長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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後日談 二

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 芙由子からの手紙であったことが、隼人にとっては重要だった。百合子からではないことが。

 百合子はおそらく、隼人を忘れられるまで、隼人ではない誰かに恋をするまで、手紙を書くことはないだろうと思う。

 真っ直ぐ隼人に向けられた大きな目は、輝きながらも哀しみを宿していた。

 もしも百合子が隼人を諦めなければ、もしも隼人が百合子を受け入れたなら、多分、傷を舐め合うだけの関係になってしまっただろう。

「彼女と二人きりになった時、君が謝らないかと心配だった」

 山上が隼人に向けた視線を、ついと逸らした。

「謝ってしまえば、更に彼女を傷つける」

「謝っていないよ。謝って満足するのは、俺だけだって気付いたからね」

 山上の視線が戻った。目を合わせて、笑った。

 百合子との会話は、誰にも話してはいない。けれど隼人が振られたことは、皆が理解しているような気がした。

「ま、これで本当に万事解決だな」

 勇一郎の言葉尻に被せて、圭が、いいえ。と、責めるような声を出した。

「逓信大臣の秘密の件がまだ、解決しておりません」

 圭の硬い声に、勇一郎が眉間に皺を寄せた。

 山上は暫し空を睨んでいたが、思い当たったらしく、隼人を責めるような目で見ている。

「け、圭君、それはまた、後で良いんじゃ……」

「いいえ、どうにもすっきりしません。どなたか詳しく……」

「説明なら、教師の仕事だよな、英和」

「弁護士だって説明が仕事みたいなもんだろう!」

「そもそも、言い出したのは勇一だ!」

 どうにか逃げようと、三人が押し付け合うのを、理解できないらしい圭が、不満そうに見つめている。

「圭ちゃん、平和な世界に住みたいと思わないか?」

 突然の言葉に、圭はとっさに、もちろんです。と、素直に答えた。

「だったら逓信大臣の秘密の件は忘れろ。さもなくば、俺達三人が喧嘩を始めにゃならなくなる」

「そんなに難しいことなのですか?」

「難しいってか、気付いてくれ。この秘密は国家機密なんかじゃない、下世話な話なんだ」

 あまりに露骨過ぎて、隼人は頭を抱えるしかなかった。

 山上は勇一郎を睨んでいる。

 結局三人が三人して、箱入りお坊ちゃまを持て余しながらも、箱から引っ張り出すのを躊躇ってしまうのだった。自力で箱から出るその時まで、押し入れの中にでも押し込んでおきたいのが本音なのだ。それはいうなれば、年の離れた弟の無垢な魂を見守る、兄のような感情であった。

「わ……わかりました」

「圭ちゃん、良い子だな」

 到底良い子には見えない膨れっ面だが、安心して大人達は安堵の溜息を合唱した。   



             完
 
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