触れるだけで強くなる ~最強スキル《無限複製》で始めるクラフト生活~

六升六郎太

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第018話 すごく……大きいです……

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「そうだ、チグサ。俺、一応冒険者登録を済ませたんだけど、Fランクだとエデンの調査クエスト受けられないらしいぞ」

 チグサはあっけらかんとして、

「あぁ、それなら心配ないぞ。パーティーを組んでクエストを受注すれば、その代表者のランクが基準になるからな。ちなみに私はBランクだ」

「おぉ! この前のチグサの戦いっぷりを見て強いのは知ってたけど、さすがだなぁ。俺もいつかあんな風にかっこよく戦いたいもんだ」

「そ、そんなに褒められると照れてしまうぞ……。それに私の専門はあくまで、賊や無法冒険者を相手にする対人戦だ。モンスターとの戦闘はそこまで得意ではない」

「いや、めちゃくちゃ強かったと思うけど……」

 チグサは褒められ慣れていないのか、ぎこちなくはにかみながら、話を逸らすように受付の女性へ向き直った。

「エデンの調査クエストをパーティーで受注したいんだが……」

「はい。それでしたら、こちらですね」

 受付の女性は、カウンターの下から一枚の紙を取り出した。

 そこには何やら文字がズラリと並んでいる。

「エデンの調査クエストは、クエストを受注した複数の冒険者による、同時攻略クエストとなっています。ご存知かもしれませんが、エデンの調査クエストはこれまでに二度行われています。ですがいずれも失敗し、多数の被害が報告されているため、エデンの中心から離れた場所の調査には、最低でもCランク、エデンの中心部の調査には、最低でもBランク以上が求められます」

「私はBランクだ。この幸太郎殿とパーティーを組み、エデンの中心部の調査を行いたい」

「……それは問題ないのですが、本当によろしいのですか? 命の危険を伴うクエストですよ?」

 受付の女性が心配そうにこちらを見やる。

 どうやらBランクのチグサではなく、Fランクの俺を心配しているらしい。

 まぁ、そりゃそうだよな。

「えぇ。俺は大丈夫ですよ」

「そうですか……。わかりました。それと、クエスト決行日は二日後になりますが、大丈夫ですか?」

「問題ありません」

「では、こちらの用紙にサインを記入してください」


     ◇  ◇  ◇


 冒険者ギルドで諸々の手続きを終えると、チグサの案内で『ウォーム・カーネーション』の宿舎前までやってきた。

 前回招かれた拠点同様、こちらも似たようなオンボロっぷりだった。

 二階建ての洋館で、数十年前まではきっと綺麗な屋敷だったのだろうと思われるが、割れた窓ガラスや周囲の枯草が不気味さを醸し出していて、夜ともなればすっかり幽霊屋敷のように見えた。

 急に降ってきた雨から体を守るように玄関の屋根の下に入ると、カッと輝いた雷の光がそこら中を照らし、屋敷はますます不気味さを増した。

 チグサは雨でびっしょりと濡れた体を気にしながら、

「急な雨とはついてないな……」

「だなぁ……。体中ぐっしょりだ……」

「すぐに体を拭く湯を沸かすから、幸太郎殿は階段を上がった廊下の突き当りにある左側の部屋で待っていてくれ。そこが空き室だから、エデンの調査クエストが始まるまでの間、幸太郎殿はそこで寝泊まりするといい」

「突き当りを左ね。了解」

 チグサは屋敷の扉を開き、「では幸太郎殿、またあとでな」と、奥へ姿を消した。

 俺もそのまま屋敷の中に入ってはみたものの、中には光源すらなく、真っ暗な闇が広がっていた。

 うわぁ……。ホラーかよ……。

 ゾンビとか出てくるんじゃないだろうな……。

 背負っていたリュックがガサゴソと揺れ、雨が降ったから中に詰め込んでいたロロが、「ぷはぁ!」と顔を出した。

「おぉ、ロロ。悪いな。リュックの中は窮屈だろう。もう外に出ててもいいぞ」

「ううん! この中すっごく快適だよ、幸太郎!」

「え? そうなのか?」

「うんっ! 幸太郎も一緒に入ろう!」

「……え? ……あ、あぁ……また今度なぁ……」

「うんっ!」

 玄関をくぐったすぐそばに、二階へ続いている階段があった。

「えっと、たしか階段を上がるんだったよな……。って、うわっ! 階段にところどころ穴開いてる! くそぉ……せめてランタンか何かあれば……って、そうか。作ればいいんだ」

 ふとした時にスキルのことを忘れるのって、異世界転生あるあるなんだろうか……。

「《空間製図》、転写!」

 目の前に、半透明のランタンの製図が浮かび上がる。

「《精密創造》でランタンをクラフト!」

 すると、リュックの中、ちょうど背中側の部分に描いておいた魔法陣から、次々と必要な素材が転移され始めた。

 リュックにすっぽり収まったままのロロの横から、次々と素材が製図に向かって飛んでいき、目の前にランタンが出来上がった。

「よし。上出来上出来」

 そのランタンの明かりを頼りに、チグサに言われていた部屋の前までたどり着くと、

「たしか、突き当りを左だったよな」

 念のため、中から人の気配がないか耳をそばだててみるが、雨の音で何も聞こえてこなかった。

「とりあえずノックを――」

 そうしてノックをしようとした瞬間、いつの間にかリュックから出てきていたロロが、「わーいっ! 今日はここに泊るの!?」、と思い切り扉を押し開いた。

 すると中から、「ひゃっ!?」というか細い女性の悲鳴が聞こえてきた。

「……え?」

 部屋の中に視線を移すと、そこには、裸になって体を拭いているリシュアの姿があった。

 暗がりの中、リシュアの柔らかそうな肌に付着した水滴が、ランタンの明かりに煌々こうこうと照らされる。

 ややクセのある長い金色の髪の毛もしっとりと水気を含んでいて、小さな布を押し当てられた胸はほとんど隠れることもなく、俺の視界いっぱいに飛び込んできた。

 あれ!? ここって空き部屋じゃないの!?

 驚いて固まっていると、恥ずかしそうに頬を赤らめたリシュアと目が合った。

「……あ、あの、幸太郎さん……? えっと、その……ここは、私の部屋なんですけど……」

 慌ててロロを抱きかかえ、

「す、すまん! 部屋を間違えたみたいだ! 出るぞ、ロロ!」

「ねぇ、見て幸太郎! あの人、すっごくおっぱい大きいよ!」

「しっ!」


     ◇  ◇  ◇


 数分後、リシュアの部屋で正座をさせられているチグサの姿があった。

 リシュアは表情こそ笑っているが、その目の奥には怒りの炎が燃えていた。

「つまり、こういうこと? チグサが、向かいの空き部屋と間違えて、私の部屋の場所を教えてしまったと?」

 チグサは青ざめた顔をしながら、

「め、面目ない……」

「あなたのせいで、私がどれだけ恥ずかしい思いをしたか……」

 顔を真っ赤にしているリシュアに、俺も頭を下げた。

「俺の方こそ悪かった……。ノックをしようとしたんだが、ロロが勝手に開けてしまったんだ……」

 リシュアはまだ俺と目を合わせるのが恥ずかしいのか、そっぽを向きながら、

「……い、いえ、もとはと言えば、道案内を間違えたチグサが悪いんですから、幸太郎さんは気にしないでください。……そ、それと、さっき見たことは綺麗さっぱり忘れていただけると……」

「……あ、あぁ。もちろん」

 脳裏にくっきりと浮かび上がるリシュアの裸体を、思い出さないように必死に振り払っていると、ロロがリシュアの服の端を引っ張って、

「ねぇねぇ、どうしたらそんなに大きなおっぱいになるのぉ?」

 リシュアは恥ずかしさでブルブルと肩を震わせ、さらに顔を真っ赤に染めた。

 慌ててリシュアからロロを引き離し、

「こら、ロロ! どうしてお前はそう、全く空気を読もうとしないんだ。俺はお前が恐ろしいよ……」

「えー? でも、幸太郎も見たでしょ? あの大きなおっぱい」

「……み、見てないよ」

「嘘だぁ! 絶対見てたよ! 大きなおっぱい!」

「…………見てないって」

「でも、あんなに大きなおっぱいだったんだよ?」

 と、この会話に耐えられなくなったリシュアが、目に涙を浮かべながら堰を切ったように叫んだ。

「そんなにおっぱいおっぱい言わないで!」


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