触れるだけで強くなる ~最強スキル《無限複製》で始めるクラフト生活~

六升六郎太

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第022話 エデン調査クエスト開幕 1

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 エデンの調査クエスト、決行日当日。

『ウォーム・カーネーション』の宿泊施設の前では、ギルドメンバーが俺とチグサを見送ってくれている。

「お気をつけて!」

「頑張ってください!」

「またご飯作りに来てね!」

 様々な声援が飛び交う中、リシュアは一層不安げな表情を浮かべ、

「幸太郎さん……。チグサ……。本当に気をつけてくださいね。いざとなったらすぐに逃げてください」

「あぁ。ありがとう、リシュア。またクエストが終わったら一度顔を出すよ」

 ふと、リシュアの首からぶら下がっている翡翠色の宝石に目がいった。

「それ、いつもつけてるけど、大切なものなのか? 売って金に換えれば食費の足しくらいにはなるんじゃないか?」

 リシュアはふるふると首を横に振りながら、

「実はこれ、私のものじゃないんです。少し前、この近くで落ちていたのを拾ったんです。……落とし主を捜したんですが、見つからなくて……。なので、こうやって首から下げていれば、そのうちこの宝石の持ち主が見つけてくれるんじゃないかと思って……」

「……そのままこっそり自分の物にしようとか、思わないのか?」

 リシュアは小さくほくそ笑むと、

「だって、こんなに綺麗な宝石ですからね。きっと、落とした人はとても困っているに違いありません」

 少しの後ろめたさもなく、そう言ってのけたリシュアに見つめられると、何故だか目が離せなくなった。

 リシュアだって、食べ物に苦労するほど生活が苦しいのに……。

 そんな中で他人を思いやる気持ちを持ち続けるなんて……。

「……あの、幸太郎さん? どうかされましたか?」

「えっ!? い、いや、なんでもない!」

 いかんいかん。うっかりリシュアの目を見続けてしまった。

 変な奴に思われてしまう……。

「そうですか?」

「あ、あぁ。じゃ、行ってきます」

 リシュアはまた不安そうな表情に戻って、

「……はい。お気をつけて」


     ◇  ◇  ◇


 コータスの町を抜けたところに、エデンとの境界線を引くように木製の外壁が建造されている。

 その外壁付近では、町中とは違い、作業服を着た男たちが慌ただしそうに走り回っていた。

「おい! また東の方でモンスターが出たらしいぞ!」

「ちっ! 外壁の建造が追いつかねぇ……」

「弱音を吐くな! さっさと作業を完成させねぇと町までモンスターに侵入されるぞ!」

 外壁を見てみると、大部分は木でできているが、ところどころ煉瓦や石なども使用されていた。

 違う素材を使えばその分強度に偏りが生じ、外壁全体の防御力が低下してしまう。

 けど、この辺りの木はどれも枯れてるし、木材が足りていないのか。

 なら……。

「《空間製図》、転写。《精密創造》で外壁をクラフト」

 作りかけの外壁の端に、半透明の製図が浮かび上がり、背負っていたリュックから次々と飛び出した木材は、あっという間に外壁へと姿を変えた。

 作業服の男が、呆けたようにその様子を眺めている。

「な、なんだ、こりゃあ……。一瞬で外壁ができちまいやがった……」

「さすがに町全体を囲うほどの外壁は一度には作れないけど、エデンとの境界線までは作っておきました。これで急場はしのげると思います」

「あ、あんた……何者だ……。名のある冒険者か?」

「いえ、俺はただの駆け出し冒険者ですよ」

 作業にあたっていた男たちが集まってきて、口々に、

「助かったよ、ありがとう……」

「これでエデンからモンスターが攻めてきても対応できる」

「けど……このままモンスターが増え続けたら……外壁が壊されるか……外壁を迂回して町に入り込んでくる奴が出てくるかも……」

 作業員たちの不安そうな顔を見ると、後ろにいたチグサが自信満々に言った。

「心配ない。私たちが今からエデンの調査クエストに赴き、原因を突き止めてくるからな」

 けれど、作業員たちの表情にはまだ陰りがあった。

「……悪いことは言わねぇから、やめておいた方がいいぞ」

「前の調査に行った冒険者たちは、誰一人帰ってこなかった……」

「あんたらまで死ぬことはねぇ。外壁を作ってくれただけで十分だ」

 ずっとエデンの近くにいた彼らは、きっとその恐怖を誰よりも知っているのだろう。

 俺は、ポンと作業員の一人の肩に手を置いて、

「大丈夫。俺たちは強いから」

 そう言うと、リュックの中に入っていたロロが顔を出し、「ロロもいるよ!」と満面の笑みを浮かべた。

 ロロの姿を見た作業員の男が、一層不安そうに言った。

「……まさか、子ども連れでエデンに入る気なのか?」

「……だ、大丈夫です。この子は特別ですから」

「うーむ……」

 多少人間性を疑われながらも、俺たちは集合地点まで歩を進めることにした。


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