触れるだけで強くなる ~最強スキル《無限複製》で始めるクラフト生活~

六升六郎太

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第017話 冒険者登録 2

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 気配を殺してそっと窓口へ向かうと、そこには誰もおらず、「すいませーん」と声をかけてようやく奥から一人、青い制服を着た女性が姿を現した。

 女性は訝しげな表情で、

「すいません。この窓口は事務手続きのみで、クエストの受注や達成報告は別の窓口なんですよ」

「いや、あの、冒険者登録をしたくて……」

「えっ!? あ、そ、そうですか。失礼しました。まさかこの時期に新規登録に来られる方がいるとは思わなくて……。冒険者ギルドに登録するには一万ルルド必要ですが、よろしいですか?」

「はい。大丈夫です」

 女性はカウンターの下から水晶玉を一つ取り出し、

「では、ここに手を置いてください。そうすると、冒険者様の情報を自動的に読み取り、身分証となるカードが生成されます。万が一カードをなくされた場合でも、冒険者様の固有魔力周波数が冒険者ギルド内の共有情報として保存されていますので、どの町にある冒険者ギルドでもカードの再発行が可能になります」

「固有魔力周波数?」

「はい。人間であれば誰しもが持っている魔力ですが、その周波数に同一のものは存在しないのです。ですので、冒険者様の固有魔力周波数を冒険者ギルド内で共有することで、冒険者様がそれまでに積み上げてきた成果の損失を防いでいるのです」

 要は指紋登録みたいなものか。

「登録された冒険者様は、F~Sの七つのランクに振り分けられます。最初は必ずFランクから始まり、クエストの達成数や成功率などが評価されると、上のランクへ上がることが可能です」

「ランクが上がれば何かいいことがあるんですか?」

「はい。Cランクから上は、宿屋での宿泊時や、武器、防具などを購入の際、割引が適用されます。また、高ランクであればあるほど、報酬のよいクエストを受注できます。さらにAランク以上になれば、ギルドを結成する権限と助成金が与えられ、Sランクになると国から様々な面で優遇されるようになります」

「優遇?」

「たとえば、一般に公開されていない資料の閲覧や、国が立ち入りを禁止している地区での活動許可。多額の資金援助を無利子で受けたり、貴重なドロップアイテムを優先して購入できる権利など、それはもう多岐に渡る優遇を受けることが可能なのです。……とは言っても、Sランクになれるのは、本当に一握りの限られた人だけですけどね」

 手をのせていた水晶玉の上方に、長方形の薄い膜が形成されていき、そこに『Fランク 倉野幸太郎』と表示され、横には顔写真まであった。

 膜は段々と硬質化し、ぽてんと手の甲へ落下した。

 女性が、「どうぞ」と促したので、それを手に取って眺めてみる。

 これがギルドカードか。意外としっかりした作りだな。これなら水に濡れても問題なさそうだ。

 ギルドカードをしまい、改めて周囲を見渡すと、遠くの窓口でまだ手続きをしているチグサの姿があった。

 エデンのクエストはチグサと合流してからにしようと思ってたけど、先に話だけでも聞いておくか。

「あの、エデンの調査クエストがあるって聞いたんですけど……その話を詳しく聞かせてもらえますか?」

「えっ!? えっと……その……。エデンの調査クエストはあるにはあるんですが……」

 と、受付の女性が言葉を濁したところで、後方から品のない男の笑い声が飛んできた。

「ぎゃははは! Fランク風情が何言ってやがんだ!」

 振り返ると、どうやらさっき見た三人組のようで、端に立っていたひょろ長い男が俺を指差した。

「エデンの調査クエストは最低でもCランクからだっつーの! ばぁか!」

「……え? マジで?」

 受付の女性がへこへこと頭を下げている。

「す、すいません! 今からちゃんとご説明しようと思っていたところで――」

 三人組の男の中心にいる、一番筋肉質な男があざけるように言った。

「Fランク冒険者なんて用なしだ! 雑魚はとっととこの町から出て行きやがれ!」

 なんでこいつにそんなこと言われなくちゃいけないんだ……。

 つーか誰だよお前……。

 と、心の中で文句を言っていると、背負っていたリュックの上からロロが起き上がり、筋肉質な男を指差して、

「ゴミはゴミ箱へ!」

 ロロさん寝起きに何言っちゃってんの!?

「こ、こらっ、ロロ! その呪文を外で言うんじゃない! それと、人を指差してはいけません!」

 お前はこの男を消す気か? 消す気なのか?

 ロロに罵倒された筋肉質な男は、顔を真っ赤に染めながら、

「……は? はぁ!? このクソガキ、今俺のことゴミっつったか!?」

 逆上した筋肉質な男がロロを掴みかかろうと腕を伸ばしてきたので、その手首を片手で思い切り掴んだ。

『全ステータス値、及び、《筋力上昇》を獲得。《完全覚醒》の効果により、《筋力上昇》を《火事場の馬鹿力》にランクアップしました』

 俺に手を掴まれるとは思っていなかったのか、筋肉質な男は慌ててそれを振りほどこうとする。

「こ、この雑魚が! はなしやがれ!」

「お前今、うちの子のことクソガキって言ったか?」

「それがどうした! 先に吹っかけてきたのはそいつだろうが!」

「子どもの言うことにいちいちキレてんじゃねぇよ。このまま腕へし折るぞ」

「ぐっ……。て、てめぇ、それ以上やったらこっちも――」

「こっちも、なんだ? 《筋力上昇》でも使う気か? やってみろ。そしたら俺も本気でやってやる」

「なっ!? こ、こいつ、なんで俺のスキルを……」

 他の二人の男が、苛立ったように言う。

「おい、もうさっさとスキル使ってやっちまえよ!」

「そのまま一気にぶんなぐってやれ!」

 筋肉質な男は俺の手を振りほどこうとするが、ピクリとも動かず、顔中にどんどん汗をかき始めた。

「うちの子に謝れ。そしたらはなしてやる」

「だ、誰が、そんなクソガキに――ぐあっ!?」

 力を込めると、男の手首からギシギシと骨が軋む音が聞こえ始めた。

 男の顔がみるみる苦痛に歪んでいく。

 するとそこで、手続きを終えたチグサがあっけらかんとしてやってきて、

「ん? どうした幸太郎殿、揉め事か?」

 一瞬チグサの言葉に気を取られて力が抜けると、その隙に男は腕を引っ込めた。

 男は青く変色した手首を睨みつけながら、

「て、てめぇ、いったい何者だ……」

「なんだ? もう忘れたのか? 俺はただのFランク冒険者だ」

「……ちっ!」

 筋肉質な男がそのまま踵を返すと、他の二人の男は、「おいおい、帰るのか!?」「やっちまわねぇのかよ!?」と、戸惑ったようにその背中を追っていった。

 チグサに向き直り、

「別に揉め事というほどじゃないよ」

「そうか。ならよかった」

 それからリュックにのっているロロに、

「ロロ、なんであんなこと言ったんだよ。絡まれたらめんどくさいだろ?」

「だって……あいつ、幸太郎の悪口言ってたもん」

 え? 何? じゃあ、ロロ、俺のために怒ってくれたの?

 あぁ……。うちの子、マジでいい子だなぁ……。

「そっかそっか。ロロは俺のために怒ってくれたんだなぁ。ありがとう」

「……うん」

「でも、世の中には変な奴もいっぱいいるから、むやみやたらに他人をゴミ扱いしちゃだめだぞぉ」
「……わかった。でもあれはゴミ」

「そうだなぁ」

 注意されて拗ねてるロロも可愛いなぁ……。


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