殺された人形

岡倉弘毅

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演奏 三

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 まんざらでもない様子で、馨は自分の指を眺める。形が良いと小さな頃からさんざん褒められたものだよ。と、自慢気に。

「有紀さんもそうでしょう? 私の指と形がよく似ていますよ」

「似ていませんよ」

 素っ気なく返したが、確かに似ている。細長い指と、細長い爪。

 ヴァイオリンやセロなどの弦楽器奏者は、弦をしっかりと押さえる為に深爪をする。弦を指先でしっかりと押さえるには、爪が邪魔なのだ。

 馨は指先をしっかりと保護しているため、尚更長く見える。

「先生」

 一瞬、誰を呼んでいるのかわからなかったが、どうやら有紀らしい。

 今まで話し掛けられなかったので、康子の言葉はすんなりとは有紀に届かなかった。

「一曲お願いできませんか?

 私の知り合いで、先生の演奏会を拝見した者がおりますの。とても素晴らしい演奏だったと伺っておりますわ」

 言葉とは裏腹に、挑むような光が、康子の目には宿っていた。

「ありがとうございます」

「私も聴きたいですね。お手本だけではなく、本格的な演奏を」

 二人に乞われた以上、逃げるわけにもいくまい。

 では。と、有紀はヴァイオリンを構えた。

「ドボルジャークの「ユモレスク」を」

 技巧を駆使した曲は、この場には相応しくない。「ユモレスク」なら曲に緩急があり、優しく、クラシック音楽に馴れていない人間でも心地良く聴けるだろう。

 二人は当然のように、離れた場所に座った。視線を一度も合せることなく。

 演奏会は、映画館などを借りて催すことが多かった。伝手があれば一流の演奏家を呼ぶこともあるがほとんどは、本業を他に持つ演奏家志望者が集まり、金を出し合って会場を借り、ビラを作る。

 内容は、独唱、独奏、大学の交響楽団などの西欧音楽は勿論、長唄や日舞、三味線などもあった。

 ゆえに老若男女が楽しめ、まだ、西洋音楽を知らぬ人が、知る切っ掛けにもなっていた。

 西洋音楽用の演奏会場はまだ少ない。映画館で活動する楽隊は少人数体制である上、主役は弁士。故に音響があまり良くないが、それはしかたあるまい。

 それでも、個人宅の応接間に比べるとまだましらしい。高音になると窓硝子が共鳴してピリピリと音を立て、微かながらも演奏の妨げになる。

 有紀は、空の下で演奏するのを好んだ。空に音が吸い込まれていくような感覚が、なによりも好きだった。
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