殺された人形

岡倉弘毅

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皮膚

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 (あの皮膚の下に、なにがあるのかを僕は知っている)

 従兄の津川洋史つがわひろふみの眠そうな横顔を見ながら、人見直通ひとみなおみちは考える。

 藍染めの蚊帳の中、障子の向こうでは気の早い蟋蟀が優しい音を奏でていた。

「僕の前では寝ないでくれ給え」

 日だまりの良い匂いのする布団に寝転んだまま、洋史は、うん。と答えながらも、ゆっくり、ゆっくりと頭を重くしていく。

「おい、君の布団は隣の部屋に敷いているだろう」

 自分の前で眠らないで欲しい。

 それだけの願いを叶えようともせず、洋史は無邪気な笑顔を見せながら、瞼が重くなっていくのに抗う様子は全く見せない。

「寝るなと言っているだろう」

 ぴしゃり。と、寝間着の上から太腿をひっぱたいてみるものの、若者の、眠りに対する貪欲さに打ち勝てるはずもなく、洋史は易々と睡魔に囚われた。

「起きろよ! 起きてくれよ……」

 喉が渇く、声が掠れる。

 なんとかして起こそうと揺す振り続けるが、洋史は瞼を上げようとはしない。

 心臓が普段よりも、大きく音を鳴らしている。

 洋史の肩を、揺す振っていた手が止まる。

 自らの恐ろしい考えに、耐え切れなくなりそうだった。爪が肩に食い込んでいるのを、気にしている余裕などありはしない。

 蟋蟀の声が、耳に伝わらない。聞こえるのは自分の、荒い息ばかり。

 日焼けの見当たらない白い肌が、直通の視界の全てだった。

 この白い肌の下に有る物はなにか。

 普通の人なら知らぬそれを、直通は知っている。

 いや、教えられた。

 危険だと思った。

 周りを見渡す。

 刃物が無いのを確認しているのか、刃物を探しているのか、直通自身が理解できないまま。

 体が震え出し、歯の根が、ガチガチと音を立てる。もう我慢できない。と、理性が悲鳴を上げた。このままでは直通が直通ではなくなる。と。

 立ち上がると、部屋を飛び出した。無防備に眠る洋史を残して。襖を開け放したまま。

 暗い隣の部屋にも、同じ藍染めの蚊帳と、白い布団が用意されていた。

 直通は布団に潜り込む。

 暗闇に浮かぶのは、赤い、赤い血。

 瞼の裏に曼珠沙華のように花開いては消えていく。
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