殺された人形

岡倉弘毅

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康子

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 古来、音楽は神への捧げ物だったという。
 
 天上におわす神々の為に演奏した人々は、有紀と同じ気持ちを持っていたに違いない。少しでも澄んだ音が、天上に届くように。

 そして、人の心をも震わせるように。

 曲を終えて弦から弓を離すと、拍手が聞こえた。

 馨の反応は予想通り、不要なまでににこやかであったが、康子は心底感心したように、必死になって拍手をしている。

 普段から良い感情を持ってはいない相手ではあるが、これほどまでに素直な反応を見せられると、喜びが混み上がってくるのはしかたがない。

 一人でも多くの人に、少しでも多くの感動を与えることこそが、芸術家の役割なのだから。    
    
「馨さんと同じ楽器を使っているとは思えませんわ」

 それは当然である。まず、ヴァイオリンを弾いている時間が違う。そして、意識が違う。

 しかし、楽器自体は馨の持っている物の方がずっと良い。猫に小判とはまさに、このことだ。弾けば弾くほど深みのある音が出るようになるはずなのに、勿体ないことこの上ない。

「一緒にされては適わないな。私はまだ、習い始めたばかりなのだから」

 半年も経てば、習い始めたばかりとは言えない。例え実力はその程度だとしても。

「そうそう、有紀さん、お約束通り池を案内しましょう。ヴァイオリンはここに置いておけばいいでしょう」

 ヴァイオリンから指紋や皮脂を取り去る為、柔らかな布で拭いていると、思い出したように馨が言った。

 まさか、康子の前で言い出すとは思いもよらなかった。

 横目で康子を確認したのだが、全くもって気にしていないらしく、表情に変化はない。

「どなたか、お手すきの方にお願いできませんか? いつも門の鍵を開けてくれる、女中さんが一番嬉しいですね」

 馨はお呼びではないとばかり、冷たい声を出してはいるものの、あれは今手が空いていませんよ。と、素っ気ない。

「私が案内致しますわ。なにしろこの屋敷の中では、私が一番暇ですもの」

 予想しなかった発言に、有紀は慌てた。

「先生がお厭でなければ」

「お願い致します」

「では、私も」

 ここでも隠れ蓑か。有紀は心の中で思う。

 本当に疑われたくないのであれば、極力関わり合わぬようにするのが自然である。ここまで露骨であれば、腹を立てる気にすらならない。
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