長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

秘密

「あの男は大丈夫なのか?」

　車に乗り込むや否や、隼人が固い声を出した。

「大丈夫って何が?」

「圭君を見て、顔を赤らめていた」

　あぁあ。と、勇一郎は笑うと、心配ご無用。と、軽い声を出した。

「あいつ、前に圭ちゃんの両親に取材したことがあんだよ。

　あん頃さぁ、もぉ、寝ても覚めても麻上夫人の顔と優しい声が頭から離れねぇって、一日中ぼんやりしてたぜ。

　惚れたのか。って聞いたら、違う、夫人に失礼だろう。って怒ってさ。圭ちゃん、笑うと夫人によく似てっからな。

　圭ちゃん、その恰好、似合ってるな。

　女の子に間違えられるの厭がるくせに、どうして髪を長くしてるのかと疑問だったけど、正装の時には短いと様にならないんだな」

「はい。中学にもこうして髪を整えて行っておりました。

　もう、必要ないと分かってはいるのですが、これが当たり前で育てられましたので、なかなか……」

「いいじゃねぇか。悪いことなら改めりゃいいけど、悪くないならそのままで」

「ありがとうございます」

「宝塚歌劇団の男役みたいで、恰好良いぜ」

　宝塚歌劇団なるものを、知識の中から引っ張り出す。たしか、「少女の友」に載っていた。

「宝塚歌劇団は少女劇団ではありませんか!」

「男顔負けの男らしさらしいぜ。誉め言葉誉め言葉。

　お、いたいた」

　山上が朝子と共に歩いているのを見つけた。山上は無表情を保っているが、朝子は嬉しさが表情に溢れている。

　傍に停まると、山上がばつの悪そうな顔をした。

「乗れよ」

　勇一郎が車から降りた。

「これは四人乗りだろう」

「俺はちょっと野暮用を思い出したから。

　朝ちゃん、手伝ってくれてありがとな」

「こちらこそ、お手伝いをさせて頂けて、とても嬉しかったです」

「君は後ろに乗りなさい」

　教師の態度で、朝子に指示すると、山上は助手席に乗り込んだ。

　事故が起きた時、一番危ないのは助手席である。だから、山上が助手席に座るのは理解できるが、朝子と隣合わせることになった圭は、緊張で体が強張りそうだった。

「まぁ、今日はおめかしをなさっておいでなのですね。

　華子様はどうなさっておいでなのですか?　この頃学校にいらしてないようですけれど」

　病気だと言えば、心配をかけるだろう。しばし考える。

「姉は長瀬さんのご実家で、小母様に教えて頂く方が良いと言い出しまして」