128 / 202
理想
しおりを挟む
「そう。お前にもあるだろう?
芸術に一番必要なのは、理想の女だ。自分の心の中に存在する、もっとも美しい女を求めて精進するんだ。そうだろうが」
それは、納得できるものがあった。
とは言え、有紀に出会うまでは人間には大して興味も無く、ましてや、理想の女を求めた事など一度もなかった。
有紀に恋をしたと自覚した時、初めて、人を描きたいと思ったのだ。有紀を描きたいと。
平助と洋史では、理想の女性への求め方は違ってはいるが、創作意欲という点に置いては、似通っているのだと思った。
「そうかもしれませんね」
「俺は今まで、土から女神を生み出し、人間とは一線を画した神々しさに美を求めていたが、実は、人間の艶めかしさにこそ、美は潜んでいるのだと理解してな」
「どういう切っ掛けで?」
平助の目が、一瞬洋史から逸れた。
「なんだったかな。そうそう、なんというか、女神の美しさに魅力を感じなくなってきたんだ。
俺の俗人根性がしっかりと頭をもたげてきたってわけだ」
ハハハ……と、笑ったが、いつもの笑いとは違っているように思えた。
「一番最初に作った作品が、平助さんの理想の女性像なのですね?」
「そうだな。目がどうにも上手くいかなかったが」
「目を隠していてさえ、美しいと思いました。
実は、あの人形に似た人を見たのですが」
「似た女を?」
「はい。もしかしたら、マヌカンだったのではと思いまして」
「誰だ?」
説明に困った。色々と隠さなくてはならない。有紀との関係は、当分秘密にしておく約束であるし、主義者ではないかとの疑いも、話さぬ方が良いだろう。
「ある洋食店で、絵の仕事を頂きまして。その件で訪れた際に、客の中によく似た婦人を見たのです。上流階級に属しているらしい、品のある、美しい人でした」
「そりゃ、見たかったな」
「ということは、あの人形は平助さんの頭の中にある、理想の婦人を具現化したのですね?」
「あぁ」
もしや、平助の思いが強すぎ、あの人形が心を持ち、動き出したのではないかと怪談じみた事を考える。
背筋がぞっとしなくはないが、芸術家としては最高の出来事では無いかと思わせられる。
しかし、平助はそれ以上の興味を示さなかった。どうやら平助は、表面の美しさだけにしか興味が無かったらしい。
「その時にある人から聞かれたのですが、堀川伯爵が主義に関わっていたとか」
芸術に一番必要なのは、理想の女だ。自分の心の中に存在する、もっとも美しい女を求めて精進するんだ。そうだろうが」
それは、納得できるものがあった。
とは言え、有紀に出会うまでは人間には大して興味も無く、ましてや、理想の女を求めた事など一度もなかった。
有紀に恋をしたと自覚した時、初めて、人を描きたいと思ったのだ。有紀を描きたいと。
平助と洋史では、理想の女性への求め方は違ってはいるが、創作意欲という点に置いては、似通っているのだと思った。
「そうかもしれませんね」
「俺は今まで、土から女神を生み出し、人間とは一線を画した神々しさに美を求めていたが、実は、人間の艶めかしさにこそ、美は潜んでいるのだと理解してな」
「どういう切っ掛けで?」
平助の目が、一瞬洋史から逸れた。
「なんだったかな。そうそう、なんというか、女神の美しさに魅力を感じなくなってきたんだ。
俺の俗人根性がしっかりと頭をもたげてきたってわけだ」
ハハハ……と、笑ったが、いつもの笑いとは違っているように思えた。
「一番最初に作った作品が、平助さんの理想の女性像なのですね?」
「そうだな。目がどうにも上手くいかなかったが」
「目を隠していてさえ、美しいと思いました。
実は、あの人形に似た人を見たのですが」
「似た女を?」
「はい。もしかしたら、マヌカンだったのではと思いまして」
「誰だ?」
説明に困った。色々と隠さなくてはならない。有紀との関係は、当分秘密にしておく約束であるし、主義者ではないかとの疑いも、話さぬ方が良いだろう。
「ある洋食店で、絵の仕事を頂きまして。その件で訪れた際に、客の中によく似た婦人を見たのです。上流階級に属しているらしい、品のある、美しい人でした」
「そりゃ、見たかったな」
「ということは、あの人形は平助さんの頭の中にある、理想の婦人を具現化したのですね?」
「あぁ」
もしや、平助の思いが強すぎ、あの人形が心を持ち、動き出したのではないかと怪談じみた事を考える。
背筋がぞっとしなくはないが、芸術家としては最高の出来事では無いかと思わせられる。
しかし、平助はそれ以上の興味を示さなかった。どうやら平助は、表面の美しさだけにしか興味が無かったらしい。
「その時にある人から聞かれたのですが、堀川伯爵が主義に関わっていたとか」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる