殺された人形

岡倉弘毅

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頑な 二

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 「あぁ、そう、手術。手術を見学する事を強要されるようになってから、僕は父が怖くなった」

「自分と同じく、医者にしたかったからだろう?」

 洋史は力なく、首を横に振った。

「それならどうして、兄や弟には見学させなかったのでしょうか。なぜ直通まで見学する必要があったのでしょうか。

 直通はあくまで、人見家の跡取りであって、津川の家の子ではありませんのに」

「そりゃ、妙だね。

 その、洋史は手術を見るのが厭だったんだね?」

「えぇ。人の体の中のグロテスクなことといったらありません。それにあの臭い。思い出しただけで吐き気がしそうですよ。

 父には訴えました、苦痛だと。どうして自分達だけにこんなことをさせるのかと問いもしました。

 けれど、答えの無いまま、家長の権限を振り翳して、僕達は手術室へ連れて行かれたのです」

 周りでは見知らぬ人達の笑いさざめく声が、葉擦れのように聞こえる。

 視界に入る人たちはこんなに楽しそうなのにどうして、自分達は暗い気持ちで話し合っているのか、理不尽な気落ちが存在するのも確かだった。

「時々……」

 思い出したことを心にしまい込んでおくのが辛いのか、洋史は続ける。

「父は直通だけを連れ出すこともありました。どこへ行くのか一度だけ問うたことがありますが、浅草界隈をうろついていたと」

「なにをしに行ったのだろう」

「そこまでは答えませんでした」

「その従兄弟は母方? 父方?」

「両方です。母親は姉妹、父親は双子の兄弟。

 叔父が人見の家に婿入りしたのです。叔父もやはり、医学が性に合わなかったらしく」

「お医者様って、人の命を救う立派な仕事じゃ無いの?」

「そう。本来はそうなのでしょうね。

 でも、僕にとって父は……得体の知れぬ男です……」

 以前二人で下宿近くを歩いている時、ある家の軒先にどじょう売りがいるのを見た。

 目打ちでどじょうの目をまな板に打ち付けて、庖丁でしゅっと、腹を割く。腸を取り除くと、たん。と、良い音をさせて頭を体から切り離した。

 その時洋史は苦痛そうに視線を逸らして、急ぎ足になったのを思い出した。

 どじょう程度であの態度なのだから、人の体を刃物で切る様子を見るのは、かなりの苦痛に違いあるまい。
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