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皮膚 二
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次に浮かぶのは、黄色いつぶつぶとした皮下脂肪。弾力を持つ腸。
そして、規則正しく動き続ける心臓。
吐き気を催しそうな臭いの、立ち込めた手術室で見せられた、内臓器官が頭から離れない。
皮膚の上からは細い静脈しか確認できぬから、動脈の太さには驚かせられた。
普通の人は知るまい、腹の中を。
あの、筋肉と脂肪と粘膜の塊が、人間であるとは思えなかった。
医者の目には人と見えるのだろうか。
患者の命を一秒でも長く保たせようとする必死の様は、直通に疑問を持たせた。
あのぐちゃぐちゃの腹を見て、どうして平然としていられるのだろう。
柔らかそうな肝臓を握り潰したい衝動に駆られることはないのだろうか。
働き者の心臓を、切り裂きたいと思わないのだろうか。
(そう考える、僕が異常なのだろうな)
次に瞼に浮かんだのは、浅草で見た奇術。
レビューのような、露出の大きな洋服を着た若く美しい女を磔にして、見るも怪しげな黒いマントを羽織った男が、段平を煌めかせながら二三回振ってみせた。
口元には怪しげな笑みを浮かべながら。
電気の光を反射させがら、段平は、ヒュッ。と鋭い音を残して、磔にされた女の肩にぶつかり、白い腕を床に落とした。
客席から悲鳴が上がる。
しかし、直通の口から悲鳴が漏れることはなかった。唾を飲み込み、見入った。
もったいぶった態度で男は、残りの手、足を切り離すとまた、もったいぶった様子で切った手足を元の場所に戻し、美女は元に戻るのだが、手足を切ると言う乱暴な行為に夢中になった直通には、残念な気持ちが残った。
あぁ、これは見世物、嘘の世界なのだ。と。
浅草では他にも、奇妙な物を幾つも見た。
手足が極端に短い男、腰の辺りで繋がった双子、蛇を食らう女。
しかし、美女解体ほど直通を引きつけたものはなかった。虚構の世界だと分かっても尚、人を切り刻むことに、興味の目を向けずにはいられなかった。
そんな自分が怖いと思いながら、止めることができない。
血の滴る音を聞きたいと、いつから思い始めたのか。すでに憶えてはいない。
近くに無防備に眠る洋史がいる。
今、意識を遠くしたならば、自らの欲望の虜になるのではあるまいかと考えると、恐ろしくてうっかり眠りの世界に向かうこともできない。
欲望は日ごと大きくなっている。
しかし、欲望を果たしたならば一生、直通は苦しみ続けるに違いない。
洋史の為にも、直通の為にも、果たしてはならない。
暑苦しい布団の中、汗を寝間着の袖で拭きながら、まんじりともせずに直通は朝を待った。
そして、規則正しく動き続ける心臓。
吐き気を催しそうな臭いの、立ち込めた手術室で見せられた、内臓器官が頭から離れない。
皮膚の上からは細い静脈しか確認できぬから、動脈の太さには驚かせられた。
普通の人は知るまい、腹の中を。
あの、筋肉と脂肪と粘膜の塊が、人間であるとは思えなかった。
医者の目には人と見えるのだろうか。
患者の命を一秒でも長く保たせようとする必死の様は、直通に疑問を持たせた。
あのぐちゃぐちゃの腹を見て、どうして平然としていられるのだろう。
柔らかそうな肝臓を握り潰したい衝動に駆られることはないのだろうか。
働き者の心臓を、切り裂きたいと思わないのだろうか。
(そう考える、僕が異常なのだろうな)
次に瞼に浮かんだのは、浅草で見た奇術。
レビューのような、露出の大きな洋服を着た若く美しい女を磔にして、見るも怪しげな黒いマントを羽織った男が、段平を煌めかせながら二三回振ってみせた。
口元には怪しげな笑みを浮かべながら。
電気の光を反射させがら、段平は、ヒュッ。と鋭い音を残して、磔にされた女の肩にぶつかり、白い腕を床に落とした。
客席から悲鳴が上がる。
しかし、直通の口から悲鳴が漏れることはなかった。唾を飲み込み、見入った。
もったいぶった態度で男は、残りの手、足を切り離すとまた、もったいぶった様子で切った手足を元の場所に戻し、美女は元に戻るのだが、手足を切ると言う乱暴な行為に夢中になった直通には、残念な気持ちが残った。
あぁ、これは見世物、嘘の世界なのだ。と。
浅草では他にも、奇妙な物を幾つも見た。
手足が極端に短い男、腰の辺りで繋がった双子、蛇を食らう女。
しかし、美女解体ほど直通を引きつけたものはなかった。虚構の世界だと分かっても尚、人を切り刻むことに、興味の目を向けずにはいられなかった。
そんな自分が怖いと思いながら、止めることができない。
血の滴る音を聞きたいと、いつから思い始めたのか。すでに憶えてはいない。
近くに無防備に眠る洋史がいる。
今、意識を遠くしたならば、自らの欲望の虜になるのではあるまいかと考えると、恐ろしくてうっかり眠りの世界に向かうこともできない。
欲望は日ごと大きくなっている。
しかし、欲望を果たしたならば一生、直通は苦しみ続けるに違いない。
洋史の為にも、直通の為にも、果たしてはならない。
暑苦しい布団の中、汗を寝間着の袖で拭きながら、まんじりともせずに直通は朝を待った。
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