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準備
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「そろそろ帰らなければ」
静子が立ち上がった。
「お忙しいのに、申し訳ありません」
圭が心配そうに告げると、和香子が陰りのある笑顔を見せた。
「いいえ、私こそ、自分が被害者だと思われていたなんて知りませんでしたから、教えて頂けて良かった。
百合子様は今どちらにおいでなのでしょう? 私、お礼を申し上げたいとずっと思っているのですけど、まさか……」
た……と言いかけて和香子は口をギュッと閉じた。
「逮捕されているわけじゃない。心配しなくてもいいよ。
昨日彼が会ったそうだが、お元気そうだったらしい」
核心をぼかして、嘘を吐かず、和香子を不安にさせぬよう気を付ける。
「忙しいようだね」
二人は再び、瞳を輝かせた。
「はい。これから帰ってすぐに休んで、夜、明日のパーティーの為にお菓子を作るのです。
私達、カスタード・プティングを任されておりますのよ」
隼人は笑顔を作った。
圭も同じように一見、嬉しそうに見える笑顔になった。
「それは楽しみだろうね。
あ、もしかしてこの前頂いた珈琲寒天も作るの?」
「あれは、田中様と右腕でいらっしゃる佐藤様がお作りになられます」
ここにきて新しい重要人物が現れたらしい。勇一郎がいたなら間違いなく、偽名だと決めつけるに違いない。
「佐藤さんって方は初めて聞いたな。どんな方?」
二人はしばらく困った顔をしていたが、和香子が意を決したように口を開いた。
「実は、私達佐藤様とはお会いしたことはないのです。
その……お顔に大きな火傷の痕があるらしくて、人前には出られません」
「失礼。君達を困らせるつもりはなかったのだけど」
「いいえ、お気になさらずに」
「ご存じなかったのですもの、仕方ありませんわ」
二人は感じの良い笑顔で、隼人を慰めてくれた。ほんの一月前まで、死を考えていたとは思えぬ、温かな笑顔だった。
「ありがとう。
明日は田中さんがお菓子を運ぶのだろうか?」
「田中様はパーティーに出席されますから、私達が任されております。
とは申しましても、ご支援下さるある会社の方が、明日、会場まで運んで下さるお約束がありますので、その方に渡するまでの役目ではございますけれど」
頼んだ通り、紀夫は隼人達のことは秘密にしてくれているらしい。
「信用されているのだね」
「そう仰って頂きましたわ」
静子が立ち上がった。
「お忙しいのに、申し訳ありません」
圭が心配そうに告げると、和香子が陰りのある笑顔を見せた。
「いいえ、私こそ、自分が被害者だと思われていたなんて知りませんでしたから、教えて頂けて良かった。
百合子様は今どちらにおいでなのでしょう? 私、お礼を申し上げたいとずっと思っているのですけど、まさか……」
た……と言いかけて和香子は口をギュッと閉じた。
「逮捕されているわけじゃない。心配しなくてもいいよ。
昨日彼が会ったそうだが、お元気そうだったらしい」
核心をぼかして、嘘を吐かず、和香子を不安にさせぬよう気を付ける。
「忙しいようだね」
二人は再び、瞳を輝かせた。
「はい。これから帰ってすぐに休んで、夜、明日のパーティーの為にお菓子を作るのです。
私達、カスタード・プティングを任されておりますのよ」
隼人は笑顔を作った。
圭も同じように一見、嬉しそうに見える笑顔になった。
「それは楽しみだろうね。
あ、もしかしてこの前頂いた珈琲寒天も作るの?」
「あれは、田中様と右腕でいらっしゃる佐藤様がお作りになられます」
ここにきて新しい重要人物が現れたらしい。勇一郎がいたなら間違いなく、偽名だと決めつけるに違いない。
「佐藤さんって方は初めて聞いたな。どんな方?」
二人はしばらく困った顔をしていたが、和香子が意を決したように口を開いた。
「実は、私達佐藤様とはお会いしたことはないのです。
その……お顔に大きな火傷の痕があるらしくて、人前には出られません」
「失礼。君達を困らせるつもりはなかったのだけど」
「いいえ、お気になさらずに」
「ご存じなかったのですもの、仕方ありませんわ」
二人は感じの良い笑顔で、隼人を慰めてくれた。ほんの一月前まで、死を考えていたとは思えぬ、温かな笑顔だった。
「ありがとう。
明日は田中さんがお菓子を運ぶのだろうか?」
「田中様はパーティーに出席されますから、私達が任されております。
とは申しましても、ご支援下さるある会社の方が、明日、会場まで運んで下さるお約束がありますので、その方に渡するまでの役目ではございますけれど」
頼んだ通り、紀夫は隼人達のことは秘密にしてくれているらしい。
「信用されているのだね」
「そう仰って頂きましたわ」
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