殺された人形

岡倉弘毅

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理想

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 「そう。お前にもあるだろう?

 芸術に一番必要なのは、理想の女だ。自分の心の中に存在する、もっとも美しい女を求めて精進するんだ。そうだろうが」

 それは、納得できるものがあった。

 とは言え、有紀に出会うまでは人間には大して興味も無く、ましてや、理想の女を求めた事など一度もなかった。

 有紀に恋をしたと自覚した時、初めて、人を描きたいと思ったのだ。有紀を描きたいと。

 平助と洋史では、理想の女性への求め方は違ってはいるが、創作意欲という点に置いては、似通っているのだと思った。

「そうかもしれませんね」

「俺は今まで、土から女神を生み出し、人間とは一線を画した神々しさに美を求めていたが、実は、人間の艶めかしさにこそ、美は潜んでいるのだと理解してな」

「どういう切っ掛けで?」

 平助の目が、一瞬洋史から逸れた。

「なんだったかな。そうそう、なんというか、女神の美しさに魅力を感じなくなってきたんだ。

 俺の俗人根性がしっかりと頭をもたげてきたってわけだ」

 ハハハ……と、笑ったが、いつもの笑いとは違っているように思えた。

「一番最初に作った作品が、平助さんの理想の女性像なのですね?」

「そうだな。目がどうにも上手くいかなかったが」

「目を隠していてさえ、美しいと思いました。

 実は、あの人形に似た人を見たのですが」

「似た女を?」

「はい。もしかしたら、マヌカンだったのではと思いまして」

「誰だ?」

 説明に困った。色々と隠さなくてはならない。有紀との関係は、当分秘密にしておく約束であるし、主義者ではないかとの疑いも、話さぬ方が良いだろう。

「ある洋食店で、絵の仕事を頂きまして。その件で訪れた際に、客の中によく似た婦人を見たのです。上流階級に属しているらしい、品のある、美しい人でした」

「そりゃ、見たかったな」

「ということは、あの人形は平助さんの頭の中にある、理想の婦人を具現化したのですね?」

「あぁ」

 もしや、平助の思いが強すぎ、あの人形が心を持ち、動き出したのではないかと怪談じみた事を考える。

 背筋がぞっとしなくはないが、芸術家としては最高の出来事では無いかと思わせられる。

 しかし、平助はそれ以上の興味を示さなかった。どうやら平助は、表面の美しさだけにしか興味が無かったらしい。

「その時にある人から聞かれたのですが、堀川伯爵が主義に関わっていたとか」
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