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監禁 五
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少し。と、圭は答えた。
山科の所で出された物は、口を付ける気になれなかったのだ。と。
部屋に荷物を放り込む。
布団と蚊帳しかない、素っ気ない部屋。
頻繁に押し掛ける勇一郎が勝手に使う為に、自宅でありながら、手を加えられぬ部屋であった。
文句を言われるかもしれないが、知ったことではない。
瓦斯の通った近代的な台所で、食事の用意を始める。
鍋で湯を沸かし、素麺を茹でながら、出汁を作っているのを、台所の入り口で、呆然と圭は突っ立って眺めていた。
「長瀬さんは、料理人ですか?」
「いいや、探偵、かな?」
「かな? とは?」
「自分では探偵を始めたつもりはないんだけど、周りはそう捉えているらしいから。
そうだ、それで山科を訪ねたんだけど、すっかり忘れてた。
思い出すのも嫌だろうけど、教えて欲しいんだ」
「なんでしょうか?」
「あの男の顔の傷、いつできたか知らないか?」
「昨夜です」
素麺を洗う手が止まった。
「私が殴りました」
「え?」
「お出汁、ふいてますよ」
洗った素麺を出汁に沈め、ひと煮立ちさせる。
生憎、葱はなかった。
冷蔵庫の中にあった蒲鉾を飾り、食卓に運ぶ。
圭は、隼人の指示通り、グラスに水を汲むと、危なっかしい足取りでついて来る。
なかなか素直な性格らしい。
言葉遣いや仕草から、上流の出だと考えられるが、不要な気位の高さを振り翳すことは無さそうだ。
「さっきの続きだけど、どうして山科の顔を殴ったのかな?」
圭は丼を前に、丁寧に手を併せた。
「許しも無しに、足に触ったので。
当然の報いです」
「何時頃?」
「十時頃でしたか。
八時頃に山科邸に参りました。
取り留めのない話をしていて、時計が十回鳴ったのを覚えています。
半にはなっていませんでした。あの応接間にある時計は、半にも一度鳴りますから」
言葉を切ると、圭は素麺を口にし、美味しい。と、感想を言った。
「話が一区切りついたので、私は、自分はどんな仕事をするのかを問うたのです。
言い忘れておりましたが、私は昨日、山科の家で奉公する為に参りました。
信頼している方の紹介だったのですが」
「裏切られたと」
「そうなのでしょうか……」
山科の所で出された物は、口を付ける気になれなかったのだ。と。
部屋に荷物を放り込む。
布団と蚊帳しかない、素っ気ない部屋。
頻繁に押し掛ける勇一郎が勝手に使う為に、自宅でありながら、手を加えられぬ部屋であった。
文句を言われるかもしれないが、知ったことではない。
瓦斯の通った近代的な台所で、食事の用意を始める。
鍋で湯を沸かし、素麺を茹でながら、出汁を作っているのを、台所の入り口で、呆然と圭は突っ立って眺めていた。
「長瀬さんは、料理人ですか?」
「いいや、探偵、かな?」
「かな? とは?」
「自分では探偵を始めたつもりはないんだけど、周りはそう捉えているらしいから。
そうだ、それで山科を訪ねたんだけど、すっかり忘れてた。
思い出すのも嫌だろうけど、教えて欲しいんだ」
「なんでしょうか?」
「あの男の顔の傷、いつできたか知らないか?」
「昨夜です」
素麺を洗う手が止まった。
「私が殴りました」
「え?」
「お出汁、ふいてますよ」
洗った素麺を出汁に沈め、ひと煮立ちさせる。
生憎、葱はなかった。
冷蔵庫の中にあった蒲鉾を飾り、食卓に運ぶ。
圭は、隼人の指示通り、グラスに水を汲むと、危なっかしい足取りでついて来る。
なかなか素直な性格らしい。
言葉遣いや仕草から、上流の出だと考えられるが、不要な気位の高さを振り翳すことは無さそうだ。
「さっきの続きだけど、どうして山科の顔を殴ったのかな?」
圭は丼を前に、丁寧に手を併せた。
「許しも無しに、足に触ったので。
当然の報いです」
「何時頃?」
「十時頃でしたか。
八時頃に山科邸に参りました。
取り留めのない話をしていて、時計が十回鳴ったのを覚えています。
半にはなっていませんでした。あの応接間にある時計は、半にも一度鳴りますから」
言葉を切ると、圭は素麺を口にし、美味しい。と、感想を言った。
「話が一区切りついたので、私は、自分はどんな仕事をするのかを問うたのです。
言い忘れておりましたが、私は昨日、山科の家で奉公する為に参りました。
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