長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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蟠り

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 「諦める良い機会だろう。

 まぁ、こき使うだけこき使って、はいさよなら。じゃ申し訳ないから、静子ちゃんに手紙、渡してやるよ。書き上がったら、ここに持って来い。間違っても、長瀬萬請負には行くなよ」

 勇一郎は名刺を渡した。

「勘違いするなよ。やり直せって言ってるわけじゃない。

 今回の婚約解消は静子ちゃんには何の落ち度もなかったから、謝罪する機会を与えてやるってことだよ。だから、必要ないと思うなら、書かなくてもいい。

 さ、帰る用意をしてこい。送ってやるから」

 勇一郎が隼人に向かって手を差し出した。ポケットに入れていた車の鍵を、その手の上に載せる。

「村越君、君の愛情が本当ならば、気持ちが消えることはないだろう。大人になっても消えなければ、もう一度告白をするのも一つの方法だ。

 が、その頃には彼の言った言葉の意味が理解できると思う」

 宗一郎は不機嫌そうな表情ながら、これ以上反抗しても無駄だと悟ったのだろう、荷物と上着を持って来た。

 台所は八割がた片付いている。

 夜通しこき使われても、文句も言わず真面目に作業した点においては評価できるが、就職試験ではないので、合格点を与えることができないのは残念かもしれない。

 宗一郎が出て行ってすぐ、圭は風呂から出て来た。

 台所の片付けは目を覚ましてから。ということにして、山上に、風呂に入るよう促す。

 風呂上りは水分補給が必要なので、水にレモンの汁を少しと砂糖を溶かし、飲むように言って差し出した。

 眠気故か無防備な表情と様子で圭は受け取り、喉を鳴らすと満足気に溜息を吐いた。いつも以上に幼く、可愛らしく見える。

 少女よりも少女らしく、しかし、少女にはない凛々しさも見える。眠気に負けていれば、儚げな美少女にしか見えないのだから、宗一郎は面食いなのではなかろうか。

「お腹は空いてない?」

 圭は首を振った。

「パーティーで何か食べた?」

「はい、サンドウィッチを二切れ。甘納豆も頂きましたから、お腹は八割方」

「それくらいで大丈夫?」

「はい。

 長瀬さん、泣きそうな顔をしておいでですが……」

 圭の心配そうな声に、隼人は動きを止めた。笑っているつもりだった。上手に笑っているつもりだったのだが……。
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