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披露宴 二
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パーティーにしては地味だが、品のある装いのトミは、まるで花道を歩く役者のように堂々としていた。
周りを確認するが、同行者はいないように見える。右腕の佐藤は一緒ではないのだろうか。
東子はやおら近寄ると、トミに何やら話しかけ、踵を返すと頭を下げた。
「皆様、本日はお忙しい中、私達の為に足をお運び下さいまして、ありがとうございます。
私は今まで、皆様のおかげで幸せな日々を送って参りました。これからは自分の力で、幸せな家庭を築いてまいります」
良く通る声で、東子が宣言すると拍手が起こった。
ただ、軍人や幼年学校の生徒は白手袋を付けているので、ポンポンと柔らかな音が大半で、拍手喝采というには少々迫力に欠けている。
「一年ほど前から私、睦月会という婦人の自立の会に時折お邪魔をさせて頂いております。
睦月会には様々な理由で家を出なくてはならなかった婦人が、共同生活を送りながら仕事や勉強をしています。
本当なら夫や父親の庇護の元、穏やかに日々を過ごしたり子供を育てたりできるはずなのに、幸せとは言いかねる事情から、彼女達は自分を、子供達を養うために一生懸命に努力しています。
睦月会では主に、農業とお菓子の二本柱で活動されています。
主に行商をされていますが、このように、お願いすれば新しいお菓子を考えて作って下さったりもします。
どうか皆様も、睦月会をはじめ、婦人の為に活動される方々にご協力をお願い致します。
本日は、殿方が多いので、甘すぎないデセールを作って頂きました。珈琲を寒天で固めた、ほろ苦いお菓子ですって。是非、皆様、召し上がって下さい。
苦いのが苦手な方は、甘いカスタード・プティングもございます」
東子の隣に陣取った元帥と、その反対側の新郎の手にはすでに、透明なガラスの器と、銀の匙がある。
その周りを囲むようにしている軍人は、元帥側の人間だろう。東子の弟や従兄弟だと聞く、幼年学校の生徒も次々と珈琲寒天を受け取る。
しかし、元帥に敵対しているという廣中大将はやはりへの字口で、冷ややかな視線を送りながら遠巻きにしている。
取り巻きも含めて、おめでたい場には相応しからぬ仏頂面で、そんなに気に入らないのならいっそ、来なければいいのに。と、陰口の一つでも叩きたくなる雰囲気である。
どうやら、言い出したものの苦い物が苦手らしい東子は、カスタード・プティングの器を持って、頭より高く掲げた。
「皆さま、お召し上がり下さい」
まるで乾杯のように皆、目線の辺りまで持ち上げた後、匙で掬い始めた。
トミが笑った。
一見すると、喜びの為に笑んだように見えたが、その眼には邪な光が輝いている。
隼人は目立たぬようトミの背後に回った。
周りを確認するが、同行者はいないように見える。右腕の佐藤は一緒ではないのだろうか。
東子はやおら近寄ると、トミに何やら話しかけ、踵を返すと頭を下げた。
「皆様、本日はお忙しい中、私達の為に足をお運び下さいまして、ありがとうございます。
私は今まで、皆様のおかげで幸せな日々を送って参りました。これからは自分の力で、幸せな家庭を築いてまいります」
良く通る声で、東子が宣言すると拍手が起こった。
ただ、軍人や幼年学校の生徒は白手袋を付けているので、ポンポンと柔らかな音が大半で、拍手喝采というには少々迫力に欠けている。
「一年ほど前から私、睦月会という婦人の自立の会に時折お邪魔をさせて頂いております。
睦月会には様々な理由で家を出なくてはならなかった婦人が、共同生活を送りながら仕事や勉強をしています。
本当なら夫や父親の庇護の元、穏やかに日々を過ごしたり子供を育てたりできるはずなのに、幸せとは言いかねる事情から、彼女達は自分を、子供達を養うために一生懸命に努力しています。
睦月会では主に、農業とお菓子の二本柱で活動されています。
主に行商をされていますが、このように、お願いすれば新しいお菓子を考えて作って下さったりもします。
どうか皆様も、睦月会をはじめ、婦人の為に活動される方々にご協力をお願い致します。
本日は、殿方が多いので、甘すぎないデセールを作って頂きました。珈琲を寒天で固めた、ほろ苦いお菓子ですって。是非、皆様、召し上がって下さい。
苦いのが苦手な方は、甘いカスタード・プティングもございます」
東子の隣に陣取った元帥と、その反対側の新郎の手にはすでに、透明なガラスの器と、銀の匙がある。
その周りを囲むようにしている軍人は、元帥側の人間だろう。東子の弟や従兄弟だと聞く、幼年学校の生徒も次々と珈琲寒天を受け取る。
しかし、元帥に敵対しているという廣中大将はやはりへの字口で、冷ややかな視線を送りながら遠巻きにしている。
取り巻きも含めて、おめでたい場には相応しからぬ仏頂面で、そんなに気に入らないのならいっそ、来なければいいのに。と、陰口の一つでも叩きたくなる雰囲気である。
どうやら、言い出したものの苦い物が苦手らしい東子は、カスタード・プティングの器を持って、頭より高く掲げた。
「皆さま、お召し上がり下さい」
まるで乾杯のように皆、目線の辺りまで持ち上げた後、匙で掬い始めた。
トミが笑った。
一見すると、喜びの為に笑んだように見えたが、その眼には邪な光が輝いている。
隼人は目立たぬようトミの背後に回った。
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