長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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齟齬

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 「毒、か。そりゃ、飯作ってる場合じゃないよな」

「毒と決まったわけじゃない。もしかしたらネコイラズが何らかの事故で、入ったとか」

「ますます怖いだろうが!!

 菓子を作って売ってるような人間が、毒を傍に置いてて、偶然混ぜました。なんざ、笑えねぇだろう。洒落にならねぇぜ」

 説明を聞いた勇一郎は、新聞紙に包まれた珈琲寒天を指で触り、舌先で舐めた。

「えらく甘いな」

「苦みを誤魔化すためじゃないのか?」

 同じように珈琲寒天の味見をした山上が、言った途端に舌を出した。

「正直に言えば、不味いな」

「味見をしていないってことだろう。

 圭ちゃんは食ってないんだな?」

「はい。私は珈琲の苦さが苦手で」

「幸いだったな。圭ちゃんにもしものことがあったら、隼人の奴、正子さんに半殺しにされてたぜ」

 それこそ、笑い事ではない。半殺しは言い過ぎにしても、体中に痣ができていた可能性はないでもない。

「これから分析して貰って来るわ。

 明日、睦月会に行くんだろう? 俺も行くから、待っててくれよ」

 ガサガサと新聞紙を丸めると、風呂敷で包んで、家を出て行った。

 今から付き合わされる相手には申し訳ないが、早い内に結果が出てくれた方が助かるのは事実であった。

「富山園子はどうするの?」

 山上の声は、穏やかながら緊張を含んでいた。

「明日、睦月会に行った後で、向かおうと思っている」 

「そうだね、早い方が良い。

 気にはなるが、明日は教授のお供をしなければならないからなぁ」

 清水女学校の臨時講師を辞めさせられてからは、大学教授の助手の仕事に戻り、こき使われているらしい。休みの日には、勇一郎にもこき使われているが。

「仕方がないよ、仕事なんだから。

 大丈夫だよ、園子さんは自分の罪を理解しているらしいし、奥さんや勝司さんの助けも得られる。

 要は、富山男爵に、園子さんは奪われないと理解させれば良いのだから」

 勝手口の扉が鳴った。こんな時間に御用聞きが現れるわけもない。現れるのは大森くらいのものだ。

「どうぞ」

 確認もせずに開くと、思った通り、大森が疲れ切った顔で立っていた。

「お疲れのようですね」

「いやぁ、その通りですわ。もう、甘いもんが食べたくて食べたくて」
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