触れるだけで強くなる ~最強スキル《無限複製》で始めるクラフト生活~

六升六郎太

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第024話 〈一角狼〉の討伐

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 突如、エデンの奥から舞い戻ってきた男は、よくよく見ると、ガマのパーティーにいたうちの一人だった。

「おい。大丈夫か――」

 右腕を失い、顔中血塗れになっている男に声をかけようとしたが、錯乱状態に陥っている男は俺の肩に思い切りぶつかると、そのまま門のところまで駆け寄った。

 男はドンドンと力強く門を叩きながら、

「開けてくれ! 頼む! 開けてくれ!」

 閉じられたままの門の向こうから、冒険者ギルドの女性の声が返ってくる。

「周囲の安全が確保できなければ、ここは開けられません」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ! さっさとここを開けろ! ぶち殺すぞ!」

「できません」

 男の顔色がみるみる絶望へと変わり、ゆっくりと距離を詰めてくる狼の群れから逃れたい一心で、必死に門を爪でひっかき始めた。

「あぁぁぁ! 早くぅぅぅ! 早くしてくれぇぇぇ!」

 狼の頭上に、ポンと名前が表示される。


一角狼ホーン・ウルフ
少数の群れで狩りをする狼型のモンスター。フットワークが軽く、額から生えたツノでの刺突攻撃、鋭い牙による噛みつき攻撃には注意が必要。


 すでに小刀を構えていたチグサに遅れて、俺も剣を構えると、狼たちは俺たちの手前でピタリと足を止めた。

 数は全部で四匹か……。

 一度に相手にするには分が悪いが、チグサがいれば囲まれる心配もないだろう。

 狼から視線を逸らさずに、門をひっかき続けて指先から血を流している男に向かって言った。

「おい。こいつらは俺たちがどうにかする。だから絶対にそこを動くなよ」

「ひぃぃぃぃ! 早く開けてくれぇぇぇ!」

 かなり錯乱してる……。

 片腕を失ったんじゃ、無理もないか……。

「《無限複製》、〈全快薬〉!」

 以前、リシュアが使っていた〈全快薬〉を複製し、男の足元へ投げつけた。

「とりあえずこれを飲め。それ以上血を流すと死ぬぞ」

「あぁぁぁぁ……。あぁぁぁぁぁ……」

 男は〈全快薬〉を飲む素振りは見せず、次第に門の下でへたり込み始めた。

 だめか……。

「幸太郎殿!」

 チグサの声で、自分が狼から目を逸らして男を見ていたことに気づき、慌てて視線を前方へ向けた。

 すると、すでに左右から、二匹の狼が俺目がけて飛んできている最中だった。

 左の狼は俺の首を狙い、右の一匹は俺の足首を狙っている。

 どちらか一匹を剣で斬りつけても、もう一匹が俺にダメージを与えるって戦法か。

 それに、左の狼と右の狼で、攻撃カ所に上下のばらつきを持たせることで、横一線に薙ぎ払われて二匹同時に斬られることを防いでいる。

 後方へ引いても、二匹同時に距離を詰められるとまずい。

 なるほど。これがモンスターによる狩りの手法なのか。

 だったら――

 思い切り地面を蹴り、左から飛びかかって来ていた狼に、こちらから大きく一歩踏み込んだ。

 このタイミングで距離を詰められると思ってはいなかったのか、狼はギョッとした顔をして、その大きく開けた口の中に何の抵抗もないまま剣を受け入れた。

 カウンターの際、飛び込むように移動したため、足首を狙っていた右の狼はその目標を失い、ガチンッ、と空で牙を打ちつけた。

 直後、間を置かず、左の狼の口内に突き立てていた剣を引き抜き、そのまま踵を返し、残った狼の額に向かって剣を振り抜いた。

 しかし、やや距離があったためか、敵は即座に後方へ飛び退き、俺の剣が当たらない安全圏へまで距離を取った。

 そううまくはいかないか……。

 なら、あのスキルで――

 剣を構えたまま、ぐっと上半身を後方に捻り、そのまま槍投げの要領で剣を前方へ投げ飛ばした。

 俺が投げた剣はまっすぐと飛んでいき、狼の喉元に深々と突き刺さった。

 よし。《投擲制御》の威力は上々だな。

 ピクピクと痙攣し、やがて絶命した〈一角狼ホーン・ウルフ〉から剣を引き抜きとり、後ろを振り返ると、思わず、うわっ、と声を上げてしまった。

 というのも、俺のすぐ真後ろで、〈一角狼ホーン・ウルフ〉の首を二つ握りしめているチグサがじっとこちらを見つめていたからだ。

「び、びっくりしたぁ……。チグサの方も片づいたみたいだな……」

 けれど、チグサは俺以上に驚いたように目を見開いていて、

「今の投擲フォームは私のとそっくり……いや、寸分たがわず同じだ。まさか幸太郎殿は、他者の所持するスキルまで複製し、自分のものにできるのか?」

 やば……。

 さすがに、自分のスキルを勝手に複製されたりしたら気分が悪いよな……。

 でも、誤魔化してもそのうちバレるだろうし……。

「す、すまん……。実は、そうなんだ……。黙ってて悪かった……」

 そう言うと、チグサは持っていた〈一角狼ホーン・ウルフ〉の首をボトンと地面へ落とし、興奮したように俺の両手を掴んだ。

「すごいではないか!」

 あ、あれ? 思ってた反応と随分違うんですけど……。

「そ、そうか?」

 チグサはそのまま、

「うむ! 私はずっと、自分自身と戦ってみたかったのだ!」

「……はい?」

「さぁ、幸太郎殿! 今すぐ手合わせしよう! さぁ! さぁ!」

「い、いや、ちょっと待て。今はクエスト中だろ……。そ、それに俺は、まだ熟練度が足りなくて、《電光一閃》とか《飛雷針》はほとんど使えないんだ……」

「何? そうなのか?」

「あぁ……。だから悪いけど、チグサの期待には応えられない……」

 チグサはしゅんと落ち込むと、

「そうなのかぁ……。ならしかたないなぁ……」

 と、諦めて肩を落とした。

 その姿に呆気に取られていると、チグサはこてんと首を傾げた。

「ん? どうかしたのか、幸太郎殿? なにやら呆けておるようだが」

「いや……。てっきり怒られると思ってたから……」

「怒る? 私が? どうして?」

「普通、自分のスキルを複製されたりしたら怒るだろ……」

 チグサは不思議そうな顔で、

「しかし、それが幸太郎殿の能力なのだろう? であれば単に、幸太郎殿の能力が私の能力を上回ったというだけの話ではないか? それで不満を漏らすような奴は、自分と相手の力量を認められない、ただの愚か者ということだ」

「そ、そういうものか……?」

「うむ。そういうものだ」

 会話が途切れると、ギィ、と音がして、ようやく門が開かれが、すでに片腕を失った男は事切れていた。

 冒険者ギルドの女性は、男が死んでいることを確認すると、罪悪感からか、一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに何もなかったかのように俺たちに視線を向けた。

「お二人は大丈夫ですか?」

「あぁ、一応」

「なら、お早くこちらへ退避してください。またすぐに門を閉じますので」

「え? いや、俺たちはまだクエストを続けるけど?」

 冒険者ギルドの女性が、訝しげな表情で俺たちを睨む。

「……はい? 今、なんとおっしゃいましたか?」

「いや、だから、クエストは続行するって」

「……こうして目の前で人が死んでも、まだクエストを続けるというのですか?」

「だって、それが冒険者の仕事じゃないのか?」

「……残酷な現実を目の当たりにして、行動不能に陥る冒険者は数多くいます。ですが、あなたたちはどうやら違うようですね」

 男の遺体が回収され、門が閉まる直前、冒険者ギルドの女性は深々と頭を下げた。

「真の冒険者様のご武運を、心からお祈り申し上げます」

 ガコン、と門が閉まると、再び俺とチグサだけの空間が訪れた。

「では行くか、幸太郎殿。エデンの中心部である湖へ」

 そう言って歩き始めたチグサを後ろから呼び止めた。

「待て、チグサ」

「ん? どうかしたのか?」

「〈一角狼ホーン・ウルフ〉の死体を忘れているぞ」

「……死体? あぁ、まぁ……戦利品の確保は大事だな。しかし、持ち運ぶには少々大きい。あとでまたここに戻ってきて、死体を回収すれば問題ないだろう」

「甘い。甘いぞ、チグサ。死体から離れている間に、別の誰かが素材を持って行ってしまうかもしれないだろ。この前みたいに」

「猪の素材を回収できなかったことがかなり尾を引いているようだな……。だが、どうする? さっきも言ったが、持ち運ぶと体力を消耗するし、それに戦闘の邪魔になる」

「ふっふっふ。安心しろ。そのために俺がいるんだ」

「……?」

「《空間製図》、転写!」

一角狼ホーン・ウルフ〉から採取できる素材の製図が、いくつか地面に並ぶように浮かび上がる。

「《精密創造》で素材をクラフト!」

 そして、〈一角狼ホーン・ウルフ〉の死体が次々と自動的に解体されていき、その製図にすっぽりと埋まるように弧を描いて飛んでいった。

 ものの数秒で〈一角狼ホーン・ウルフ〉の解体が完了すると、チグサがあんぐりと口を開いた。
「な、なんと! もうすべて解体し終わったというのか! う~む……。幸太郎殿には驚かされるばかりだな……」

「ふふん。まぁな。……さて、今回の素材はっと……」


〈[C級]一角狼の白ツノ〉
 硬質な白いツノ。武器には不向きだが、彫刻やアクセサリーなどに用いられることがある。

〈[D級]一角狼の毛皮〉
 少し硬い毛皮で、保温性もよくない。

〈[D級]一角狼の肉〉
 一部の地域では日常的に食されている肉。独特の臭みがあり、万人受けはしないが、痛みにくく、安価な保存食としては優秀。


「C級一個に、D級二つか……。どれもあんまりだな」

「ほぉ! 幸太郎殿は鑑定スキルまで持っているのか!」

「あ、そっか。チグサって鑑定スキル持ってないんだっけ?」

「普通は持っていないと思うが……」

 チグサは改めて素材に目を移すと、

「しかし、解体したはいいが、これを持ち運ぶとなるとやはり手間だぞ……」

「それも問題ない。このリュックの中にある転移魔法陣で、一旦全部別の場所に移動させるからな」

 背負っていたリュックを下ろし、中に入っていたロロ越しに魔法陣を見せると、チグサはぎょっと目を見開いた。

「転移魔法だと!? あ、あの、宮廷魔術師ですら習得できる者はほとんどいないという、あの転移魔法か!?」

「宮廷魔術師がなんなのかはよくわからないけど……。まぁ、たぶんその転移魔法だな」

「幸太郎殿は……もしや、どこぞの名のある冒険者ではないのか?」

「ははは。知ってるだろ。俺はただのFランク冒険者だって」

「う~む……。納得できん……」

 リュックを覗き込み、

「ロロ、素材の回収を頼む」

「はーいっ!」

 リュックからのっそりと出てきたロロは、小走りで素材を回収し、それを次々とリュックに詰め込み、俺は転移魔法を使ってそれらをすべて図書館の地下へと転送させた。

 その様子を眺めていたチグサが不思議そうに言う。

「……な、何故その作業は自力なんだ? もっとこう、念力とかは使えないのか?」

「使えねぇよ……」

「幸太郎殿なら、ちょっと頑張ればできるのではないか?」

「できるか!」


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