殺された人形

岡倉弘毅

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女優

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 三月と顔を合わせたくなく、平助と共に『ミモザ』を出た。しきりに欠伸をする平助とすぐに別れ、浅草に向かう。

 幸い太は暇を持て余していた。昨日と同じカフェの隅の席に陣取る。

 「昨日言ってた女? なんて名前だったかな? 確か、ふきちゃんって呼ばれてたと思うけど」

 どきりとした。

「蕗子?」

「そうそう」

「なんだ? 川中蕗子の話か?」

 前の席に座っていた男が振り返った。

「そうだ、川中蕗子。

 芸名はなんってったっけ?」

高島洋子たかしまようこ。おらぁ、蕗子の方が好きだな」

「同感だな。

 けど、顔立ちが派手だったから、蕗子って可愛い名前よりは洋子の方がしっくりきてたかな。とにかく綺麗だった」

 ふと、疑問が沸き上がった。

「川中蕗子さんはこの辺り所縁の人なのですか?」

 ふきちゃんという呼び名は幼い子供の呼び名、或いはごくごく親しい間柄の呼び方である。

「この辺の生まれだよ。

 父無し児だったけど、ちっさい頃に母親が結婚して、本人もずっと本当の父親だと思ってたみたいだ。

 近所の奴がうっかり喋って、それから何となく余所余所しくなったらしいな」

「女学校卒業直前に映画女優になるために家出して、そこそこ顔は知れたけどすぐに忘れられて、次に名前を聞いたのは主義者になったって噂だったもんだから、今じゃ大きな声で言えない名前でもあるな」

「どうして映画女優が主義者に……」

「騙されたらしいんだよ。

 これは直通から聞いたんだけどさ、仕事が無くなって名前を忘れられて腐ってる時、自分達が政権を握ったら、映画も国営になる。そん時には主役に使ってやるって言われたんだと。

  追い詰められた人間ってのはバカになるよな。後先考えずに飛びついたんだろう。

 けど、すぐに利用されてるってのに気づいて後悔しても後の祭りさ。やっぱ辞めます。じゃ済まんからな」

「直通はその人と……」

「家に戻ろうとして戻れなくて途方に暮れてたのを見つけて、部屋に泊めてやったらしい。んで、直道は俺の部屋に泊まりに来た」

 太は笑った。お堅い奴だよな。と。

 そうだろうな。と洋史は思う。直通と洋史は性格も似ていた。

「何日か泊めてやって、その時話しをしたんだって言ってたけど、その後も会ってたらしいな。

 やめとけって忠告はしたけど、笑うだけで返事はしなかった。本気だったんだと思う」
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