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理想 二
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平助はシベリアを口に運ぶのに必死になっていた。全て口に収めて、珈琲で流し込むと、噂は聞いたことがある。と言った。
「俺は会ったことも見たこともないが、資金援助していたという噂はあったな」
「会ったこともないのですか? 確か、平助さんのパトロンじゃ」
「作品は持って行っていたけど、忙しい人だったから、会ったことは無いんだ。
ってのは表向きの話で、やはり主義者の噂が原因で、会わないように言われていたんだよ、師匠や周りの者にな。馨さんは良いが、伯爵は駄目だと」
八木から得た情報と同じだった。
「向こうも、男にわざわざ会いたいとは思わなかったんだろうな。一度も会いに来いとは言わなかった。その程度の興味だったんだろう。
仕事をしてもいない金持ちが、ただ女遊びにうつつを抜かしているのでは外聞が悪いから、芸術家の支援をしているだけのパトロンだ。
女に会う時間を割いてまで、男と会いたいとは思いもすまいよ」
ひどい言われようではあるが、世間の評判とは一致していた。
「だから、伯爵が行方知れずになって初めて、お屋敷に伺うようになったんだよ。馨さんはどうやら、伯爵よりは芸術に興味があるらしいからね。
まぁ、本人にはその手の才能は無いらしいが」
「それじゃ、他の芸術家も出入りしているのですか?」
「前よりは出入りがあるらしいが、馨さんはなかなか忙しいから、皆と仲良くってわけにはいかないらしい。
俺は図々しいから、空いてる場所を借りたりして勝手にウロウロしているが、他の連中はそんなことはできまいて」
平助には、下宿近くに小さな家が宛がわれている。週に何日かは師匠である陶芸家のアトリエに行くが、それ以外はその家で制作に没頭しているのだとか。
なぜまた、わざわざ堀川伯爵家の敷地内にアトリエを構えるのか、洋史には理解できなかった。
芸術家の中には、作品の善し悪しでは無く、自分の地位向上にしか興味の無い人間も存在する。そういう人間であれば、パトロンである堀川伯爵に少しでも近づこうとするだろう。
が、平助は純然たる芸術家である。
勿論、世間に認知されなければ、パトロンが手を引くだろう事は予想できるから、受賞は気にするが、賞を獲る為に作風を変えようと考えるほどの野心家では無い。自分の芸術に忠実なのだ。
「俺は会ったことも見たこともないが、資金援助していたという噂はあったな」
「会ったこともないのですか? 確か、平助さんのパトロンじゃ」
「作品は持って行っていたけど、忙しい人だったから、会ったことは無いんだ。
ってのは表向きの話で、やはり主義者の噂が原因で、会わないように言われていたんだよ、師匠や周りの者にな。馨さんは良いが、伯爵は駄目だと」
八木から得た情報と同じだった。
「向こうも、男にわざわざ会いたいとは思わなかったんだろうな。一度も会いに来いとは言わなかった。その程度の興味だったんだろう。
仕事をしてもいない金持ちが、ただ女遊びにうつつを抜かしているのでは外聞が悪いから、芸術家の支援をしているだけのパトロンだ。
女に会う時間を割いてまで、男と会いたいとは思いもすまいよ」
ひどい言われようではあるが、世間の評判とは一致していた。
「だから、伯爵が行方知れずになって初めて、お屋敷に伺うようになったんだよ。馨さんはどうやら、伯爵よりは芸術に興味があるらしいからね。
まぁ、本人にはその手の才能は無いらしいが」
「それじゃ、他の芸術家も出入りしているのですか?」
「前よりは出入りがあるらしいが、馨さんはなかなか忙しいから、皆と仲良くってわけにはいかないらしい。
俺は図々しいから、空いてる場所を借りたりして勝手にウロウロしているが、他の連中はそんなことはできまいて」
平助には、下宿近くに小さな家が宛がわれている。週に何日かは師匠である陶芸家のアトリエに行くが、それ以外はその家で制作に没頭しているのだとか。
なぜまた、わざわざ堀川伯爵家の敷地内にアトリエを構えるのか、洋史には理解できなかった。
芸術家の中には、作品の善し悪しでは無く、自分の地位向上にしか興味の無い人間も存在する。そういう人間であれば、パトロンである堀川伯爵に少しでも近づこうとするだろう。
が、平助は純然たる芸術家である。
勿論、世間に認知されなければ、パトロンが手を引くだろう事は予想できるから、受賞は気にするが、賞を獲る為に作風を変えようと考えるほどの野心家では無い。自分の芸術に忠実なのだ。
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