殺された人形

岡倉弘毅

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疑惑 二

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 行彦の怒鳴り声に、有紀は、はい。と答えるしかなかった。

「変質者だったらどうなっていたと思う? どうしてお前はそんなに怖い物知らずなんだ?」

「怖くないって訳じゃ無いよ……ただ、びっくりして……」

「明日、ご近所に注意しておくから、有紀も気を付けなさい。自宅の庭とは言え若い娘が夜、一人で外に出るもんじゃない。

 もう、部屋に戻って寝なさい」

 珍しく父親らしい態度に有紀は戸惑い、悪戯を咎められた子供のように頷くしかない。

 行彦は外に確認に出たようだった。

 有紀は視線を型紙に向けた。少し短めのスカートらしい。従妹の育子が最近遊びに来た時にねだっていたのを思い出す。

 何色のスカートなのだろう。生地はやはり、柔らかいのだろうか。

 現状を忘れ、有紀は考える。

 自分に似合うだろうか?

 そう考えた途端、指先が冷えたのを感じた。さっき、不審者の姿を見ようとした時はなにも感じなかったのに。

 扉の開く音が聞こえた。有紀は動けないまま、行彦を待った。足音を聞いた限りでは、不審なことはなかったらしい。

 台所に戻ってきた行彦は、落ち着いた様子で椅子に座った。

「堀川伯爵の若旦那は、どんな人なんだ?」

 鉛筆を紙の上に走らせながら、世間話よりは幾分か真剣な口調だった。

「どんなって?」

「男前だそうじゃないか」

 なるほどね。と、心の中で呟く。年頃の男と女。吞気そうに見えて実は、世間一般の親と同じような心配をしているのだろう。

「そうらしいけど、あたしは興味ないね」

「本当に? 大層魅力的な人だと、聞いたことがある」

「それは世間一般の話だろう? あたしはあぁいった男が一番嫌いだね。

 いきなりどうしたの? 今まで気にしてなかったくせに」

「気にしていなかったわけじゃないよ。言い辛かっただけだ」

「言い辛い?」

「身分違いは不幸の元だからね。

 有紀は好きな人はいないのかね?」

 苦手な話になってきたな。と有紀はうんざりし始めたものの、もし逃げたならば、あらぬ誤解を与えるに違いない。

「……いないよ」

「そう。残念なような、ほっとしたような。

 もう寝なさい。おやすみ」

「おやすみなさい」

 言いながら、足を部屋に向ける。この手の話は照れ臭さもあり、楽しい話題ではない。

 身分違いの恋?
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