触れるだけで強くなる ~最強スキル《無限複製》で始めるクラフト生活~

六升六郎太

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第027話 〈怪蟲飛蜘蛛〉の討伐 2

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「チグサ! 霧のわずかな揺らぎに気をつけろ! どこから来るかわからないぞ!」

「承知した!」

 この霧の中であの高速移動を繰り出されたら……。

 ……いや、待てよ。こんなものがあるのなら、どうして今まで使わなかったんだ?

 それに、あの傷を負ってもまだ高速移動が使えるのか?

《天啓》の矢印を見てみると、そこに表示されている飛蜘蛛との距離がみるみる離れているのがわかった。

「チグサ! こいつはただの目くらましだ! 奴はもうここにはいない! 逃げた!」

「何!? まことか!?」

「あぁ。俺の《天啓》に間違いはない」

 この霧は、おそらく奴の奥の手だ。

 今まで一度も使用しなかったところをみると、余程の体力か、あるいは魔力を消費するんだろう。

 なんにせよ、奴はもう瀕死のはずだ。

 霧をかき分けてチグサがやってくると、

「とにかく、幸太郎殿の《天啓》を使って奴を追いかけよう。手負いのモンスターは厄介だぞ」

「あぁ。そうだな」

《天啓》が指し示す方角へ歩みだそうとすると、湖のほとりから男の声が聞こえてきた。

「だ……誰か……誰かぁ…………たす……けてぇ……」

 チグサがすぐさま反応し、

「聞こえたか、幸太郎殿?」

「聞こえた」

 二人して、恐る恐る声がした方向へ歩くと、そこには一人の男が倒れていた。

 見たところ、ガマとパーティーを組んでいた男のようだった。

 チグサは男の顔色を見るや否や、

「麻痺毒にやられて動けないようだ。……それに、足を怪我している。おそらく奴に踏まれたのだろう。このまま放っておくとそのうち死ぬぞ」

「あいつを追いかけるよりも治療が先か……。しかたない。飛蜘蛛は他の冒険者に一旦任せよう。《無限複製》、〈全快薬〉」

〈全快薬〉の入った小瓶を男の口に添えるが、どうやら体が麻痺していてうまく飲み込めないようだった。

「先に麻痺を治さないとだめか……。でも、〈全快薬〉は傷を治す薬だし、効果はないよな……」

 すると、頭の中でメーティスの声が響いた。

『〈死毒蛇の強麻痺袋〉、〈アカリスライムの欠片石〉、〈水〉、〈ビン〉を組み合わせることで、〈麻痺除去薬〉を調合することが可能です』

 そうなのか? なら――

「《空間製図》、転写。《精密創造》で〈麻痺除去薬〉をクラフト!」

 必要な素材が次々とリュックから飛び出すと、手のひらの中に黄色い液体が入った小瓶が出現した。


〈[B級]麻痺除去薬〉
 麻痺毒を除去する薬。すごくまずい。


「ほら。これを飲め」

 男を抱きかかえ、口の中に無理やり〈麻痺除去薬〉を流し込んだ。

「う……うぅ……まずい……」

「我慢しろ」

〈麻痺除去薬〉を全て飲ませて麻痺を治し、ようやく〈全快薬〉も飲ませることができた。

「これで足からの出血は止まった。あとは休んでいれば治るはずだ」

「た、助かったよ……。ありがとう……。ちくしょう……。ガマの奴め、俺を捨て駒に使いやがって……」

「あいつならさっき死んだよ。飛蜘蛛に食われた」

「へっ! ざまぁみろ! ……ん? 飛蜘蛛? あのモンスターは飛蜘蛛だったのか?」

「なんだ? 敵の姿を見る前にやられたのか?」

「あぁ……。俺が見た時は、そこの木の枝に包み込まれていて、中にどんなモンスターがいるのかは見えなかった。倒れてからはずっと、視界がぼやけてて……」

「枝?」

 男が指差した先に視線を向けると、たしかに折れて散らばっている木の枝がそこら中に散乱していた。

「どうしてこの枝だけ枯れてないんだ?」

 枝の欠片を持ってよくよく観察していると、チグサが驚いたように声を上げた。

「幸太郎殿! そこに誰かいるぞ!」

「何?」

 チグサが小刀で指示した方を見てみると、そこには真っ白な肌をした女性が、力なく座っていた。

 いや、座っていたのではなく、上半身だけが枯れ木の根元に寄りかかっていたので、一瞬そう見えただけだった。


〈大精霊ドライアド〉
 希少種。戦闘行為を嫌い、善良な人間に対しては友好的。だが、敵と見なしたものにはどこまでも残忍になる。一つの山や森、草原に住みつき、そこで一生を過ごし、時には神としてあがめられることもある。


「ドライアド……。リシュアが言ってたエデンの守護者か……」

「……ということは、敵ではないのか?」

「たぶんな……。とにかく、傷を癒さないと……。《無限複製》、〈全快薬〉!」

 人間用だけど、効くかな……。

 複製した〈全快薬〉をドライアドの口元に近づけると、それまで力なくうなだれていたドライアドが、カッと目を見開いて俺の腕を掴んだ。

 ドライアドは俺の目を見つめたまま、

「お前らから……我の蜜玉の気配がする……」

「蜜玉?」

「翡翠色の宝石じゃ……。急げ……。あれを取り込むことが奴の目的じゃ……。奪われる前に、必ず奴を殺せ……」

 翡翠色の宝石……?

 ちょうどその時、ここへ来る前、リシュアと交わした会話を思い出した。


『実はこれ、私のものじゃないんです。少し前、この近くで落ちていたのを拾ったんです。……落とし主を捜したんですが、見つからなくて……』


 まさか、リシュアが首から下げていたあの宝石……?

 飛蜘蛛の狙いがあの宝石だとすると……。

「リシュアが、危ない……」


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