殺された人形

岡倉弘毅

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勘当

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 「こんな男前に興味を示さんなんざ、女とは思えん。やっぱりあいつは、男じゃないのか?」

 人によっては太鼓持ちと取られそうな言葉も、平助が言うと素直な疑問に聞こえるのはつまり、馨におもねろうという気持ちがないからだろう。

 平助は良く言えば素直、悪く言えば鈍感であり、周りの空気を読まずに言いたいことを言う。

 そうして、自分に自信があるのだろう。人は自分から離れないと考えている節があった。

「男前が苦手なご婦人がいるのも事実ですよ」

 以前、呉服屋で聞いたことがあった。

「男前が苦手? どんな理由で」

「男前が自分を気にするわけがない、きっと揶揄われているのだと考えるのだそうですよ」

「成程な。自信持ちゃいいのにな」

 男前と言われた馨は、照れもせず、平然としている。こちらもかなりの自信家のようだ。

 洋史も出会ってから数か月、有紀を男の子だと思っていたのだから、平助の言葉を、バカなこと。と言える立場ではない。

 化粧もせず、女らしい恰好もしないから尚更、有紀は中性的に見える。もしかしたら馨の方が有紀よりも女らしい容姿をしているのではないだろうか。

 改めて馨の顔を見る。一重の目は大きめで優しい。男にしては丸みを帯びた、小さな顔。

 頭の中に、三月の幼い顔が浮かぶ。

「似てる……」

 思わず正面から真剣に見つめる。

「誰に?」

 馨に問われて、自分の失礼とも取れる態度に気付き、視線を外した。

「あの……『ミモザ』の三月君に……」

「あぁ、四方君にも言われましたよ。でも、彼の方が可愛いでしょう?」

 洋史は返事に困り、取り敢えずは黙っておくことにした。

「でも、二人の人から言われるなら、気を付けた方がいいかな? ドッペルゲンガー(*)のように、命に関わるかもしれないからね」

 無邪気な声であった。


 緊張で凝った肩を回しながら下宿に向かうと、入り口に会いたくない人間を見つけてしまった。できるなら逃げたくあったけれど、着替えがどうしても必要だったし、有紀を迎えに行く時間を考えると、よそで時間をつぶすわけにもいかない。

 仕方なく、気付かない振りで早足に向かった。

「洋史」

 振り切るつもりが、足は声に反応し、立ち止まってしまった。

「この前の縁談の話ですか? 僕の気持ちは変わりません」

「ここ三日程、七時頃来ているのだが、いつも留守だな」




(*)ドッペルゲンガー  自分にそっくりな人間。同じ顔の人間が出会うと、命が縮まると言われている。
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