐ろしい光景だ。
白目を剥いて気絶する男たちの首が生えている……
と、もがいて抜け出そうとするひとりの男がいて、アウロラはスタスタとそいつに近づくとしゃがみ込んだ。
「あの……」
「ヒッ! ヒィイ……ッ!」
悲鳴を上げて、男はアウロラを見上げる。
首から下が埋まっているというのは、想像以上に恐ろしいものかもしれない。
「盗んだ荷物を返してください。どこにありますか?」
男はガクガクと震えながら、顎である方角を示す。
「ありがとうございます」
アウロラは丁寧に言って、立ち上がった。
そんな彼に俺は声を掛けた。
「待てよ。こいつら、掘り返して縄で縛っておかないか」
懸念は全て潰しておくべきだ。
アウロラが彼らに負けるとは思えないが、目を覚まして這い出してきた連中が再び襲い掛 かってくる可能性もゼロではない。
……それに死なれても寝覚めが悪い。
「念には念を、ですね」
ふたりで協力し、俺たちは男たちを掘り返すと縄を掛けた。
逆に、檻の中で転がっていた御者の男は、拘束を外してやる。
「もう大丈夫ですよ」
「オッサン、どっか痛いとことかないか?」
声をかけると、彼は不明瞭な声を上げてワナワナと震えだした。
俺とアウロラは顔を見合わせる。
「あ、ああ、あああ!」
訝しげにすれば、彼は真っ青な顔をして俺たちの背後を指さした。
振り返れば――
「!!」
アウロラの杖の見張り番をしていた中型犬がそこにいた。……大きな黒い何かを背負っている。
よくよく見れば、その黒い何かは裂けた背中から噴き上がる、靄だった。
「何ですか、あれ……」
戸惑うような、アウロラの声。
俺は咄嗟に叫んだ。
「アウロラ、振り抜け!」」
「……っ!」
反射的に振るわれたハンマーが、今まさに襲い掛かってきていた黒い霧を散らす。
しかし、手ごたえはなかったようで、アウロラは神妙な表情を浮かべた。
黒い霧は再び集まると、俺たちの前でその形を大きく膨らませ、2メートルをゆうに超える巨大な獣を形どる。
間違いなく、これは魔物だ。
アウロラのマナに当てられて、正体を現したのだろう。
奴らは力のある人間を好む。それを食べることで強さを得られるからだ。
ソイツは地響きのような咆哮を上げた。
耳まで裂けた口には鋭い牙が見える。
「犬が魔物に……なった?」
混乱している様子のアウロラに、俺は敵を見据えたまま頷いた。
「あれは、アズって霧の魔物だ。擬態してたんだよ」
「擬態? そんな魔物がいるだなんて、聞いたことも……」
アウロラの言葉が終わるよりも早く、魔物は再び地響きのような唸り声を上げて彼に飛び掛かる。
「くっ……!」
頭を噛み砕こうと開いた大口を、アウロラはなんとか柄の部分で受け止め、その怪力で相手を押し返して頭部を一撃で粉砕した。
しかし、黒い霧は一瞬霧散しただけで、すぐ元通りになってしまう。
「まるで効いてない……一体、どうすれば……」
「大丈夫だ、そのまま続けてくれ」
「続けるって、すぐ元通りになってしまうのに?」
アウロラの声に焦りが滲む。
俺は努めて静かに応えた。
「魔物にはコアっていう心臓みたいなものが存在するんだ。そいつを破壊すれば倒すことが出来る」
「それくらい知っています。でも、そのコアがどこにあるかわからないんですよ」
「それは俺が見つける。だから、できるだけデタラメにヤツを散らしてくれ」
アズは靄の魔物だ。
擬態だけでなく、その姿は変幻自在。つまり、コアの場所も一定ではない。
しかし、戦闘中に頻繁にコアを移動できるほど繊細なヤツでもない。
アウロラは何か言いたそうにしたが、小さく息を吐き出すとすぐにハンマーを構え直した。
「……わかりました」
言うや否や、彼は魔物へと走り出す。
俺は目を眇めて、彼と魔物の攻防を見やった。
「ひぇっ、ま、待て、話せばわかる!」
慌てて命乞いをし始めるが、アウロラには効果がなかったようで、容赦なく、再び上段からの一撃が男に炸裂。
ため息が溢れる程キレイに、男の身体が地面にズボッと埋まる。
というか……本当に地面に埋めるつもりだとは思わなかった。
「なんだなんだ、何がッ!?!? う、埋まってる!?」
騒ぎを聞きつけて、押しかけて来たならず者が、ギョッと目を剥く。
「て、てめぇ! よくも仲……ぎゃっ!」
「あっ、兄貴ぃッ!? 許せねえ、兄貴の仇はこの俺がビュフッ!」
「ちい兄まで!? 兄貴の仇をとろうとした、ちい兄の仇は俺ガバスッ!?」
アウロラがハンマーを振り回す度に、ひとりまたひとりと地面に埋まっていく。
正直言って、人間業とはとても思えなかった。
魔法で身体強化されているのもあるだろうが、それ以上に普段から鍛えているのだろう、動きのキレが凄まじい鋭さを誇っている。
「は、はは……」
思わず、乾いた笑いが落ちた。
後衛魔法使いのイメージが、一気に崩れた。
強い。
この速度で懐に入り込まれ、至近距離から高位魔法を放たれたら一瞬で消し炭にされる。
避ける暇などありはしない。
彼がならず者全員をのすまで、そう時間はかからなかった。
「これで全員……」
彼は嘆息すると、軽い運動を終えた後のような爽やかさで額の汗を拭った。
目の前に広がるのは、なんとも恐ろしい光景だ。
白目を剥いて気絶する男たちの首が生えている……
と、もがいて抜け出そうとするひとりの男がいて、アウロラはスタスタとそいつに近づくとしゃがみ込んだ。
「あの……」
「ヒッ! ヒィイ……ッ!」
悲鳴を上げて、男はアウロラを見上げる。
首から下が埋まっているというのは、想像以上に恐ろしいものかもしれない。
「盗んだ荷物を返してください。どこにありますか?」
男はガクガクと震えながら、顎である方角を示す。
「ありがとうございます」
アウロラは丁寧に言って、立ち上がった。
そんな彼に俺は声を掛けた。
「待てよ。こいつら、掘り返して縄で縛っておかないか」
懸念は全て潰しておくべきだ。
アウロラが彼らに負けるとは思えないが、目を覚まして這い出してきた連中が再び襲い掛 かってくる可能性もゼロではない。
……それに死なれても寝覚めが悪い。
「念には念を、ですね」
ふたりで協力し、俺たちは男たちを掘り返すと縄を掛けた。
逆に、檻の中で転がっていた御者の男は、拘束を外してやる。
「もう大丈夫ですよ」
「オッサン、どっか痛いとことかないか?」
声をかけると、彼は不明瞭な声を上げてワナワナと震えだした。
俺とアウロラは顔を見合わせる。
「あ、ああ、あああ!」
訝しげにすれば、彼は真っ青な顔をして俺たちの背後を指さした。
振り返れば――
「!!」
アウロラの杖の見張り番をしていた中型犬がそこにいた。……大きな黒い何かを背負っている。
よくよく見れば、その黒い何かは裂けた背中から噴き上がる、靄だった。
「何ですか、あれ……」
戸惑うような、アウロラの声。
俺は咄嗟に叫んだ。
「アウロラ、振り抜け!」」
「……っ!」
反射的に振るわれたハンマーが、今まさに襲い掛かってきていた黒い霧を散らす。
しかし、手ごたえはなかったようで、アウロラは神妙な表情を浮かべた。
黒い霧は再び集まると、俺たちの前でその形を大きく膨らませ、2メートルをゆうに超える巨大な獣を形どる。
間違いなく、これは魔物だ。
アウロラのマナに当てられて、正体を現したのだろう。
奴らは力のある人間を好む。それを食べることで強さを得られるからだ。
ソイツは地響きのような咆哮を上げた。
耳まで裂けた口には鋭い牙が見える。
「犬が魔物に……なった?」
混乱している様子のアウロラに、俺は敵を見据えたまま頷いた。
「あれは、アズって霧の魔物だ。擬態してたんだよ」
「擬態? そんな魔物がいるだなんて、聞いたことも……」
アウロラの言葉が終わるよりも早く、魔物は再び地響きのような唸り声を上げて彼に飛び掛かる。
「くっ……!」
頭を噛み砕こうと開いた大口を、アウロラはなんとか柄の部分で受け止め、その怪力で相手を押し返して頭部を一撃で粉砕した。
しかし、黒い霧は一瞬霧散しただけで、すぐ元通りになってしまう。
「まるで効いてない……一体、どうすれば……」
「大丈夫だ、そのまま続けてくれ」
「続けるって、すぐ元通りになってしまうのに?」
アウロラの声に焦りが滲む。
俺は努めて静かに応えた。
「魔物にはコアっていう心臓みたいなものが存在するんだ。そいつを破壊すれば倒すことが出来る」
「それくらい知っています。でも、そのコアがどこにあるかわからないんですよ」
「それは俺が見つける。だから、できるだけデタラメにヤツを散らしてくれ」
アズは靄の魔物だ。
擬態だけでなく、その姿は変幻自在。つまり、コアの場所も一定ではない。
しかし、戦闘中に頻繁にコアを移動できるほど繊細なヤツでもない。
アウロラは何か言いたそうにしたが、小さく息を吐き出すとすぐにハンマーを構え直した。
「……わかりました」
言うや否や、彼は魔物へと走り出す。
俺は目を眇めて、彼と魔物の攻防を見やった。
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