殺された人形

岡倉弘毅

文字の大きさ
7 / 202

カフェ『ミモザ』

しおりを挟む
 「人形が殺されていたんです」

 カフェ『ミモザ』一階の片隅、小柴有紀こしばゆうきは、ウエイターの吉住三月よしずみみつきから奇妙な言葉を聞かされていた。

「人形が殺されていたって? なに寝呆けてんだい?」

 輪菓子ドーナツを齧りながら、苦い珈琲コーヒーを啜りつつ、軽く笑って流そうといたのだが、三月は真剣だった。

 女の子のように可愛らしい顔が、幾分か男らしく見える表情で、有紀に詰め寄る。

「有紀さんになら分かってもらえると思ったのに」

「なぜに、あたしなんだい?」

「だって、有紀さんは芸術家でしょう?」

「芸術家ったって、あたしは音楽家を目指しているんであって、そういうことならば絵描きや彫刻家、あるいは文筆家なんかに話した方がいいんじゃないのかい?

 ほら、橋下某って奴は鏡花に心酔しているそうだから、そういう話をしてやれば喜ぶんじゃないのかい?」

 三月はぷっくりと頬を膨らませて、無言の抗議を始める。こういう可愛らしい拗ね方が、三月にはよく似合う。

 美少年しか雇わぬカフェ。中でも三月は十六歳と最も若く、最も美しい少年である。

 その為、客からチヤホヤされる傾向にあるが、決して甘えたり、我儘を言ったりはしない。

 有紀以外には。

「僕は有紀さんに聞いて欲しいんです」

 毛先が後ろに向いた柔らかそうなくせ毛、団栗のように大きな目。小ぶりの唇はさっきからずっと、尖ったままである。

「芸術家だからかい?」

「だって、乱歩とか好きでしょう?

 僕も読んでるんだよ。あの人の話には、人形に恋したりするものもあるでしょう?」

「あたしは人殺しの方が好きなんだよ」

 これ以上苛めたならば、泣き出すやもしれぬ。と、有紀は少なからず背筋が寒くなった。

 客はもちろん、兄貴分であるウエイターからも可愛がられている三月を泣かせたとあれば、『ミモザ』への出入りができなくなる可能性が出てくる。

 こんなに美味しく、安い珈琲を飲めなくなるのはかなり辛い。

「分かったよ。聞いたげるから。

 いつが休みだい?」

 とたんに三月の表情が明るくなった。現金なものである。

「明後日」

「それじゃ、明後日の昼一時に、上野の西郷さんの前でどうだい?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

バー木蓮 比呂乃ママと一杯いかが?

くうちゃん
ライト文芸
第一部 バー木蓮  曙橋商店街の一角。古びた洋館の一階に、バー木蓮はある。  面白おかしな比呂乃ママは楽しいことが大好きだ。明るい楽しく、温かい、時には静かな触れ合いを求めて、個性的なお客様が、次々とやってくる💕 さて、今日のお客様は? 「いらっしゃいませ♪  ママの比呂乃です。」 第ニ部 カフェ木蓮  サイキック能力のある小説家見習い貴和子。  貴和子が書いた、カノコソード「鹿の子隊」が登る摩天楼の先で待つのは、神様か大統領か。  貴和子が活躍するシリーズ。 第三部 色とチャクラと木蓮と  第一チャクラから第七チャクラまでの、色やはたらきを、バー木蓮の人間関係の中で、イメージしてお届けする実験作品。  第四チャクラからは自身もチャクラを開くような試練に向かいながら書いています。  

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...