殺された人形

岡倉弘毅

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告白

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 「素描でいいんです。有紀に対して指示はしません。ただ、本を読んでいてくれればいいのです」

「考えとくよ」

「有紀にしては気前の良い答えですね。僕としては光栄ですが。

 どういう風の吹き回し?」

「あんたの描く絵が好きだからかな」

「意外ですね」

「あたしは芸術には興味があるよ。音楽だけではなく、大方のものは」

「それは知っていますけど」

「あんたの絵は、技術は高い。

 一つ難を言えば、あんたの絵は冷たいんだよ」

 足を組むと、ソファの背凭れに身を預ける。

 洋史は窓に寄り掛かると、有紀に視線を向けた。

「教師にも言われました。お前の絵は無機質だ。と」

「名画ってもんは、心が無けりゃいけない。そうでなけりゃ、人の心を奪えやしない。

 技術に関しては文句の付けようがないのに、あんたの絵は人の心を動かさない。心を感じられないがために」

「根が冷たい性格なので」

「そうかね? 冷たい人間に芸術が理解できるだろうか。

 あたしはできるとは思わないよ」

「矛盾ですね。僕の絵に心が無いと言いながら、どうして僕の冷たさを否定するのです?」

「洋史はなんで、人物を描かない? 学校でマヌカンを描いたっきりで、自主的に描くのは静物や風景ばかりだよね」

「人を描きたいと思わないからですよ」

「それじゃ、あたしは人じゃないのかい?」

 洋史は微かに笑い、一つ深呼吸をした。

「はっきり言わせて貰うと、有紀の他人に対する態度が、僕には偽りにしか見えないのですよ。

 誰とでもすぐに親しみ、気安く話すけれど、本人さえ意識していないところで、無理をしているのではないのかと思ってしまうのです。

 偽りの態度で生きる有紀を、心の無い僕が絵にすれば、どんな作品ができあがるか、興味ありませんか?」

「どこにも真実は存在しないってわけかい?」

「いいえ。その絵の中にこそ、真実が現れるかもしれませんよ」

 珈琲の存在を無視して、二人は睨み合いを始めた。いや、正しくは心の探り合いか。

「あたしは……」

 ほんの二分、短く、長い睨み合いだった。有紀は静かに、沈黙を壊す。

「あんたにはあたしが、どんな風に見えているのかを知りたいのかもしれない」

「それって、津川さんが好きって意味ですか?」

 近くで給仕していたとは言え、三月はなかなかの地獄耳らしい。

「違うよ」
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