長瀬萬請負 其の四 〜嘗ての友〜

岡倉弘毅

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悦子 二

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 「実は私、相馬と駆け落ちをするつもりでした。

 たったひとりの身内である姉が、どうしても相馬との結婚を認めてくれず、身重だと分かった途端、勤めておりましたカフェーを追い出されてしまいまして……。

 姉を捨てるから、何処かへ二人で逃げようと私が申しましたら、その時は躊躇しておりましたけれど、二日後、つまりは今から四日前、決心したから。と。

 約束では昨日、姉が仕事に出ましたら、相馬が迎えに来てくれることになっていました。

 が、待てど暮らせど、一向に姿を見せません。

 それで今日、いつも会っている家に行ってみたのですが、貸家の張り紙が……」

「いつも会っている?

 つまりその部屋は、相馬さんの住まいではないのですね?」

「はい。二人だけで会うのに借りてくれた一軒家です。

 私は鍵を持ってはおりませんで、その部屋の郵便受けに、何日の何時に。と、書いた紙を相馬が入れて、私がそれを確認して会っていたのです」

 まさに密会である。

「相馬さんのお仕事は?」

「自分で会社を興しているとは聞きましたが、詳しくは……。

 あまり女が仕事に口を出すものではないと言われましたので……」

 この様子では、金を貢がされてはいないらしい。

 酒井が騙した婦人の中に、職業婦人はいなかった。皆、月本銀行にそれなりの財産を持っている婦人ばかりであったのだ。

 悦子はどう見てもお下がりの着物を身に着けており、金銭の余裕があるようには見えない。

 馴れ初めなどを聞くと、悦子が勤めていたカフェーに客として現れた酒井に、簡単に言えば口説かれたらしい。
 
 まずはそれが、悦子の姉、勝子かつこにとって気に入らないようだ。

「姉は、自分よりも先に妹の私が結婚しようとするのが何より、気に入らないのです。

 父母を亡くしてから、十一年の離れた姉が私を育ててくれました。それは感謝しておりますけれど……」

姉様あねさまと相馬さんは面識ありますか?」

「一度、会って貰いましたけど、けんもほろろでした。兎に角別れろ。の一点張りで」

「どうやって会わせたのでしょう?」

「私と姉が出かけた先に、酒井が待っておりまして、偶然会った風を装って……」

「それは、貴女の希望で? それとも」

「相馬が、姉を説得したいから。と申しましたので……」

 念の為に特徴を聞いたが、やはり、酒井進であるらしかった。
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