22 / 52
侯爵令嬢の思いは。
しおりを挟む
「こちらの部屋?」
アデリーナ様らしき可愛らしい声が聞こえる。
「はい。ですがお止めになった方が…。」
いつも毅然とした印象のパトリックが珍しく言い淀んでいた。
どういう事?具合が悪いから休むために客室に案内したのに?
階段を上がりきった所から廊下を覗き込んでみる。
二人が立っているのは、客室ではなく私とシエルの部屋の方向だった。
「あら、何故止めるの?」
アデリーナ様の声が聞こえて慌てて隠れる。
それに対するパトリックの答えは良く聞こえなかったけど、アデリーナ様はどうやらシエルの書斎を訪ねようとしているらしい。
それを、パトリックが止めている?
扉をノックする音の後、一呼吸置いて、今度は扉が開く音がした。
一体、シエルの書斎に何の用事があるのかしら?
さっきまで具合が悪そうだったのに、今は元気そう。
この場合私は1階に戻るべきなのか、アデリーナ様を追ってシエルの書斎に行くべきなのか...。
でも、一体何のために?パトリックが付いているし。
そんなことを悶々と壁に隠れて考えていると、書斎の方から悲鳴が上がった。
「きゃー‼」
「お嬢様!」
さすがに私も隠れていた壁から飛び出して慌ててシエルの書斎に向って廊下を走った。
「アデリーナ様?!」
パトリックに庇われる形でアデリーナ様が書斎から転がり出てくるのが見えた。
「どうされました?!」
いったい書斎で何があったのだろう?
「リリアナ様?!」
パトリックがこちらに気が付く。
「パトリック、一体何があったの?」
「猫がっ!」
パトリックではなくアデリーナ様が気丈に開けっ放しの扉の中を指さした。
マティがシエルの書斎机の上で毛を逆立て威嚇していた。
どうやら、マティの昼寝の邪魔をして機嫌を損ねてしまったらしい。
「こら!マティ。そんなに怒らないの!」
とりあえず、マティをなだめるべく怒るマティにそーっと近づいていく。
私が近づいていく行くと、知っている顔が近づいて来るのが分かってやっと威嚇するのを止めた。
きっと寝ぼけていたに違いない。
「おいで。もう、寝ぼけてお客様を驚かせては駄目よ?」
そう言ってこれ以上アデリーナ様を恐がらせてはいけないと、マティを抱き上げた。
開け放った扉から廊下を振り替えると、廊下に座り込んでしまったアデリーナ様をパトリックが隣に膝をついて気遣っている。
「大丈夫ですか?お嬢様?」
いつも、冷静沈着なパトリックが珍しく焦った声を出していた。
私も近寄ってお客様に怪我がないか確かめたかったけど、マティを抱いたまま近付いたら恐がらせてしまうかもと躊躇する。
「何だ?騒がしい。」
その時、廊下の突き当たりの部屋からシエルが顔を出した。
あれ?と思う。てっきりシエルは書斎の奥にでも居るのかと思っていたのに。何で書斎の扉が開いたのかしら?
突き当たりは、ほぼシエルの蔵書がぎっしり詰まった我が家の図書室だった。
「シエル様!」
アデリーナ様が慌ててパトリックに支えられ起き上がると顔を赤くしてドレスの裾を直す。
「何事だ?」
もう一度シエルが聞きながら近付いてくる。
「その、シエル様に父からの手紙をお渡ししようと思って書斎をお訪ねしたら、机の上で寝ていた猫がいきなり襲ってきて。」
アデリーナ様が泣きそうな顔をしながらも必死になって説明する。
ドルトン侯爵様からの手紙?
確かに、アデリーナ様は真っ白い封書を握りしめていた。
シエルがアデリーナ様の横まで来ると顔を覗き込んだ。
「怪我は?」
アデリーナ様の顔が更に赤くなるのが分かった。
「あ、あの、大丈夫です。驚いて転んでしまっただけですので。」
腕の中でマティがみぎゃっと苦しそうに泣いたので、初めてマティを強く抱きしめすぎていたのだと気が付く。
ああ、お父様に再婚をお勧めしていたけど、お相手はもっと年上の方だと勝手に思い込んでいた。
シエルにとって年齢なんて関係ない。前世で結婚したのだって私が10代の時だったし、今のシエルの姿は20代にしか見えないのだから、アデリーナ様とお似合いだと思っても何にも可笑しくない。
可笑しくないけど...。あれ?
何か自分の中に釈然としない気持ちを感じて、マティをまた抱きしめる。
今度は力の加減をしてぎゅっと抱きしめたので、マティから文句は出なかった。その代わりにゃ~と甘えるような声がしてマティの顔を見ると気のせいか金の目がキラっといつもより光ったような気がした。
シエルがつかつかと私のところに来ると私の腕の中に納まっていたマティを取り上げる。
「ふん、どうせ寝ぼけて夢でも見ていたんだろう。全く、役に立たない奴だ。」
まあ、恐らくそうなんでしょうけど、いつにもましてマティに対して辛らつだわ。飼い猫が役に立つのはネズミを獲ってくれるくらいだと思うけど。
マティも私に甘えるようにはシエルに決して甘えないのに、よく書斎でシエルと一緒に過ごしているから、不思議。猫ってそういうところがあるのかしら。
シエルがマティを床に置くと、マティは少し開いていた窓に飛び乗り、プイッと出て行ってしまった。
「あの、我が家の飼い猫が驚かせてしまって申し訳ございませんでした。」
さっきより落ち着きを取り戻したアデリーナ様に頭を下げる。
アデリーナ様に怪我がなくて本当に良かった。
「いいえ、こちらこそ勝手に書斎にお邪魔してしまって申し訳ございませんでした。シエル様にお会いできて舞い上がってしまい、父から預かってきた手紙を渡し忘れてしまっていたものですから。必ず直接お渡しするように言われていたのに。」
アデリーナ様は、そう言ってシエルを熱い目で見つめた。
お茶会の残りの時間、シエルはアデリーナ様の希望で初めてお茶会に参加した。
アデリーナ様らしき可愛らしい声が聞こえる。
「はい。ですがお止めになった方が…。」
いつも毅然とした印象のパトリックが珍しく言い淀んでいた。
どういう事?具合が悪いから休むために客室に案内したのに?
階段を上がりきった所から廊下を覗き込んでみる。
二人が立っているのは、客室ではなく私とシエルの部屋の方向だった。
「あら、何故止めるの?」
アデリーナ様の声が聞こえて慌てて隠れる。
それに対するパトリックの答えは良く聞こえなかったけど、アデリーナ様はどうやらシエルの書斎を訪ねようとしているらしい。
それを、パトリックが止めている?
扉をノックする音の後、一呼吸置いて、今度は扉が開く音がした。
一体、シエルの書斎に何の用事があるのかしら?
さっきまで具合が悪そうだったのに、今は元気そう。
この場合私は1階に戻るべきなのか、アデリーナ様を追ってシエルの書斎に行くべきなのか...。
でも、一体何のために?パトリックが付いているし。
そんなことを悶々と壁に隠れて考えていると、書斎の方から悲鳴が上がった。
「きゃー‼」
「お嬢様!」
さすがに私も隠れていた壁から飛び出して慌ててシエルの書斎に向って廊下を走った。
「アデリーナ様?!」
パトリックに庇われる形でアデリーナ様が書斎から転がり出てくるのが見えた。
「どうされました?!」
いったい書斎で何があったのだろう?
「リリアナ様?!」
パトリックがこちらに気が付く。
「パトリック、一体何があったの?」
「猫がっ!」
パトリックではなくアデリーナ様が気丈に開けっ放しの扉の中を指さした。
マティがシエルの書斎机の上で毛を逆立て威嚇していた。
どうやら、マティの昼寝の邪魔をして機嫌を損ねてしまったらしい。
「こら!マティ。そんなに怒らないの!」
とりあえず、マティをなだめるべく怒るマティにそーっと近づいていく。
私が近づいていく行くと、知っている顔が近づいて来るのが分かってやっと威嚇するのを止めた。
きっと寝ぼけていたに違いない。
「おいで。もう、寝ぼけてお客様を驚かせては駄目よ?」
そう言ってこれ以上アデリーナ様を恐がらせてはいけないと、マティを抱き上げた。
開け放った扉から廊下を振り替えると、廊下に座り込んでしまったアデリーナ様をパトリックが隣に膝をついて気遣っている。
「大丈夫ですか?お嬢様?」
いつも、冷静沈着なパトリックが珍しく焦った声を出していた。
私も近寄ってお客様に怪我がないか確かめたかったけど、マティを抱いたまま近付いたら恐がらせてしまうかもと躊躇する。
「何だ?騒がしい。」
その時、廊下の突き当たりの部屋からシエルが顔を出した。
あれ?と思う。てっきりシエルは書斎の奥にでも居るのかと思っていたのに。何で書斎の扉が開いたのかしら?
突き当たりは、ほぼシエルの蔵書がぎっしり詰まった我が家の図書室だった。
「シエル様!」
アデリーナ様が慌ててパトリックに支えられ起き上がると顔を赤くしてドレスの裾を直す。
「何事だ?」
もう一度シエルが聞きながら近付いてくる。
「その、シエル様に父からの手紙をお渡ししようと思って書斎をお訪ねしたら、机の上で寝ていた猫がいきなり襲ってきて。」
アデリーナ様が泣きそうな顔をしながらも必死になって説明する。
ドルトン侯爵様からの手紙?
確かに、アデリーナ様は真っ白い封書を握りしめていた。
シエルがアデリーナ様の横まで来ると顔を覗き込んだ。
「怪我は?」
アデリーナ様の顔が更に赤くなるのが分かった。
「あ、あの、大丈夫です。驚いて転んでしまっただけですので。」
腕の中でマティがみぎゃっと苦しそうに泣いたので、初めてマティを強く抱きしめすぎていたのだと気が付く。
ああ、お父様に再婚をお勧めしていたけど、お相手はもっと年上の方だと勝手に思い込んでいた。
シエルにとって年齢なんて関係ない。前世で結婚したのだって私が10代の時だったし、今のシエルの姿は20代にしか見えないのだから、アデリーナ様とお似合いだと思っても何にも可笑しくない。
可笑しくないけど...。あれ?
何か自分の中に釈然としない気持ちを感じて、マティをまた抱きしめる。
今度は力の加減をしてぎゅっと抱きしめたので、マティから文句は出なかった。その代わりにゃ~と甘えるような声がしてマティの顔を見ると気のせいか金の目がキラっといつもより光ったような気がした。
シエルがつかつかと私のところに来ると私の腕の中に納まっていたマティを取り上げる。
「ふん、どうせ寝ぼけて夢でも見ていたんだろう。全く、役に立たない奴だ。」
まあ、恐らくそうなんでしょうけど、いつにもましてマティに対して辛らつだわ。飼い猫が役に立つのはネズミを獲ってくれるくらいだと思うけど。
マティも私に甘えるようにはシエルに決して甘えないのに、よく書斎でシエルと一緒に過ごしているから、不思議。猫ってそういうところがあるのかしら。
シエルがマティを床に置くと、マティは少し開いていた窓に飛び乗り、プイッと出て行ってしまった。
「あの、我が家の飼い猫が驚かせてしまって申し訳ございませんでした。」
さっきより落ち着きを取り戻したアデリーナ様に頭を下げる。
アデリーナ様に怪我がなくて本当に良かった。
「いいえ、こちらこそ勝手に書斎にお邪魔してしまって申し訳ございませんでした。シエル様にお会いできて舞い上がってしまい、父から預かってきた手紙を渡し忘れてしまっていたものですから。必ず直接お渡しするように言われていたのに。」
アデリーナ様は、そう言ってシエルを熱い目で見つめた。
お茶会の残りの時間、シエルはアデリーナ様の希望で初めてお茶会に参加した。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる